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春が来る少し前に、春の歌を聴く

冬の寒さも少しずつ和らぎ
もうすっかり春の陽気が漂い始めている。

ただ、かといって朝方はまだまだ肌寒いし、夜は風が吹いていると凍えてしまいそうな瞬間もまだまだあって。

ちなみに、個人的に「春になったな」と思うのは、桜が咲く時期ではなくて、実家の近くにあったれんげ畑が咲き始めた時だった。

毎年、こっそりと楽しみにしている。

そんな、春が来そうで来ていないこの時期に
自分は聴きたくなる曲がある。

春の歌/スピッツ

それが、スピッツ『春の歌』という楽曲。

ここまでストレートな名前をつけた春の曲を自分は他に知らない。
タイトルだけ見れば、童謡と見紛うほど。

軽快なドラムに乗せられた跳ねるようなメロディ。
爽やかなギターサウンドとうねるようなベース。
そして、ボーカル草野マサムネさんの伸びやかな歌声。

どれも愛おしくて、大学時代はバンドでコピーしたこともある、思い出深い楽曲だ。

近年では、藤原さくらさんのカバーにより、映画『3月のライオン』の主題歌となったことでも話題となった。こっちのバージョンも下町に漂う麗かな春を連想させる曲調で、ほんわかとした気持ちになる。

しかし、そんな『春の歌』という楽曲の歌詞を覗いてみると、みんなが想像しているような、春の暖かさだけを描いているわけではないことが分かる。

重い足でぬかるむ道を来た
トゲのある藪をかき分けてきた
食べられそうな全てを食べた

長いトンネルをくぐり抜けた時
見慣れない色に包まれていった
実はまだ始まったとこだった

春の歌/スーベニア収録

どちらかというと、春に向かうための険しい道のりを必死に駆け抜けていくような、そんな逼迫した心持ちが歌い出しからサビにかけて歌われている。

ただただ、目の前の課題をこなしていくのに精一杯で
がむしゃらに進んでいく毎日。

そんな慌ただしい日々を抜けて、やっと辿り着いた場所が、未だにスタート地点だと知った時の心境。

もしかしたら草野さんにとっての「春」は、これまでの厳しい道のりを乗り越えた先にある出発点のような存在なのかもしれない。

何かの幕開けを告げる爽やかな「春」ではなくて
耐えて耐えて何とか歩いてきた先に待ち受ける「春」

だから、心のとっかかりを少しずつ溶かしてくれるような、じんわりとした暖かさが感じられる。

春の歌 愛と希望より前に響く
聞こえるか?遠い空に映る君にも

春の歌/スーベニア収録

さらに、曲のサビに入ると、これまで歩いてきた道のりの先が一気に開けたかのように、開放的なメロディと歌声に包まれる。

大抵「春の歌」と聴いて連想するものは、出会いや別れといった関係性の変化桜が咲き乱れる情景を描いたものが多い。

でも、草野さんが描く「春の歌」では、春を連想させるような言葉はほとんど登場しないにも関わらず、心地よい春の情景を思い浮かべることができるのだ。

例えば、間奏ではこれまでと打って変わって、物悲しい余韻が残るサウンドへの変化が見られたり、サビでは立ち込めていた靄が晴れていくような爽快感を感じられたりと、曲の中で緩やかに「春」という存在が変化していくのが分かる。

忘れかけた 本当は忘れたくない
君の名をなぞる

春の歌/スーベニア収録

この歌詞が特にお気に入り。

呼ぶでもなく、叫ぶでもなく、なぞる。

草野さんの言葉の選び方が
情景を繊細なほどに映し出している。

本当に誰にも真似できない、唯一無二の作詞家。
これまでもこれからも変わらず、大好きなバンド。

是非とも、今の時期に聴いて欲しい『春の歌』

この曲を聴くと、懐かしい旧友と久しぶりに会いたくなるような、目の前まで迫っている春がどうしようもなく待ち遠しくなるような、そんな気持ちになる。

だから、春が来る少し前に『春の歌』を聴く。


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