見出し画像

【エッセイ】紛失癖

荷物を必要最低限にしろと言われたら、財布、スマホ、鍵、そしてリップだ。口紅は気分によって塗るくらいだけど、唇は常に潤っていたい。加えて唇が乾きやすいので、リップは必須アイテムだ。

かつてドラッグストアに勤めていた彼は、ドラコスに割と詳しい。付き合い始めた頃、私の唇のひび割れを見て「このリップは油膜でカバーするんじゃなくて、ちゃんと潤い成分が入ってるから良いよ」と言い、さりげなくリップをプレゼントしてくれた。

ユリアージュ。すぐになじんで潤うのでおすすめ。


自称•非ロマンチストなのにこの心遣い。キュンとしないわけがない。

それ以来、おすすめされたリップを愛用している。それ自体が良いからということもあるが、彼の優しさがうれしくて、あのときのことを忘れないためにずっと使っている。

彼との大切な思い出になったリップだが、私はもともとすぐにリップを無くてしまう。彼におすすめされたリップも例に漏れない。

物を落としたり無くしたりすることは少ないほうだが、リップだけは違う。定位置に置くのが苦手かつ、常に何か考えながら動くから、無意識のうちにてんで違う場所に置いてしまう。それで、どこに置いたのか忘れてしまうのだ。

こんな具合なので、無くならないようにデスク、仕事バッグ、買い物バッグ、ポーチに入れるために4本一気に買った。それでもやはり1本は行方不明のまま。私のリップ紛失癖はなかなか手強い。

しかし、最近ようやくリップを無くすことが少なくなってきた。常に定位置に置く、バッグならポッケに入れるなど徹底していたら、「どっかいっちゃった!」ということが少なくなってきた。彼との思い出のリップを機に、ようやくリップを丁寧に扱う癖が身に付いてきたのだ。

タイミング同じくして、口紅を塗ることが増えた。韓国コスメを機にティントやらキラキラリップが流行り、若い美容系インフルエンサーもドラコスの口紅を絶賛している。それに感化され、口紅欲がムクムクと湧き上がった。最近メイクに目覚めたこともあり、新たに口紅を買った。


ドラコスの代表・KATEの「LIP MONSTER」。売り切れ続出で一時期買えなかったようだが、最近ドラッグストアで売っていたので購入してみた。

テクスチャーはリップに近く、軽い塗り心地。それなのに発色が良く、しかも落ちにくい。確かにこれは売れるわ〜と実感。すっかりお気に入りとなり、地元で外食するときや仕事で都心に行くときは必ず塗るようになった。

早速、外出コスメのレギュラーメンバーになったわけだが、リップ紛失癖が再発する。


「LIP MONSTER」は、お試しとして1本だけ買った。予想以上に気に入ったのでいろんなシーンで持ち歩くようになった。すると、いつどこに入れたのかがわからなくなった。昨日がそうだ。

昨日は毎月恒例のグルメ会。数年待ちの予約困難店だから、いつもより念入りにメイクをして、先日買ったばかりのワンピースを着て向かった。

程よいフィットアンドフレアのベージュのシャツワンピースは知的な雰囲気。そのままでも充分素敵になれるが、口元に彩りがあるほうが全体的に洗練される。

間違いなく「LIP MONSTER」が必要なのに、どこを探しても見当たらない。


結局、見つからなかったので再び買った。せっかく買うならと、今回は前回と違う色を購入。気になっている色だから買って良かったが、やはりすぐに紛失壁は治らないと痛感した。

一夜明けて、捜索活動を開始。仕事用バッグや買い物に行くときに使うトート、ポーチを探しても無い。諦めかけていたそのとき、ふとデスクに目がいった。

イヤホンやらUSBやらが入った小物入れの中にそれはあった。おそらく、オンライン会議のときにすっぴんはまずいからと最低限の化粧として塗ったまま、ここにポイっと置いたのだろう。

ごちゃごちゃに溢れた小物の中で口紅のケースが黒光りしていた。

丁寧に扱うとか複数買うとかの前に、整理整頓することが喫緊の課題と気がついた。これを乗り越えてから丁寧な扱い方を身に付けないと意味がない。まずは散らかっている場所を整える。扱い方はそれからの話だ。

とりあえず、昨日買った口紅と共にポーチの内ポケットに収め、デスクの上を整理することにする。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?