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金曜日の夜、僕は空気を失った。



金曜日の夜は清々しい。

慌ただしい平日が終わりを告げる。

秋の季節とも重なり、空気がいつもより美味しく感じる。


ついつい深呼吸をしたくなり

大きく吸って、ゆっくり吐くを繰り返す。

金木犀の香りを感じ、体の深部まで空気を取り込みたくなる。

暑くもなく、寒くもなく、ずっと外で佇み空を眺めて居たくなる。


そんな秋の、ある金曜日の夜に、僕は空気を失った。



この心地良さは金曜日のせい


家に帰り、夕飯時。

冷蔵庫を開けると、十分な食材がある。

野菜も肉も調味料もあるから、何でも調理できる。

でも僕は、「今日はご飯作りたくないな」と思った。

そんな気分になる時も時々ある。

そこで、お気に入りのエコバックを肩にかけ、僕は家を出た。




やはり空気が美味しい。風も穏やかで、気持ち良い。

スーパーに行くのは面倒だが、着いて欲しくないとも思う。

この空気と触れ合い続けていたい。今日は特に心地良い。

この心地良さは、「金曜日のせいだろう」と思った。




何でも好きなものを買って帰って、

野球中継を観ながら、心行くまま夕食を楽しむ。

心が踊っていた。

惣菜を買おうか、お弁当にしようか。

食後は、スイーツにしようか、それともアイスにしようか。

逸る気持ちを抑え、自転車を漕いだ。

ようやくスーパーに着いた。



そして、

その時、僕の呼吸は、止まった。





入り乱れる脳内で見つけた一つの解


先程までの、全てを包み込んでくれるような空気を、一瞬にして失った。

まるで時間が止まったようだ。

身に染みて感じていた空気の有り難みを、心の底から感じた。

桃源郷から奈落の底に突き落とされたみたい。上手く呼吸が出来ない。


時が止まった世界で、

このまま突き進めるのか、それとも引き返すのか、究極の選択を迫られる。

そんな突如として現れた分かれ道を前に、僕の意識が少し遅れて追いついてきた。






「あ、マスク忘れたのか…」








マスクが産んだ矛盾した世界


マスクを付けると、本来息苦しい。

空気が美味しいこの季節に、マスクは似合わない。


それなのに今日は

マスクをしていないのに息苦しい。

マスクをしていないが故に息苦しい。

そんな世界がそこにはあった。




マスクが産んだ「矛盾した世界」





そんな笑い話を書き上げながら、食べる大福は美味い。

皆さんも、空気が心地良い今だからこそ、マスク忘れに注意です。





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