(神の)見えざる手って・・・

 前回に引き続きクリティカル・マネジメント研究 (Critical Management Studies:CMS) という1990年代以降イギリスを中心に興隆している研究からです。
 この研究は、伝統的な経営理論やその理論を生み出すビジネススクールに対して学術史を踏まえて検証していく研究です。

(神の)見えざる手にご用心

  例えば、アダム・スミス(1723-1790)『国富論』(「諸国民の富」)に書かれた有名な「神の見えざる手」と言われる概念があります。これは「市場経済において、各個人が自己の利益を追求すれば、結果として社会全体において適切な資源配分が達成される」とする考え方です。これは「市場メカニズムを重視する」考え方で、現代の経済学や経営学の基礎となっています。
 上記の説明に接したことはないでしょうか?

研究者は・・・

好き勝手に競争すれば、神の見えざる手が導いてくれ、すべてうまくーそんな「市場万能主義」を正当化していると思われがちだ。だが、堂目卓生・大阪大教授(経済思想史)は「完全な誤解です」と指摘する。

朝日新聞2012/08/27 朝刊 はじめてのアダム・スミス

『国富論』や「見えざる手」で知られるアダム・スミスは、もっとも誤解され利用されてきた。「市場原理主義」ではない真の姿から、経済学者たちに大きな影響を及ぼす思想の現代的意義を読み解く。

根井 雅弘 (著)『アダム・スミスの影』 帯文2017

経済学の古典、アダム・スミスの『国富論』には「神の見えざる手」という有名な言葉がある。この言葉をどう理解しているだろうか。もし「経済はすべて市場に任せるべきだ」「すべて市場に任せておけば社会は豊かになる」と理解しているとすれば、それは誤解だ

PRESIDENT Online 2018/01/25 9:00

このように、指摘しています。

調べてみると全生涯で3か所のみ『国富論』では1か所

 アダムスミスが発表した論文・著作で現存しているものでthe invisible handが出てくるのは3か所のみで、内一編の論文は天文史に関するものですから、経済に関するものでは2か所のみです。しかも<神の>はありませんでした。
 天文学は Jupiterに関するものなのでこちらの方がしっくりするような。
(1)The Theory of Moral Sentiments (1759) Part IV, Chapter 1
見えざる手によって導かれ・・・社会の利益を促進し、そして余裕を持って、生命の必需品をほぼ同じように分配する・・・
(2)The Wealth of Nations. Book IV, Chapter II, paragraph IX
公益とともに自己利益を結びつけるものがあり、それによって自分の利益を追求する個人は必然的に社会全体に利益をもたらす.
(3)The History of Astronomy
by the necessity of their own nature; nor was the invisible hand of Jupiter ever apprehended to be employed in those matters.

CMS研究の指摘は

Cummings, S. & Bridgman, T. (2020)によると

スミスの知的革新は、自由放任経済や分業の促進ではなく、奴隷制やその他の抑圧が、倫理的、根本的に、また経済的にも間違っているという見解であり、『国富論』は経済倫理に主軸をおく著作である。

自由放任主義はスミスの概念ではなく、見えざる手はWN(『国富論』)で一度だけ使われ(しかも自由市場とは直接関係ない)、利己主義は翻訳の中でしか出てこないし、分業も目新しいものではない。

この論文は👇の本の2章に収録されています。

うえ~~高い!
ならば👇にも収録されていますよ


本を読む時間がない!
然らば、2分かからない動画で

ナンチャテビジネススクールにご用心

 10年程前から言われ続けていることなので、このような誤ったアダムスミス引用を教えている教員や学校にご用心くださいね。

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