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『落下する夕方』 江國香織

発売前ゲラキャンペーン?に当選した花田菜々子さんの『シングルファーザーの年下彼氏の子ども2人と格闘しまくって考えた「家族とは何なのか問題」のこと』に登場した本。華子さんという女性はモテモテで小学生男子にすらモテるという。どんな人か見てみたい。

主人公はこの華子ではなく、梨果という女性。8年間一緒に暮らした健吾がこの華子を好きになって家を出て行ってしまう。梨果はまだ健吾を好きなので、憎むべき相手である華子だが、なぜか出て行った健吾の代わりに一緒に住むことになってしまう。別な女を好きな男なんて嫌いになれたらいいのに。他にも男がいる女なんて嫌いになれたらいいのに。でも嫌いになれない。頭ではわかっていてもどうにもならない恋愛の機微が描かれている。当人はしんどいけれど、傍から見ていると、「人生を満喫しとるのう、その煩悶も人間の魅力じゃのう」(誰?)という感じがする。

1996年に出版されたらしいこの本の時代には、携帯電話がなくて、相手の職場に電話を掛けたりする。ジェルネイルなんて普及していない時代だから、梨果や華子はエナメルを塗る。ネイリストさんに作ってもらった完成度の高い爪を光らせるよりも、ちょっとはみだしたりしながらも自分で色を乗せ、乾くまでぼんやりと時間を過ごす、という行為をはらむエナメルの爪は色っぽい。

華子の性格や行動が本の端々に出てくるが、「これは惹かれてしまうな」と私にはまだ思えなかった。私は十代の頃に読んだ吉本ばなな作『TSUGUMI』を思い出す。ストーリーは思い出せないが、つぐみのある言動を20年後の今も思い出せる。強烈な美少女の名は本のタイトルにもなっている。一方でこの小説のタイトルは『落下する夕方』。華子はその要素の一つ。思い通りにならない恋のけだるさの手触りを、文字の連なりから感じる本。

162.『落下する夕方』 江國香織

2020年読んだ本(更新中)
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2019年読んだ本:77冊
2019年読んだマンガ:86冊
2018年読んだ本:77冊
2018年読んだマンガ:158冊

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