「お母さん」の忘れられない唐揚げの味
年末になると、どういうわけか昔のことを思い出す。
それも洗濯物を干しているときとか、散歩していたりだとか、本当にひょんなときなのだ。
私が中学3年生だったとき、大親友のバースデーパーティーに招待された。
この大親友は双子。顔や性格は全く似ていないんだけれど、私とは竹馬の友。いつも3人集まっては、ケラケラ笑っていたのだった。
この日も、部屋でたわいもない話で大笑いしていた。
・・・とそのとき、階下のキッチンから「○○ちゃ~ん!」と、友を呼ぶお母さんの声が。
「は~い!」と、元気な返事をしてキッチンに向かった友は、その1分後、大皿に大盛りの唐揚げを持って立っていた。
「うわっ!!!」
私は思わず叫んでしまった。この15年間で、こんなに大量のおいしそうな唐揚げを見たことも、食べたこともなかったから。
山のように積まれた唐揚げから、ほわほわと揚げたての湯気が漂っている。香ばしいにおいも、「ねえねえ、早く食べてみてよ」と誘ってくれる。
私たちは、またまたおしゃべりをしながら、楽しく唐揚げをいただいた。
ほこほこの唐揚げ。一口目「サクッ。」よく噛んで「ジュワー。」飲み込んで「ああ、おいしい!」
揚げたての唐揚げは、歯切れよく、肉汁が口いっぱいに広がり、食べた後はやさしいおいしさに満ちあふれた。
「ホンマに、おいしいなあ~。」
私は、この言葉を何回言ったことだろう。
もちろん、自宅でも唐揚げは食べたこともある。でも大親友の15歳の誕生日に、屈託なく笑いながら食べた唐揚げの味は、楽しさと、やさしさに包まれた最高の味だったのだ。
この日のために親友のお母さんは、何日も前から大量の鶏肉を買い、早朝から下準備をし、何時間も立ちっぱなしで揚げてくれたのだ。
娘たちのこれまでの成長と、ここに集った15歳メンバーが、これからもしっかりと歩んで行けるように。そんな思いもきっと、込められたに違いない。
15歳だった私は何も考えることなく、目の前の唐揚げをただただ、おいしくほおばっていた。
でも、大人になった今の私には、あの時の唐揚げを揚げているお母さんの気持ちが痛いほどわかる。おいしさの中には、深い愛がたくさんたくさん注がれていたのだ。なんて、幸せなことだろう…
先日、帰省したとき親友にこの話をしたところ、
「そんなこともあったなあ~」なんて、笑ってくれていた。
当時、お母さんはフライヤーを買って、家でも唐揚げをよく作っていたとのこと。
でも、お母さんは今、施設に入られていて、深い深い海の底に沈んでいるかのようで、もうそんな記憶は思い出せないらしい。
「・・・・・・。」
ショックで声も出なかったが、それでも、ありがとうの気持ちをお母さんに伝えてね・・・と友に話した。
あたたかで、穏やかで、幸せな思い出。
あの日の唐揚げの味は、絶対に忘れることができない。
私にとって、とても大切なものだから。
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