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変幻自在なPEOPLE1の歌詞

「PEOPLE1」の曲を聴くと、その捉えどころのなさに戸惑うと同時に、いったいどれだけの引き出しを隠しもっているのだろうとドキドキしてしまう。

純粋な恋心を詰めこんだバラードから、アップテンポで踊れるヒップホップソングまで、幅広いジャンルの音楽を取りこんだ楽曲たち。

それはまるでゲームセンターに置いてあるモグラ叩きみたいに、パターンを理解して捕らえたかと思いきや、何食わぬ顔でまったく別の場所から現れる。

こちらは縦横無尽に箱の中でうごめく彼らを
一拍も二拍も遅れて追いすがっていく。

ただ、聴いている人たちは、そんな変幻自在な音楽性に振りまわされながらも、あらゆる方向に変化していく彼らのことを追いかけずにはいられないのだ。

「PEOPLE1」とは、ボーカルとして楽曲に参加しながら作詞作曲を手がけるDeu、柔和な歌声で曲に合わせて歌うGt.VoのIto、そしてDrのTakeuchi(敬称略)によって結成された新進気鋭のバンド。

発表する作品ごとにまったく異なる一面を魅せる彼らは
とにかく楽曲の発表ペースが早い。

立てつづけに新たな楽曲を生みだしながら、これまでの世界観を一蹴するその七変化っぷりには、毎度のこと度肝を抜かれてしまう。

しかし、その七変化のようにも見える彼らの楽曲には、一つひとつに明確なテーマと概念みたいなものが存在しているようにも思うのだ。

なので、いくつかの歌詞を紹介しながら
「PEOPLE1」が見せる一面を覗いてみる。

世の中への妥協と希望が織り交ぜられた「常夜燈」

初めて「PEOPLE1」というバンドを知った楽曲でもあるのが、この「常夜燈」という楽曲。ゆるっとしたダンスを踊る女の子のアニメーションが印象的で、繰りかえし再生してしまう中毒性のあるMVだ。

「PEOPLE1」の歌詞を聴いて思うのは、言葉の組み合わせ、もっと言うと、歌詞全体の単語の組みこみ方が絶妙なバランスで成りたっているということ。

みんな優しさを受容して そっと心にを打つの
期待はずれの夜を抜けて

常夜燈/「PEOPLE」収録

「言葉の緩急」とでも言うのだろうか。

ままならぬ世界を妥協した言葉。
生きづらい世の中を揶揄やゆするような言葉。
それでも「君」に希望を投げかけるような言葉。

それぞれの言葉が、曲全体を通して物語を繋ぎあわせていて、危うさを秘めた独特の世界観を作りあげている。

この世界には 未来がキラキラとみえる人もいるというの
それならば 食えぬものなど置いていかなくちゃ
例えばこんな胸の常夜燈も

常夜燈/「PEOPLE」収録

曲自体は、だらっとした気怠い朝に起きぬけの体を起こしている時の、まどろみのなかにいる感覚を思いおこさせる。

しかし、そんな曲調の中にある歌詞には、シンプルながら鋭角に刺さるような言葉がちりばめられている。

特に、曲の途中に不意に差しこまれる「才能って一体何だろうね」という言葉は、この曲の「この場所」にあるからこそ、心の奥深くまで突きささっていくようにも感じるのだ。

この曲の象徴となる「常夜燈」
夜になろうとも、常に明かりを灯しつづけるもの。

歌詞では雑多に扱われているからこそ、きっと大人になっても大切にしなければならないものであると思わせられた。

曲の冒頭でも歌われるように、どこか世界を諦めながらも、少しの期待をこめて歌われる歌詞は、「PEOPLE1」の根底にある世界観を映し出しているような気がする。

対峙する世の中に反旗を翻す「怪獣」

さきほどの楽曲とがらっと雰囲気が変わるのが、同じく「PEOPLE」に収録されている「怪獣」と言う楽曲。

さあさあ怪獣にならなくちゃ 等身大じゃ殺されちゃう
でもでも怪獣にならなくちゃ 誰よりも優しいやつ

怪獣/「PEOPLE」収録

この楽曲では、より曖昧で判別のつかない感情が
「僕」の自分語りで綴られていく。

怪獣にならなければ、今までの自分を捨てさらなければ、この世界と相対して戦うことはできない。でも「君」に対しては優しいやつでいたい、忘れられたくないと密やかに願っている。

逼迫ひっぱくした胸中を吐き出すような言葉は、歌詞の至るところにも現れていて、なけなしの勇気と力を振りしぼっているような、「僕」の折り合いのつかない感情が言葉の節々から伝わってくる。

とりわけ「等身大じゃ殺されちゃう」という言葉の持つ破壊力が凄まじい。

今の時代だと肯定的に思える言葉を逆説的に使うと
こんなにもパワーを持つんだ、と。

もし初めから僕が格好よかったなら
何者にもならずともいられたのかな

怪獣/「PEOPLE」収録

意を決して覚悟を決めた「僕」の姿が勇ましく描かれるほど、とっさに漏れでる本音が垣間みえる言葉に胸を打たれる。

それにしても、曲にちりばめられている言葉の選択がすごく好み。「焼き回して」とか「抜け殻」とか「条件を飲まなくちゃ」とか。

多分、他のアーティストだと異なる言葉で代用しそうな表現で、もしかしたら気にも留めない人が多いのかもしないけれど、自分はさりげなく挟まれる言葉に妙に着目してしまう。もはや、癖になっている。

世の中に宣戦布告するように唄う「銃の部品」

さらに、先月公開された「銃の部品」という楽曲は、モード学園とのタイアップ曲としても話題になっている作品。

これまた、これまでの雰囲気を一蹴したような楽曲で、冒頭からオートチューンを駆使しながら軽やかに歌われたかと思えば、Aメロからサビにかけてはマシンガンから放たれる弾丸のように言葉が打ちこまれていく。

やりたくないことはやりたくないし
やりたいことだって
ホントはやりたくないんだ

銃の部品/シングル「銃の部品」収録

世界を皮肉りながら自嘲的に歌われる言葉のなかには「それでも好きにさせてくれよ」と叫ぶように、反骨心が込められたいくつもの表現が盛りこまれている。

そして、決してそれらが投げやりに聴こえないのは、一貫して「PEOPLE1」世の中を相対する存在として位置づけているからだ。

世の中も、大衆も、世界も。
そのどれもと対峙している場所。

そんなまったく異なる立場と対面しながら
どのように距離を測ればいいのか。

この楽曲では、世の中に対して言葉でまくしたてて跳ねのけているけども、前述した楽曲たちでは、また違った距離の取り方をこころみていた。

そんなふうに、一つの骨格となる信念があるからこそ、コンパスのようにその信念を軸にして、多方面へ向けてさまざまな顔を持った世界観を描けるのかもしれない。

涙は遠い惑星の結晶なんかじゃない
汽水域から溢れ出す この小さな世界

銃の部品/シングル「銃の部品」収録

また個人的に「汽水域」「野放図」といった、あまり歌の中で見かけることのない言葉の使い方がすばらしいと思う。自然に入ってるかといえばそうではなく、違和感として残りながらも曲のアクセントになっている。

どこからそんな言葉たちを選りすぐっているのかはわからないけれど、風変わりな言葉を見つけるのは自分も好きなので、勝手に共感が溢れてしまった。

最後に

直近で、また新たに楽曲が公開された。

今回はポップな曲調のなかに
切ない恋心が内包された一曲。

もはや、振り幅どころの騒ぎではない。
めちゃくちゃ顔も出してるし。

ただ、それでも歌詞の中を覗いてみると、言葉や表現には彼らの骨格となる世界観が踏襲されているように感じる。

ちなみに「甲斐甲斐しくかじりついて吠えるだけ」っていう歌詞がお気に入り。

ああ、長くなってしまった。
いつものことだけども。

これからも「PEOPLE1」には変幻自在な曲と言葉で
リスナーたちを振り回して欲しい。

この記事を読んだ人も、ぜひ聴いてみて。
びっくりするから。

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