狂猫病

物語の構造、面白い物語の本質とは何かを考え出すと止まらなくなってしまう暇人です。 映画…

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物語の構造、面白い物語の本質とは何かを考え出すと止まらなくなってしまう暇人です。 映画・小説・アニメ・ゲームなどについて、感想や解説を発信していこうと思います。

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  • 『パラサイト 半地下の家族』解説 まとめ

    これまでに書いた『パラサイト 半地下の家族』解説のまとめです。 ストーリー構造を中心に、作中の描写から読み取れる主要キャラクターたちの内面、作品テーマなどを深堀りしました。 ※ 全記事とも本編ネタバレを含みますのでご注意ください。

最近の記事

アニメ版『チェンソーマン』が「邦画っぽい」と言われてしまう構成上の理由

アニメ版『チェンソーマン』は十分に良作といえる水準の作品であったにもかかわらず、特に原作ファンからの評価が辛く、「勢いが足りない」「単調」「邦画っぽい」などと評する声が少なからず聞かれました。 私も原作を先に読んでいたのですが、両者を比較すると、緩急を自在にコントロールしている原作のストーリー展開に対し、アニメ版はどこか一本調子で散漫な印象を受けました。 実際にはアニメ版のストーリー展開は原作の流れを忠実になぞっているので、両者の印象の違いには不思議な驚きがあります。 ま

    • サム・バーロウ監督作品『Immortality』(イモータリティ)の謎を考察(ネタバレあり)

      『Her Story』『Telling Lies』といった革命的な作品を送り出してきたADVゲーム界の鬼才、サム・バーロウ監督の最新作『Immortality』に関する考察を試みてみました。 前二作と同様に物語の全体像を把握しにくいゲーム構造のうえ、今作は「3つの映画作品の未完成フィルム+α」をいろいろな角度から読み解かなくてはならないので、理解のハードルが非常に高いと感じました。 スタッフロールを一度見ただけでは「何が起こっていたのか」を掴むのも困難なゲームですが、テーマ

      • 『パラサイト 半地下の家族』感想

        ※ 以下、『パラサイト 半地下の家族』のネタバレを含みます。 これはTwitterのほうには何度か書いたのですが、『パラサイト 半地下の家族』について、初見時にはあまり良い印象を受けませんでした。 面白いか面白くないかで言ったら間違いなく面白かったし、編集や撮影といった面でも技術的に非常に高度なことをしているというのは素人目にさえ明らかでした。 しかしなにかこう釈然としないモヤモヤしたものが観賞後に残っていて、それは主にストーリー面について、特に前半からの期待が後半でし

        • 『パラサイト 半地下の家族』ストーリー解析⑥ 小ネタ落ち穂拾い

          今回は、これまでの『パラサイト 半地下の家族』解説で取り上げることのできなかった小ネタを拾っていこうと思います。 作中で繰り返し描かれていたモチーフ、一瞬だけのカットに垣間見えたキャラクターの性格、一般的な考察で取り上げられがちな説などについて確認していきます。 ※ 以下ネタバレを含みますのでご注意ください。 要所に登場する、背景としての「車」キム・ギテクとパク社長(あるいはヨンギョ)という、本来隔てられた階層に所属する二人が狭い空間を共有するための小道具(または舞台)

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        • 『パラサイト 半地下の家族』解説 まとめ
          7本

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          『パラサイト 半地下の家族』ストーリー解析⑤ パク家の人々と「ブラックボックス」

          『パラサイト 半地下の家族』に登場する富裕層側の登場人物たち────特にパク・ダヘとダソンの姉弟、さらにその母親であるヨンギョについての分析を、本稿ではまず試みてみようと思います。 主人公側のキム兄妹────ギウとギジョンの持つ複雑な内面に比べて、パク姉弟の造形はかなりあっさりした描写がなされているように見えます。 しかしながら、この姉弟が真に抱いている欲求は本作の主題と密接に関連付けられており、作品を深堀りしていくうえでは避けて通ることのできない重要なポイントとなっていま

          『パラサイト 半地下の家族』ストーリー解析⑤ パク家の人々と「ブラックボックス」

          『パラサイト 半地下の家族』ストーリー解析④ キム・ギテクの衝動 後編

          前編からの続きです。 ギウの父ギテクが「あの行動」に走ることになった原因について、作中の描写から分析を試みています。 ※ 以下ネタバレを含みますのでご注意ください。 完地下の男、オ・グンセ前任家政婦ムングァンによって明かされた「完地下」に住む男、それがオ・グンセです。 このグンセというキャラクターの存在は、パク邸における「おこぼれ利権」の競合という葛藤をキム一家にもたらしただけでなく、ギテクの内面に対して非常に大きな脅威となりました。 グンセは、ギテクが最も恐れている

          『パラサイト 半地下の家族』ストーリー解析④ キム・ギテクの衝動 後編

          『パラサイト 半地下の家族』ストーリー解析④ キム・ギテクの衝動 前編

          「解釈の網を抜けていく魚になりたい、そういう衝動がある」とは、本作公開後のポン・ジュノ監督による言です。 (参考:WIREDインタビュー) 『パラサイト 半地下の家族』作中で最も解釈の難しい場面の一つが、ギウの父親ギテクの「あの行動」に関するものでしょう。 ネット上でもその解釈についてはかなり意見の割れるところに見えますが、ギテクの心情に観客を共感させることにはおおむね成功しているように思えます。 これはまさに本作が、「解釈の網を抜けていく魚」になっている証左と言えるでし

          『パラサイト 半地下の家族』ストーリー解析④ キム・ギテクの衝動 前編

          『パラサイト 半地下の家族』ストーリー解析③ 復讐と悲劇のヒロイン

          ギジョン、兄が一人、ソウル市街の半地下居住、予備校に通えない美大志望の浪人生──── まぎれもない、『パラサイト 半地下の家族』におけるヒロインの一人です。 ヒロインは元来ヒーロー(英雄)の女性形としての単語ですが、本稿においては主人公(プロタゴニスト)が物語を通じて強く(手に入れよう、救おうと)欲する対象であると定義して使用していきます。 他人の物を平然と盗むモラルの低さ、したたかな策謀家、そして作中唯一の喫煙者。 通常ならばヒロインとしてはマイナスとなる要素ばかりを付

          『パラサイト 半地下の家族』ストーリー解析③ 復讐と悲劇のヒロイン

          『パラサイト 半地下の家族』ストーリー解析② 主人公ギウの抱いた夢

          『パラサイト 半地下の家族』のストーリー構造を分析するために、物語の最重要人物である主人公キム・ギウがどのようなキャラクターであったのかを確認してみましょう。 おしなべて物語は、主人公がいかなる変化を遂げるのかを描くものです。 そもそも主人公は本当にギウでいいの? クレジットやポスターでは父ギテクのほうが中心に見えるけど? と感じる方もいらっしゃるかもしれません。 たしかに、ギウを演じたチェ・ウシクはクレジット順において2番目となっていますが、これはギテクを演じた韓国の偉大

          『パラサイト 半地下の家族』ストーリー解析② 主人公ギウの抱いた夢

          『パラサイト 半地下の家族』ストーリー解析① 構成

          映画『パラサイト 半地下の家族』はご存知のように、カンヌ映画祭パルム・ドールやアカデミー作品賞を受賞するなど、その作品性が高く評価されています。 しかしながら表面的なストーリー自体はいたって明快であり、いわゆる「通好み」の映画にありがちな、大衆をふるいにかけるような難解さはありません。 脚本も担当したポン・ジュノ監督が作り上げた本作の物語構造はいかなるものだったのか? ストーリーを分解し、そこからキャラクター造形、用いられているモチーフや隠されたテーマなどを分析することで、

          『パラサイト 半地下の家族』ストーリー解析① 構成