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泣ける小説 僕の未来へのヒント

「今日久々に会えて嬉しかった。ありがとう。」
「いやこちらこそ。」
「でも無理しないでな。これからもお互い大変だろうけど自分達の幸せの為に頑張ろう、そしていつでも会って話そうよ。」
「ありがとう。」


大学時代からの友人。ここ1年程会ってなかったけど、同窓会で久々に会えた。あいつは何も変わっていなかった。
大学時代からいつも優しくて、誰に対しても公平な態度だったから、いつもみんなから好かれていた。

僕はといえば友人は本当に限られていた。みんながはしゃいでいる中、ポツンと1人で過ごすことが多かった。その輪に入りたくても入りに行くことが出来なかった。声を掛けにいく勇気がなかったんだ。

そんな時いつも話しかけてくれたのがこの藤田。僕は子供の時からずっと目立つ方ではなかったから。

「なあ2次会には行かずにちょっと2人だけで飲みに行かないか?この近くにちょっと隠れ家的なbarがあるんだよ。」
「僕は良いけど、でも僕と2人でいよりみんなといる方が楽しいんじゃないの?そっちを優先しなよ。」
「いや自分のことを過小評価し過ぎだって。俺は他の誰といるよりも楽しいと思っているから誘うんだぞ。」
「僕といるのが?」
「そうだよ。だっていつも俺の話を遮る事もないし、ただうんうんって聞いてくれるじゃない。」
「まあ確かに。」

それは自分が特別相手を喜ばせることも話さないから、ただ相手の話を聞きたいと心底思っているだけ。それにそうした方が相手も喜んでくれるかなと思っているから。

「それがすごく嬉しいんだよ。だってみんな自分の話を聞いて欲しいだろ。趣味の話にしても、今だったら仕事の話も聞いて欲しいと思うだろ。こんなに頑張っているってこともこんなすごい仕事をしているってこともそうだし、逆にこんなに大変なんだって愚痴もこぼしたいしさ。」
「まあそうだね。」
「それを1つ1つじっくり聞いてくれる。これってすごく長所だと思うよ。安心して話せるって言えば良いのかな。そういう人っていそうだけど実はそんなにいないんだよな。」

確かに中には、相手が話している時も次自分が話すこと考えていたりするかもしれない。だったらこのこの安心感って実は僕の大きな長所なのかもしれない。目立たないけど僕にとっての大きな武器となる。それを今藤田に言われて気付いた。

「それでさっきも話をしていて楽しいけど、苦労の競い合いみたいになるわけさ。でも俺は別にそんなことを話したくてここに来たわけじゃないからさ。別に相手は意識してないと思うけど。もう無意識の内にやっちゃっているんだよな。」
「なるほどね。それでじっくり話しを聞いてくれる僕と2人で行こうって事か?」
「そういう事。」

長所って何もすごく勉強が出来るとか、スポーツが得意とかそんなことばかりじゃない。人の話をじっくり聞くことが出来る。これだって長所になるんだ。それと僕は他人の話を聞くときに否定せず聞くことを意識している。というか否定する立場にないと思っていただけだけど。それも相手からすれば話しやすい空気を出しているのかもしれない。


「よし、俺は用事があるから先に帰るって言ってきた。行こうぜ。」
「うん。」

 
それから2時間相手の話を聞いていた。人ってこんなに自分の話をしたいんだ。それから話せる人を求めているんだ。
まあ彼は特別かもしれないけど、程度の差こそあれど自分の話を聞いてくれる人を求めている。
だったらそれに徹しよう。それが苦でもない自分とそれを求めている相手、両者がここで一致する。

「ごめんここまで結局俺の話ばかりしていたな。今度はお前の仕事の話を聞かせてくれよ。なんか申し訳ないな。」
僕はここで仕事の話をしたんだ。仕事の悩みや人生に行き詰っている話、将来への不安の話。そんなものを時間をかけてゆっくり話した。これまで誰にも話さなかったようなことを。
「そっか、職場でなかなか居場所を感じないのか。孤立しているってきついだろうな。俺はまだなんだかんだ同僚ともそれなりに上手くいっているし、仕事内容もそれなりに好きなことだからな。でもこれだけははっきり言えることだけど、その聞き上手なところは確実に仕事においても重要なスキルだよ。こういう時代だからこそ、特にそれが求められていると思うんだ。みんな話せる場所を求めているから。」
「そうだな。」
「間違いないよ。今は上手く周りに伝わっていないだけ。」
「でも今日一緒に話して思ったんだ。僕は他人の話を聞くことが好きだ。その人の考えとか何を大事にしているのか価値観がよく知れる。自分でも全く苦にならない。反対にそういう場所を求めている人も少なからずいる。
だから僕がそういう場所を作ってあげたいって。」
「その人が好きに話せる場所ってこと?」
「まあ今分かり始めたところだから、具体的な形とかはまだ見えていないけどそういうこと。」
確かにそれは納得がいく。個性も活かされて、お互いが幸せになる。実現すればそれはとても素晴らしいこと。
「良いじゃない。」
「まあ今の会社をすぐに辞める勇気はないから、最初は副業として考えているけど、いずれそれを本業としたいんだ。その方が僕自身も幸せに生きられると思うから。」
「うん、素敵だと思う。」

自分は何もない、小さい頃から劣等感を抱えて生きてきた。自分に長所があるとすればこの人の話を聞くというスキルくらい。
でもだからこそ出来ることがある。同じように劣等感を抱えて生きている人の居場所づくり、今まで人間関係に悩みを抱えて孤立してきた人が帰られる場所。そんな場所をつくることで、誰もが勇気を持って外に出られるように。
何もない自分だからこそ出来ること。

「じゃあ僕はこの辺で帰るよ。家に帰ってじっくり今後のことを考えたいんだ。」
「分かった。」
こいつの成功を心から願っている。

「今日久々に会えて嬉しかった。ありがとう。」
「いやこちらこそ。」
「でも無理しないでな。これからもお互い大変だろうけど自分達の幸せの為に頑張ろう、そしていつでも会って話そうよ。」
「ありがとう。」

最後まで読んで頂きありがとうございました。
小説家の藪田建治でした。

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