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『生きるとか死ぬとか父親とか』ジェーン・スー

「愛しい男」なんだろうな、ジェーン・スーさんにとってお父さんは。ラジオやエッセイで活躍しているジェーン・スーさん(日本人)の父との愛憎話。空襲を生き延び、会社を経営し、銀座の素敵なお店で買い物をしたり、おいしいご飯を食べたりしていたかと思えば、4億の借金を抱えたり、ユニークなキャラクターで女性を虜にしたり、娘にお金をかわいく?せびったり。父と娘の潤滑油だった母が早くに亡くなり母のように話が聞けなくなる前に、とジェーンさんはお父さんに話を聞いて文章に書く。この本の印税はお父さんに渡しているらしい。

私の父は毎日必ず同じ時間に帰ってくる元公務員で、飲みに行ったりなんぞしない。職場の忘年会も行かない。友達は4年に1度オリンピックの年に同窓会を開く大学の友人のみ。家族に仕事の愚痴をこぼしたことはないが、夜中うなされているのは何度も聞いたことがある。うちの家族は基本的に善良で優しいけれど不器用だからうまく愛情表現ができず、伝わらない。たぶん私は彼の中で、大切人間ランキングの1位か2位とかだとは思うが(同率含む)、彼は相手に自己肯定感を与えるような愛し方はできない。一番身近な「お父さん」がそういう人で、ほかに大人の男が身近にごろごろいるような環境ではなかったので基本的に「お父さん」という人たちがよくわからなかった。通勤電車に乗っているスーツのおじさんたちの人格がわからなかった。LEGOの人形みたいに表情がわからなくて、記号みたいなのだ。

それが、自分がアラフォーになり、先輩や友達が「お父さん」になって、飲みながら、管理職でがんばってるとか、毎日仕事行きたくないと思ってるとか、熱帯魚について切々と語るとか、戦隊モノはイケメンとグラビア女子で構成されているから両親ともに視聴を妨げないとか、エロい話や女の子がやっぱり好きとか、そういう気持ちを知るようになって「お父さんって1人の人間たちだったんだなあ」とやっと思うようになった。(あの人たち、ほんと頑張っててすごい。)

私の父親はまだ、かなりLEGO人形で、全然わからない。私にとって彼は「愛しい男」なのかと考えてみる。「Yes」。「もっとこうしてほしかった」ということばかりで全然理想的な関係でないけれど、唯一無二で長い日々を重ねてきた人。ジェーンさんと同様に、私もあの人が気になって、わかりたくて、本当は仲良くしたくて、でもどうしてもできなくて、何度も何度もくりかえすんだろう。

104 生きるとか死ぬとか父親とか


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