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アニメ・マンガ・ゲームなどの研究を中心に取り扱う学術雑誌メカデミア

Mechademia 10:
World Renewal

「メカデミア 第10号:世界の刷新」
Edited by Frenchy Lunning
November 2015 (University of Minnesota Press)

今回は愚痴から入る。

洋書業界はもともと小さい市場だし、今は出版業界全体が不況だし、というか日本経済全体が「失われた10年」だか「20年」だか「30年」だかからいまだに脱していないし、とにかく景気が悪い。ずっと悪い。そしてよくなる兆しが見えない。

そんななかで新型コロナウイルス、そしてウクライナ戦争、さらにイスラエルとパレスチナの戦争と、経済を直撃するようなグローバルな大事件があっての今。

ウチの会社もヤバいんだよねー

まあ相当前からヤバいけど。新型コロナの1年目なんて、ほんとにつぶれるんじゃないかと思ったし。今はかろうじて超低空飛行で水面スレスレを走行している。いつ落ちても不思議ではない。

仕事も、新刊カタログを読んでどのぐらい発注しようかとか、宣伝してみようかなんて悠長なことはやってられなくなるかも。もっと事務的というか機械的な作業に回されるかもしれない。
そうなったら、私のこのむだに蓄積された知識はどうなるのか。まあ、どうもならないよね。使い道がないまま朽ち果てていくのだろう。そんなことが、いろんな職場で、いろんな商売でおこってきたんだろうなぁ。。

ネットではなく洋書取扱い書店で洋書を買ってほしいと思っても、ネットの便利さと安さに勝てるはずもなく。

何年か前に、同じ業界の若い(といっても30代後半ぐらいか)人と話をしたとき、その方が映画研究をしていて大学院までいって研究者を目指していたと打ち明けてくれた。「でも院生のころは、洋書をフツーにアマゾンで買ってました。今でこそこういう業界にいるので店で本を買うようにしてますけど、そのころはそんなこと考えてなかったので」と言われ、そーかそーか、そーだよねー、洋書がほしかったら一番手っ取り早くて安いところで買うよねー、なんて寂しくうなずくしかなかった。

かと思うと、30代の若い数学研究者で、本は必ず勤務している大学の通いの専門書店から買う、という先生もいると聞いた。
洋書の専門書店は、かつては個人経営のところが多かった。この30年で激減して、大手書店しかほとんど残ってないけど。でもいまだにがんばっている洋書店もあることはある。それは、その数学研究者の先生のように、意地でも洋書専門書店から買うぞ、という気概のある先生方が、少数ながらもいてくれるからだ。多少高くても、だ。

私も、そういう先生方のため、洋書を愛する一般読者のために、洋書を紹介していきたい。
と思っている。
いるけどねー。

あまりに洋書が売れないので、ときどき、ついに刀折れ矢尽きたか、と思ってしまうことも、ある。

時代の流れか、とあきらめの境地にいきそうになるけど、まだなにかやれることがあるはず、なんて悪あがきとして、ここでちょっとヘンな洋書を紹介する文を書いたりしている。

いつまで続けられるかわからないけどね。

さて、今回紹介する本の話に進もう。

『メカデミア』は、ミネソタ大学教授 Frenchy Lunningが編集者を務める、アニメ・漫画・ファンアートにかんする創造的かつ批評的な論文を掲載する学術雑誌である。ミネソタ大学出版局は、この雑誌を出していることもあってか、日本のマンガ・アニメに関する研究書が多い。

さて『メカデミア』であるが、雑誌とは言いながら、ISSNではなく、当初はISBNがふられていた。出版業界に関係する者なら言わずもがなだけど、ISSNは雑誌・定期刊行物にふられるナンバーで、ISBNは書籍にふられるナンバーのことだ。

雑誌なのにISBNがつく。こういうことは、和書はよくわからないけど、洋書ではたまにある。ISBNがついてるから分類上は書籍なんだけど、実物は雑誌なので、取り扱いがむずかしい。まずペラペラである。洋書は海を渡ってやってくる。このペラペラは困る。汚損・破損しやすい。そして、雑誌なのですぐに絶版になる。そりゃそうだ。増刷なんてするわけがない。売り切っちゃったらハイ絶版。するとお客様からクレームが来る。出版して半年もたたないで絶版とはなにごとか、と。これは本ではなくて雑誌でして、なんてことをいちいち説明し、お詫び申し上げないといけない。正直、あんまり扱いたくない商品である。

それはともかく、この『メカデミア』。第1号は2006年に刊行されている。

第1号は日本のポピュラーカルチャー特集で、マンガやアニメ、そしてそこから派生したおもちゃ、カード、ビデオゲーム、ファッションなどについて、さまざまな研究者によって書かれた論文を収録している。

特筆すべきは、マンガ・アニメの双方向性に着目している点で、コスプレの起源や、ビデオゲームとの相関性、アメリカにおけるアニメファンのコミュニティーについて取りあげている。

『メカデミア』は今も続いているが、書籍として刊行されたのは第10号まで。そのあとはSecond Arc(シーズン2みたいなもの?)として、雑誌として刊行している。

第3号のテーマは「人間の限界」Limits of the Human。

人間の潜在的可能性と限界について、posthuman=ポストヒューマンという、人間を越えた状態で存在するものを設定することで、考察していこうという、なんだか哲学的な内容だ。

扱われる題材は、水木しげるの漫画や、日本のゴスロリ(なんで?)、手塚治虫の『鉄腕アトム』、ガンダム、Ghost in the Shell 2: Innocenceなど。なんだかおもしろそう。

ちなみに『メカデミア』のホームページは下記。

ちゃんとconference=国際学術会議もやっている。なんと日本で3回も開かれており、第3回目は去年、京都で行われていた。京都国際マンガミュージアムと京都精華大学が会場だったらしい。

どんな内容だったのかな。
と思ってたら、ちょうど先月アップされたレポートがあった。

アニメ・マンガ研究の成熟から展開される新たな方法論への議論 
2023年「メカデミア国際学術会議」レポート
(スティービー・スアン)

今回のテーマは、Aftermath=「余波」。いろいろなとらえ方が可能なテーマであるが、このレポートによると、「本会議では生態系崩壊のあとの社会を描写するアニメからホロコーストについての少女マンガに至るまで数多くの作品が分析された。」

私なんかは余波と言うと、やはり3.11のことを考えてしまう。あれから13年。マンガやアニメでも、3.11について取り組んだ作品がいろいろ出てきただろう。どういう作品があって、どういう傾向があるのか。どういうふうに受容されたのかなどをまとめた論文があれば読んでみたいな。


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