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The Libra:菅義偉首相・新政権についてのメモ

-ポリティーク短信-

 今回の記事は,菅義偉首相について個人的に感じたメモ.
なお,下記に私の政治信条の傾向について簡単に表記しておくことで,バイアスという観点から記事読者には参考になるかもしれない.
[政治信条・傾向]支持政党なし
・肯定的なもの:リベラル/マルチラテラリスト(多国間主義者)/修正資本主義/コスモポリタニズム/啓蒙主義
・懐疑的なもの:国粋主義/ナショナリズム/新自由主義/共産主義/アナーキズム

 9月16日,安倍晋三前首相の辞任にともない,総裁選を経て発足した菅新政権.発足から1ヶ月と経っていないが,すでに(良くも悪くも)色々な面でニュースや社会を賑わせている.本稿は,発足から現在までの動きから,菅首相について個人的に感じたことを述べたものだ.
 なお,最近話題の日本学術会議については,述べられるほどの見解を持っていないので,特に触れるつもりはない.

▼首相評

 個人的に,菅首相は前任の安倍首相と比較しても,非常にプラグマティック(実践的)合理主義的な人物のように感じられる.加えて,とても官僚主義的だ(官僚主義特有の“閉じられた政治”だ).そして,前任と比較して,イデオロギー色があまり感じられないように思える――前任者は,少なくとも海外ではナショナリストと見做されていた.
 元々,官房長官として辣腕を振るっていた人物である.人事権などを行使して,官僚機構に影響力を持つ手法を用いていたようだ.まさに,影に立つ政権のナンバー2である.

 ただ,そうした冷徹にも映る手法は,官房長官としては優れた才能だったかもしれないが,首相の振る舞いとしては,あまり適切ではない(というよりも,受けが悪い).官房長官とは違い,首相は表舞台に立つ役職だ.それゆえ,国民からは,概して“冷たい印象”を与えてしまう.
 まして,あまり笑顔を見せないので,より機械的で温かみに欠ける印象を与える(数少ない例外は,一部ではよく知られているパンケーキ好きというものだけだ).官房長官時代の記者会見でよく見られた,よく言えば「動じず冷静な」,悪く言えば「冷徹で威圧的な」あの姿勢が印象に残る.

 個人的には,やはり菅氏は,首相としての器ではないように思える――そもそも,それは本人も自覚しているかもしれないが(総裁選当初の姿勢など).ナンバー2として有能な人物が,トップとしても優秀であるとは限らない.
 菅首相のパフォーマンスは,言ってしまえば「地味」なのだ.この地味さは,あの徹底して機械じみたプラグマティックで合理主義的な姿勢から生じている.

 これは,前任の安倍氏が「ナショナリズム」という点で,イデオロギー的に「派手」だったのとは対照的だ――とはいえ,安倍氏も国際政治の舞台では,菅首相と同様にプラグマティックで合理的なスタンスだったが
 菅首相は,前任が追求したナショナリズム的目標――憲法9条改正や自虐史観の否定,いわゆる戦後レジームからの脱却――に対して,ほとんど熱意を持っていないように感じられる.当然ながら,自民党の支持基盤である保守層の期待に応えるために,そうした政策を取るかもしれないが,それも選挙でのパフォーマンスに過ぎないのではないか.

 そもそも,菅首相が就任当初に掲げていたのは,「携帯電話料金値下げ」や諸制度の改革(特にデジタル化推進)など,イデオロギー色の薄いものだ.国民にとってメリットになるかもしれないが,実体としては感じづらいのである.これらの諸政策は,政治信条とは離れた場所にある.

▼菅政権への短い所感

 前任の安倍政権はともかく,菅政権が「ファシズム的」であるというような見方は,個人的には誤りだと思う.ファシズムではなく,上述したように官僚主義的な経営――官僚主導から官邸主導の政治を継承したが,その経営手法はまさしく官僚的である――から生じる,権威主義的な政権だと感じられる.
 安倍政権のようなイデオロギー色が薄く,ファシズムの典型的なあの神秘主義に傾倒した一種の宗教的理念もない.菅政権の権威主義は,イデオロギー的な権威ではなく,官僚機構による統治の権威と見做す方が適切だろう.
 そもそも,(ブレーンの竹中平蔵氏の存在からして)明らかに新自由主義の継承であることからも,ファシズムではない.それゆえに,この場合の「ファシズム的」とは,批判者によるレッテル貼りの類いであり,批判としてもあまり適切ではない.

 また,これは菅政権に限ったものではなく,およそ自民党政権の大抵に該当するだろうが,やはり「金権政治的」である.トランプ米政権ほど露骨ではないにせよ,この傾向は戦後日本の政治を常に支配している.

 したがって,個人的な菅政権への印象は「官僚的な権威主義」と「新自由主義」,そして相変わらずの「金権政治」である.ただ,河野行政改革相を筆頭とする諸改革には,それなりに期待している.政治の根本的部分は変わらないだろうが,多少は不便だった部分(旧態依然とした社会・制度など)が改善されるだろう.
 政治の根本的な改善点,市民参加型の政治という本来の自由民主主義は,当然ながら菅新政権に期待すべきではないだろう.これは,我々市民の積極的な行動によってのみ達成されるものだ.

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