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東日本大震災を経験して。Vol.4 〜アルザス〜

Vol.3の続き。

震災から8年。立派な堤防が完成しかけていた。
海と陸とを隔離する高く灰色の壁。
単なる”堤防”と言うには些かほど遠い”要塞”。

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私は家の目の前が堤防で、海まで玄関から徒歩1分もかからない環境で育った。
海は身近すぎるほど身近な存在。
まさに写真は震災前に実家のあった場所。
堤防沿いに家々があった。
震災後、堤防の高さは倍。

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当時、堤防は堤防の意味を為さず、津波は街を飲み込んだ。
高さはマンションの5階に到達する。
それより高く堤防は作らなければいけない。

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完成しつつある堤防を見上げて。
大きな灰色のキャンバスに未来を描いて。

そして地元をまた後にした。

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フランスへ。

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フランスに着いて、レストラン巡り。
お客さんの立場として、一流のサービスについて学ぶ。
日本人の知り合いも居たので行ったり。

ひとりで予約してレストランへ。
特にも、ずっと行きたかった、オーベルジュ・ド・リル。

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料理とペアリングはさることながら、
スタッフ一人一人が会話にくる。
「いかがですか?」「楽しんで」。

料理とペアリングが良いことは大前提。
そこで生まれる人との対話が幸福感を生む。
レストランの価値になる。


日本人でフランスの田舎の高級レストランにひとりで来る珍客に話しかけたくなるのもわかるが、
それにしても、タイミングも完璧。

一流のソムリエによって幸せな時間に”成る”のだ、と。
五感フル稼働で学ばせていただいた。

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ワイナリーは「la grange de l'oncle Charles(ラ・グランジ・ド・ロンクル・シャルル)」へ。

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コルマールがすぐ近くのオスハイム村。
有名なアルザスのワイナリー「クリスチャン・ビネール」のすぐ近く。
立ち上げたばかりの、アルザス出身の2人が共同経営のワイナリー。
当時、どちらも私より一個年上の28歳。
ジェローム(上)とヤン(下)。
出会った時の第一印象は正直40歳ぐらいかと思った。
ただ、ノリノリでイケイケで、でも芯が通っていて、感性が近かった。

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そして、シャルルおじいちゃん(ジェロームのおじいちゃん)あってこそのワイナリー。
「ラ・グランジ・ド・ロンクル・シャルル」とは「シャルルおじいちゃんの納屋」のこと。
納屋を改装してワイナリーにしていて、おじいちゃんの知識も持っているワインも求心力もすごい。また、おちゃめでかわいい。
ワイナリーにとって、いなくてはならないサポーター。
とてつもなく人が良くて、すごくお世話になった。

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アルザスに関しては、事前に日本のトップソムに学び、グランクリュもほぼ全てテイスティングして、胸を張れるほど詳しくなってから行った。

ゆえに、実際、現地では”確認作業”の意味合いも大きかったのと、
アルザスで全てを学びました、という感じは個人的には無い。
そもそもいろんな国に行って、各地に行って、人に会いに行って、学んできたので、一概に言い難い。
だだ、私の今に大きく影響しているのは、間違いなくアルザスがあり、語ることははずせない地域。

ロンクルシャルルも、"師匠の一人"。

また、他のワイナリーには働きこそしなかったものの、結局横の繋がりで何度も行っていた。

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また、ロンクルシャルルはビオディナミのワイナリー。

ビオディナミも実際に深く識りたかった。
日本でビオディナミを全面に謳っているワイナリーはほぼ無い。

そもそも日本でシュタイナーを実践する必要があるのか、という話ではあるが。

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これはプレパラシオン500。
牛の角に牛糞を詰めて土中で寝かせたもの。
地球のエネルギーを吸収している。
ほぼスピリチュアル。

これを溜めた雨水に入れて、温めながら攪拌して精製していく。
そして畑に撒いていく。

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ヤンにこれをする意味を尋ねた。
すると、「俺もわからない」と。

当事者がわからないんかい!と思ったが、それはもはや「システム化」されている、ということ。
そもそもビオディナミ自体が、ひとつの栽培方法というより薬剤と権威への「カウンターカルチャー」。
また、世界中で畑が広がりすぎているので、それが良くも悪くも結果的に流通する量をコントロールする役割にもなっている。

ところが、ビオディナミを日本ではなかなかできない。というより、する必要がほとんど無い。
環境保全に対してヨーロッパほど熱狂的ではないし、そもそも畑が足りていないので量を制限する必要もまずない。
薬剤も雨が多いと使わざるを得ない。
だから言う生産者もいなくなってくる。
日本では皆が皆、高レベルのワインを求めているわけではないので、それほど必要に迫られないし、わざわざ大きな手間とリスクを取ってやることでもなくなってしまっている。

ただ、海外に売っていくのであれば、一手段として視野には入れておいた方が良い。
目的ではなく、手段として。

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また、あるとき、「ナイトハーヴェスト」をする理由を尋ねられた。
日本から、ナイトハーヴェストの岩手のワインをわざわざ持って行ってブラインドで飲んでもらった。

基本的に雨が多いのと日照量不足で糖度が低くなりがちな日本の気候。
ナイトハーヴェストは、昼間はエネルギー(糖分)を植物が使ってしまうので活動休止している糖分が蓄えられたままの夜の段階で収穫をするという方法。
日光に当たらないので酸化を防ぐ、という意味合いもある。


アルザスでは夜に収穫なんてことはしない。
「夜はみんな寝てるよ!」なんて笑われた。
日本の生産者がとても苦労して質の良いものを造ろうとしてるのに、私はそれが悔しかった。
環境要因だからしょうがないのだが。

しかしブラインドで飲ませたら「次のプルミエクリュになりうるアルザスのリースリングだね」と言われ、しめしめと思った。

環境は人間にはどうしようもない。
でも、だからこそ、環境を味方につければ武器になる。障壁になる。


特にも日本では、ブドウ栽培の好適地が限定的。
どこでもなんでもかんでも植えれば良いというものではない。

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ワインづくりには「公式」がある。
地質、地形、品種、栽培、醸造、管理、経営。
掛け算。ゆえにマイナスにもなってしまう。
やらないほうがいいことは、やはり抑えておいたほうがいい。

花崗岩土壌なのに長熟タイプの赤ワインを造るとか、
リースリングを新樽で熟成させるとか、
雨が多いのに着果位置がとても低いとか、
繋がりのない品種をただブレンドするとか、

等々まだまだあるが、「なにがしたいのか?」というワイン造りはワインのクオリティにも響き、フィロソフィーも伝わらない。

「公式」を無視してもひとつの商品として面白いクオリティの高いものができれば問題ないが、それが可能なのは「守破離」。
それは認知されていて、かつレベルが高くないとできないこと。

なんでもかんでも植えれば良い、造れば良い、それがワイン、というそんな話は現代は通用しない。
ワインはアートでもあるが「科学」。
ゆえに「環境アプローチ」「整合性」は必須。

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また、アルザスは複雑な地形・地質の地域。
やはりそれにはアプローチの仕方がある。

岩手は日本最大のジオパーク。
ジオパークとしてとても良い観光資源を持っているのに、基本的に何にも活かされていない。

「産業をつくる」が私の目標。
観光のことも包括してのワインづくり。

このまま地質をただ観に来る人がどれだけいるだろうか。
ほぼいないだろう。

ところが、ワインは地質とセット。
そして岩手は地質の宝庫。
あの地域でこの品種をこんなふうにやったらとても面白いだろうな、と私が思うのはかなりある。
それぞれの哲学があるから言い難いが。

アルザスでも、どの畑がどの地質でどの向きか、というのは一覧表にされている。
歴史が長く研究されているからこそできる業ではあるが。
わざわざ、それを見に畑に行く。
観光になる。
まちづくりになる。

これも「掛け算」。

グランクリュ・アルテンベルグのウーライト

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ランゲン・ド・タンの急な畑

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また、グランクリュ(特級畑)と呼ばれる最上級の畑はほとんどが丘。
つまり、日当たりよく風通しがよく水捌けが良い。

麦は麦で土地がしっかり分けられている。
日本でも田んぼを改良して植えることは基本的にあり得ない。
改良するにもコストがとてもかかる。そしてできるブドウが高品質な保証もない。
回収に何十年かかるのかという話になる。

アルザスでも、気候変動によってリースリングは益々難しくなっていくだろうと生産者たちも懸念していた。
いくら酸が高い品種だとしても、暑さで落ちる。酸は高いが酸化にとても弱い品種。とてもデリケート。

日本においてリースリングで大々的にブランドを立てている地域はまだ無いに等しい。
土地選定も、栽培も、醸造も、デリケート。
だからこそ、高貴な品種ではある。

また、個人的にはリースリングよりかは、実はアルザス=ゲヴェルツトラミネールのイメージは強いのだが。

そして、アルザスではプルミエクリュ(一級畑)新制定の話題が熱い。
生産者を巡って生産者が思っていることを直接聞きまくった。

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結論から言うと、生産者によって全く意見が異なる。

ただでさえ、複雑なアルザスワインをより複雑化させるので反対派と、
より観光に繋がるのと格が上がるから賛成派と。


どちらの意見もよくわかるが、賛成派は持っているグランクリュが少なかったり新しめのワイナリーだったりする。
結局、既得権益。
自分の畑のワインが売れるようになればそれでオッケー。

プルミエクリュには、ピノ・ノワールの畑も格上げされ増えてくる。
そうなると、やはり面白くない人もでてくる。
例えば、グランクリュの「ケフェルコプフ」もアルザスグランクリュ51番中最後のグランクリュ制定だったが、歴史的にはアルザスワインの始まりと言って良いくらい古く、格が高い分、しがらみも多い。だから遅れた。

日本に当てはめた場合、どうだろう?

やっと近年、日本で作ったブドウだけで造ったワインを「日本ワイン」と呼ぶようになった。

GI(原産地呼称)もつい最近制定されてきているが、県単位のGIは実質意味がない。

例えば、GI岩手は無理。広すぎる。

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まだまだ日本ではワイン法がゆるゆるだからこそ、各生産者がやり放題。
メリットもあればデメリットももちろんあるが、
ワイン産地にするのであれば、グランクリュ足り得る場所を逆算して産地化しないといずれ難しくなってくる。

いずれ、日本でのグランクリュもこの調子だと制定されてくるだろう。

なんでもかんでも計算しないで植えている畑は厳しくなってくる。
それも見越して「なぜ?」という「整合性」が必要。

ゆえに、だからこそ、初期段階の「設定」がとても大事。

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日本はまだまだワインのインフラが整っていない。
これから。
そして整えていくのは我々。

よく見る立派なワイナリー施設、真新しい醸造設備。
コンサルに言われるがままのワイナリー。
それで回収に何十年かかるのか?資金投資すべきはそこなのか?ワインの質はブドウで8割決まると言っても良い。

また、アルザスでは瓶詰めの専用トラックをワイナリーに呼ぶことが可能。
瓶詰め機は高価。ワイナリーに瓶詰め機がなくても瓶詰めが可能。
日本では法律上、外で瓶詰めはできない。
トラックはあってもいいが、"屋内"で瓶詰めしなければいけない。
ゆえに、そういったことも含めて、最初の段階でワイナリーをどうデザインするのか?は、やはりとても重要。

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まだまだ、もはやここには書ききれないことが多すぎるが、アルザスという地域で得たヒントは、自分というフィルターを通して、「ドメーヌ・ミカヅキ」に昇華されていく。

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そして、帰国。
27歳、ドメーヌミカヅキを創設。
Vol.5へ。


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