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「花屋日記」34. 女30、この先どうする?

 花屋のカレンダーはわりと極端だ。春は雛祭りや入学、送別、母の日とイベントが続き、秋は十五夜や敬老の日、ハロウィン(そう、私たちはカボチャも売る)、いい夫婦の日などがある。冬はクリスマスやお正月、バレンタインなどがあって、店はノンストップで稼働する。そしてフラワーバレンタイン(男性から女性へ花を捧げる西欧式のバレンタイン)やミモザの日(国際女性デー)といったイベントも、まだ日本でそれほど浸透していないとはいえ、それなりに花が売れるのだった。問題は「夏をどう乗り越えるか」なのである。

 暑いと花保ちが悪くなり、贈り物にもプリザーブドフラワー(特殊な加工を施し、染色した花材)を選ばれる方が増える。モカラやクルクマ、アンスリウムといった南国の花を大々的に展開しても、残念ながらまだそこまでの需要はないようだった。
 この季節は結婚式も少なく、たまに浴衣姿の女の子のために生花の髪飾りを作ったりするのは楽しかったが、花火大会だってそう何度もあるわけではない。

 リアルな話をすると、アルバイト人員の私は閑散期にシフトが減らされてしまう。そもそも薄給なのに、働く機会さえ与えられないのは困った。そして地方だと時給800円台などザラにあり、店長クラスでも大したお給料はもらえないのが花業界だと、私もだんだんと分かってきた。一緒に研修を受けていた同期もどんどん辞めていくし、女性が多い現場なので、結婚したら退職する人がほとんどだ。
 この仕事は好きだし、けっして辞めたいわけではない。だけど、どれだけ必死でレベルアップを目指しても、漠然とした将来への不安は消えなかった。

「このまま店に残るか、他の仕事を探すか」
 休憩時間に300円のうどんをすすりながら、私はよくそんなことを考えた。
資格をとって会場装花などイベント中心の仕事に変えたら、少しはお給料が上がるだろうか。あるいは花関連の商品開発やPRなど他のポジションを探せば見つかるだろうか。いろいろ同業の人に話を聞いたりもしてみたが、なかなか打開策が見つからない。
 女30、この先どうやって生きていこう?

 そんな時に偶然、前職の同僚から連絡がきた。「編集部の◯◯さんに子供が生まれたよ」みたいな要件だったのだが、ついでにこんなことも尋ねられた。
「そういえばカイリさんさ、ライティングの仕事とか受けてもらえないかな? 翻訳もできて、ファッションのことを書ける人がなかなか見つからなくて」
「えっ、それってけっこう締め切りがタイトなやつ?」
「そうでもないよ」

 その瞬間に私は「花屋兼ファッションライター」になることが決まった。
店頭に立たない日はひたすら、家でファッション関連の記事を書いた。その二つが両立する日が来るとは、自分でも思っていなかった。

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