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『よなかの散歩』角田光代

私は料理は得意ではないが、食べることは相当好きで、それを人と分かち合うのが大好き。食いしん坊の文章を読むのも大好き。素晴らしい着眼点と感性、そして表現力をもつ作家によって紡がれる食べ物話の素晴らしさよ。この本は「料理がめっぽう好き」な角田光代さんによる『オレンジページ』連載のエッセイ。

角田さんの食べ物愛に「そうそう」と激しく同意したり、「こ、この人すごいな・・・」とちょっと引いてみたり。人でも食べ物でも「もっと早く会っておきたかった」と思うことがあって、でもこのタイミングで出会えたからよかったのだ、という話、とてもよくわかる。角田さんは「餅、私にこんなに愛されているなんて、思ってもいないだろうなあ」というくらい餅が好きだ。あまりにも好きで食べやめられないのがこわいから、大晦日に買って正月休みだけ食べるだけにとどめているという。その文章は餅への純粋な愛と情熱に満ちている。満ちすぎていて、ついていけない側からはイビツにさえ見えるだろう。圧倒的な熱量。オタクでもなんでも愛と情熱をふんだんに発揮している人を私は素晴らしいと思う。

食べ物への愛(と執着)に満ちた角田さんの書く「うまいッ」の一言は、自分の「うまいッ」を蘇らせる。「あの」感覚でしょう?と。舌にのせて全感覚が開く感じ。目が大きくなって、頭皮の毛穴が開く。予想を超えるうまさに、そんなうまいものと出会えた行幸に、驚いてしまうような。なぜ、こんなおいしいものがここに?奇跡の出会い・・・食材、料理人、農家の人、ロジの人、ああもうすべてにありがとう、ありがとう、ありがとう・・・みたいな至福と賛美の感覚。すべての人がそんなに食べ物に興味があるわけではないので、そういう人と出会えると本当にうれしい。角田さんは間違いなく、その側の人だ。

食べ物に関してだけではなくて、「化粧品は使い切ることができるのだろうか?」(私も5年前に免税店で買ったメイクパレットの底が見えない)といった食以外のエピソードも含まれている。食べ物への情熱とは逆に、化粧品への執着のなさなども含まれているのだ。テンションの上下、盛ったりしない普通の生活が垣間見えて「この人好きだなあ」と思った。残念なのは私は大した酒飲みでないので、酒部分がよくわからなかったこと。食べ物と酒が大好きだったら、さらに楽しめただろうなあ!

109 よなかの散歩


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