Kyoko Nitta

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Kyoko Nitta

日英のノンフィクションの翻訳をしています。note では、カナダの文化&書籍情報、翻訳がらみの寸劇動画を紹介。翻訳実績だとか日々の忘備録は、kyokonitta.com に載せています。

マガジン

  • 書評講座 Vol. 6

    • 5本

    課題書:1)ハリケーンの季節(フェルナンダ・メルチョール著、宇野和美訳、早川書房)、2)自由選書

  • カナダの文化を紹介する

    • 17本
  • 書評講座 Vol. 5

    • 5本

    課題書:1)ものまね鳥を殺すのは:アラバマ物語(ハーパー・リー著、上岡伸雄訳、早川書房)、2)「神は俺たちの隣に」(ウィル・カーヴァー著、佐々木紀子訳、扶桑社ミステリー文庫)、3)自由課題

  • 書評講座 Vol. 4

    • 8本

    課題書:1)インヴェンション・オブ・サウンド(チャック・パラニューク著、池田真紀子訳、早川書房)、2)自由課題

  • 書評講座 Vol. 2

    • 6本

    課題書: 1)『掃除婦のための手引き書』- アメリカ、ルシア・ベルリン著、岸本佐知子訳、講談社、2)『ハムネット』- イギリス、マギー・オファーレル著、小竹由美子訳、新潮社

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カナダで起きた MeToo 事件 - Nothing But the Truth

アメリカの大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインシュタインに対し、何人もの女優たちが声を上げ、MeToo運動が起き、ワインシュタインは失墜し、罪に問われた。2017年のことだ。 それに先駆け、2014年、カナダではCBCの人気ラジオパーソナリティ、ジャン・ゴメシが3人の女性に性暴力で訴えられ、即時CBCから解雇され、社会的制裁を受けた。ただ、ワインシュタインの場合とは違い、ゴメシはすべての訴えに対して無罪になった。もちろん、その判決に納得する女性は少なかったし、何より、

    • <書評>『ハリケーンの季節』(フェルナンダ・メルチョール著 宇野和美訳 早川書房)

      「翻訳者のための書評講座」の第6回目では、課題書『ハリケーンの季節』の書評に挑戦。今回、私が感じた小説の読みどころと関係してるんじゃないかと思った「情報」を800字の字数内に入れる挑戦をしてみました。 講評と合評では、「それより、小説の構造などの説明に字数を割いたほうがいい」との意見が圧倒的でした。一方で、「これを入れるならもっと小説とつなげる努力をしたほうがよい」という叱咤激励を頂戴しました。 提出段階で、書評本文に書名を入れておらず、誤字もあり、その上、小説とは関係な

      • 『インヴェンション・オブ・サウンド』書評

         この小説は音であふれている。犬の遠吠え、ワインをグラスに注ぐ音、錠剤を奥歯でかみ砕く音、真珠のネックレスをはずす音、録音テープのざらざらした再生音、サイレンやエンジンの音、電飾の電球がはじけ割れる音、建物が崩れ落ちる音、そして悲鳴。  それもそのはず、主人公の一人、ミッツィ・アイブズはハリウッドで音響効果技師をやっていて、「悲鳴」作りにかけては定評がある。音源を売らずにライセンスを売って暮らす彼女の録音スタジオは、絶対に音が漏れないような厚いコンクリートで覆われ、どんな音も

        • 洗剤や消毒の匂いが漂う『掃除婦のための手引き書』

          第2回目の書評講座は4月中旬だったのですが、ようやく書き直しをここに掲載することができました。「書き直し」、講評と合評で心に残ったコメントと意図、そして「修正前」の順番で載せます。 書き直しバージョン  本書を手に取る人はきっと『掃除婦のための手引き書』という不思議な題に興味を惹かれるだろう。ところが、表紙の写真は掃除婦らしからぬ美しい女性。小粋に煙草を指に挟んだまま、微笑を浮かべて遠くを見つめる目は達観し、何事も見逃さないような印象を与える。この女性が著者のルシア・ベル

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        • 書評講座 Vol. 1
          11本

        記事

          St Lawrence Seaway

          セントローレンス海路というのを皆さんはご存知ですか? カナダ東部の大西洋、ニューファンドランド島からセントローレンス川を通ってケベック、トロントなどを通過し、五大湖をつなぐ長い海路のことです。「海路」といっても途中からは淡水になるのですが…… 水位は五大湖のほうが高いので、スペリオル湖、ミシガン湖、ヒューロン湖、エリー湖の水が、ナイアガラの滝からオンタリオ湖に流れ落ち、セントローレンス川を流れて大西洋に注ぎ込みます。ですから、途中いくつもの運河や水門があります。 この海路

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          妄想の中の『エルサレム』

           ポルトガルの小説家ゴンサロ・M・ダヴァレスが描いた小説『エルサレム』(木下真穂訳)はこんな話だ。  自称「統合失調症」を患うミリアは、患者として精神科医のテオドールと知り合い、結婚する。その後、病状が悪化して精神病院に長期入院するのだが、そこで患者のひとり、エルンストと知り合い、恋仲になる。病院では、何が重要で重要でないのかは精神科医によって決められ、患者たちは常に監視され、厳しく統制され、治療の一環として、自分の思考や行動、習慣を棄てなければならない。患者たちはいつか本

          妄想の中の『エルサレム』

          カナダ総督―時代に合わせて多様性を配慮

          カナダにはイギリス国王の代理を務める「カナダ総督」が今も存在します。「え?」っと驚かれる人もいるかもしれませんが、ま、それはさておき、2021年7月、第30代のカナダ総督が任命されました。新総督のメアリー・サイモンは、カナダ先住民イヌイットで、イヌイット語も話します。初の先住民出身のカナダ総督の誕生です。任命式では、英語とフランス語だけでなく、イヌイット語でも挨拶していました。歴代総督に比べると、フランス語が弱いので、「これからもっとフランス語能力を磨く」ことを公約しています

          カナダ総督―時代に合わせて多様性を配慮

          THE BREAK ―断ち切れない負のスパイラルの中で生きる

          カナダの真ん中に広がる平原地帯にマニトバ州ウィニペグ市はある。その街には、先住民の一族、四世代の女たちがそれぞれに暮らしている。 一族の中に裕福な暮らしをしている者は一人もいない。男たちは家庭をほったらかして風のように消えていき、残された女たちは子育てをしながら悶々としている。時に、彼女たちは自己を肯定できず、酒やドラッグの誘惑と背中合わせに暮らしている。彼女らの子供たちも、油断していると半グレ集団に誘い込まれかねない世界で生きている。 ある日、一族のひとり、ステラがレイ

          THE BREAK ―断ち切れない負のスパイラルの中で生きる

          カナダの建国――いつを起点に歴史を語るのか

          カナダでは毎年6月は、カナダ先住民の「ヒストリー・マンス」(National Indigenous History Month)といって、先住民の歴史を振り返り理解を深める1カ月になっています。ところが、今年2021年の5月、ブリティッシュコロンビア州のカムループスという町で、先住民の子どもたちの遺体が多数発見される事件が起き、先住民の苦渋の歴史が連日報道されました。日本でも報道されたので記憶に新しいでしょう。ニューヨークタイムズのポッドキャスト「The Daily」でも取り

          カナダの建国――いつを起点に歴史を語るのか

          The Fan Brothers

          カナダのトロントにファン兄弟(The Fan Brothers)という絵本作家がいます。どっちが兄で弟なのかは不明ですが、エリックとテリーの二人……だと思っていたら、デヴィンという人もいて、三人兄弟であることが発覚しました(私が知らなかっただけですが)。兄と弟の区別をせずにはいられないわけではないのですが、日本語で書くときは知っておいたほうが便利。英語だと young か old の形容詞を付けないかぎり、兄なのか弟なのかわかりませんから、翻訳するときに苦労するんです……

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          A Man of a Small Calibre

          カナダではワクチン接種が進んで新型コロナウィルスの新規感染者が激減し、経済再開が進んでいます。しかし、デルタ株が増えてきている……。 そんなわけで、お店の中に入るにはまだまだ必ずマスクをしなくてはならないのですが、夏になってマスクで顔を覆うのがつらいのと経済再開の喜びから、マスク着用を嫌がる人もいます。先日、マスクをしていないおじさんが、スーパーマーケットへの入店を拒否され、店頭でごねていました。若い店員さんが気の毒でした。 揉めている間、後ろで待たされた私は「器の小さい男だな」と心の中でつぶやきました。このような状況で男性に対しては「XXが小さい」という表現がよく使われます。文化的に「男たるもの大きくあれ!」と求められるのですね。しかし、女性とて同じです。 そこで、「A man/woman of a small calibre」という表現を紹介しましょう。Calibreは「器量」の意味です。 英語を学びはじめるとき、ポジティブな表現や自分を卑下する表現をまず学び、ちょっとむかついたときなどに言いたい言葉は後回しになります。「I’m angry」と言いながら地団駄を踏むくらいしかできません。しかし、それは語学学習におけるサバイバルスキルなのです。幼児が母語を学ぶ場合と同じです。まずは「ママ、ママ!」と可愛い言葉を発し、「このババア!」と言えるようになるのは、自分の足で走って逃げる能力を体得してからです。語学学習でも、人をけなす表現を学ぶのは、外国語である程度自己弁護できるようになってからです。そこに行き着くまでは、腕力に頼るか、我慢するかの二択です。英語学習、がんばりましょう!

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          This will go with me to my grave

          誰にも言えない秘密を「自分の墓場まで持っていく」と言いたいときの英語です

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          I was miles away

          日本語で「あ、今、ぼうーっとしてた」と言うとき、比喩的に「あ、ちょっと今遠い世界に行ってた」と言うことがあります。英語だと「I was miles away」です。比喩的にではなく、本当に「遠く離れたところにいた」の場合も、「I was miles away」ですが。 「mile」が使われているので、これはアメリカ英語ですね。イギリス英語だとどうなるんでしょう? Kilos away??? なんか響きが悪いですね。別の表現がありそうです。カナダ英語は、文化的にはイギリスの影響が強くても、地理的にアメリカに近いので度量衡に関しては入り混じっています。なので「I was miles away」と言っても通じます。 カナダで難しいなと思うのは布を買うときです。店員によって、ヤード(yard)、メートル、インチのどの単位で注文しても、換算して「単価はヤードだからこれくらいになるけどいい?」と親切に対応してくれる人もいれば、メートルで注文すると、「うちはヤードでしか売らないから!」とぶっきらぼうに言う人もいます。 ところで…… 先日「ピヨちゃん」を初登場させた動画の再生回数が桁外れに多く、驚きました。そして、なんと、初めての「dislike」を獲得しました! この動画チャンネルは「ユーチューブ」という大海の一滴にもならず、わずかな回数しか再生されていないので、ある意味、「dislike」は一大ニュースです。

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          My lips are sealed

          英語でも「My lips are sealed.」と言いながら、指先でチャックを閉めるような仕草をする人もいます。その辺は、国境ないんでしょうか。他の言語だとどうなんでしょう? 「絶対誰にも言わないでね」と言ったって、人のお口にチャックなどできません。秘密とは不思議なもの。誰かに秘密を打ち明けられると「信頼された」と思ってうれしくなる反面、それを誰かにばらして、信用を裏切ってしまうのです。 なーんて言うと、「やだやだ、自分のことは絶対誰にも言わないでおこう!」と思うかもしれません。 でも、自分の苦しみを他人に打ち明ける行為は、自分を客観視する第一歩のような気がします。苦しみや悲しみの主人公になっている間は、そこから抜けられない。だって、主人公なんですもの。 とはいえ、人に苦しみを打ち明けるとき、何も赤裸々にぜーんぶ話す必要もないと思います。文章を書いたり、絵を描いたり、俳句を詠んだり、写真を撮り歩いたり、何かしら自分の思うままにできることで、心の中の黒いものを浄化させて表現するのもいいかなと思います。 話は変わり、動画に新しく登場したピヨちゃんですが、他の2つ(キクとタマ)と同じメーカーのものなのに、この子はやたらとはきはきしゃべるのです。開けてびっくりです。実はそれぞれに癖があり、猫のタマは、私がしゃべっている先からものまねしはじめるので、結構大変です。トイプードルのキクちゃんは、英語を話す設定なのですが、英語の子音をうまくキャッチできません。まあ、英語ネイティブでない私の英語がうまく聞き取れていないだけなのかも……

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          I took the rap for it

          「rap」には「非難」という意味があります。「I took the rap for it. 」は「かばってあげた」「かばってやったんだよ」くらいの意味です。「I took」で始まるくらいですから、積極的に罪をかぶってます。 無償奉仕という言葉がありますが、それはバランスがとれている場合にのみに通用するものだと私は思います(主従関係がはっきりしている関係とか、相手が「公共」「大義」「神様」のような自分よりも大きな存在の関係とか。平等でない関係のほうが無償奉仕しやすくないですか?)。「XXXしてあげた」が「XXXしてあげたのに」に変わるとき、バランスは崩れているのです。崩れているバランスを直すとき、なぜか人間は「ただでは置かないぞ!」と思ってしまいます。裏切られたと思うからでしょうか。最初の一歩は無償奉仕のはずだったのに。複雑ですね。 ところで…… 動画の投稿は久しぶりです。ずっと前に撮りためてあったのですが、編集する時間がなかった。この4カ月間、私の中では大書を訳していました。数えたら、これで11冊目でした。2014年に出版翻訳を始めたので、なかなかよいペースで仕事を受けているのではないかと思います。出版翻訳を始めるにあたり、諸先輩方に「10冊やって一人前だと思ってもらえる」と言われましたが、今はその言葉の意味がよくわかります。それは、翻訳の技量だけでなく、時間配分を自分で決めてスケジュールどおりに仕事ができるか(たった一人でやるのでプレッシャーがすごい)、次につながる仕事ができているか(思うように仕事がはかどらず、原作者など他人のせいにしたくなる誘惑に耐える)、ある種のことをペラペラSNSで言わないとかが試されているのだと思います。それに、10冊もやると、様々な関係者から厳しいフィードバックをもらうので腕も磨かれます。 文筆業って自己実現じゃなくて「職業」なんだな、としみじみ思います。はるか遠いところに「自己実現」のゴールはありそうな職業ではありますが。

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          I'm melting

          私の住んでいる北国では、30度を超える日はそんなに多くはないですが、30度を超えようものなら、「暑い暑い!」と騒ぐ人が半分、長い冬のつらさを思い出して「夏を楽しめ!文句言うな!」とたしなめる人が半分、といった印象を受けます。しかし往々にして、「暑い」という言葉は繰り返されると、うっとおしいものです。 そこでもう少しポジティブに「I’m melting!」と言ってみることを提案。「溶けてしまいそう!」の意味です。結婚式でバージンロードを歩くとき、感動で足がすくみ、せっかくのお化粧が流れるほどの涙を流してしまいそうなときには、down をくっつけて「I’m melting down!」と言うのもありです。 食料品を両手に抱え、お母さんが帰宅する。お母さんは汗をだらだら流しながら、「溶けそうやわ!」と一言。それを聞いた子どもは、「そうか、お母さんは溶けるほどに暑いのか」、よし、ここはひとつ、うちわであおいであげよう…… と親孝行。 お母さんも決して、「I’m melting! Melting! Melting!」とこれ見よがしに何回も言ってはなりません。人前で(←ここ重要)ドラマチックに「I’m melting!」と一言発し、買い物袋をドサッと床に置く、これだけでいいのです。 「Melting」と言えば、「Melting Snow」を「残雪」とか「なごり雪」と和訳したりしますが、逆転の発想は、翻訳の基本技術のひとつでもあります。 ところで、今回動画に使ったミニチュアのオレンジジュースは、最近買ったものです。まねっこのぬいぐるみたちには小さすぎます。ミニチュアの世界では縮尺が重要なのです。

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