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Just a man in love,oh yeah...~読書note-9(2022年12月)~

あけましておめでとうございます。今年も気力の続く限り、毎月の読書記録をnoteにアップして行きたいと思います。

12月はカタールW杯を全試合視聴(LIVEで見れなかった試合はAMEBAの見逃し視聴)したため、本を読む時間を削られてしまった。師走のせわしなさと相まって、慌ててノルマの5冊を読んだ感じで。もうちょっと、読書はじっくりしたいものだ。

冒頭写真はここ足利市でも思わぬホワイトクリスマスとなった2022年のクリスマスイブ、特にロマンティックなことは起きることもなく終わる。本も読めぬほど、一人でワインを空けてへべれけになっただけだ。♪きっと君は来ない…わかっちゃいるけどね。



1.旧友再会 / 重松清(著)

11月の足利尊氏マラソンに、大学時代の山岳同好会の仲間が3年ぶりに走りに来てくれた。12月には新宿で、同じく3年ぶりに山岳同好会の忘年会をやった。田舎に引っ込んでしまった自分にとって、地元まで来てくれたり、東京での飲み会に誘ってくれることは、とてもありがたい。昔の仲間と会うと、一瞬にして当時の感覚に戻るのは何故なんだろう。そして、彼らと飲む酒が本当に美味しいのは、何故なんだろう。

そんな昔の仲間との再会をテーマにした表題作を含め短編5つを集めた本で、帯には「人生は、ままならないことばかり。優しさとほろ苦さが沁みる『中年共感小説』」との文字を見て思わず買ってしまった。毎年年末に四苦八苦する我が身を顧み、ホント、人生は思うようにならんのぉと。

5編の中で一番好きな「どしゃぶり」は、中学野球部の同級生だった3人の話。地元で実家の家具屋を継いだ人柄の良い「ヒメ」、母校の中学校で教頭を務めるお調子者の「コバ」、認知症の母親を引き取るために都会から一時戻ってきた頑固者の「マッちゃん」、中年3人が織りなすある夏の物語。

コバが中学時代にエースだったマッちゃんに、野球部の臨時監督を頼む。昔はいとも簡単に出来た、投げる、打つ、捕るが、長年のブランクで出来なくなったマッちゃん、今どきの冷めた中学生に熱血指導するも空回り。その野球部には、万年補欠で最後の夏を迎えたヒメの息子もいる。それぞれ色んなものを抱えたオジサン達の葛藤が面白いのだが、身につまされ過ぎて苦しい。

重松清さんがあとがきで、「老い」の序章を描いてみたかったと。「老い」そのものではなく、自分がやがて老いていくという予感、諦念、覚悟、困惑をと。まさに、今の自分に向けた本だった。何とも淋しい限りだが、そんな淋しさを分かち合い、紛らわしてくれるのが、昔の友との再会、飲み会なんだろうなぁ。


2.セカンド・ラブ / 乾くるみ(著)

昨年9月に読んだ「イニシエーション・ラブ」に度肝を抜かれたので、この著者の他の作品を読んでみたいなぁと思っていたところ、本屋で「『イニシエーション・ラブ』の衝撃再び。」との帯が目に入り購入する。

木工製品の会社社員の里谷正明が主人公で、彼が会社の先輩から誘われたスキーで出会った内田春香と恋に落ちる。高卒の学歴にコンプレックスを持ち、それを取り返すべく趣味が読書で恋愛には疎い正明は、良家のお嬢様で清楚で完璧な容姿と頭脳を備えた大学院生の春香と、たどたどしくも順調に愛を育んで行く。だが、ある日、半井美奈子という春香そっくりのホステスと出会う。そこから、この奇妙な三角関係(いや三つではなく、正しくは幾つだったんだ?)の複雑な恋愛模様が繰り広げられる。

「イニシエーション・ラブ」ほど計算されたミステリー小説ではないが、本作も最後に「大どんでん返し!」が待ち構える。まぁ、今回はある程度予想できたけどね。やはり、うぶな男性は、経験豊富な女性にだまされるものだなぁと(もちろん男女逆もある)、先日、歌舞伎町の喫茶店で見た光景を思い出した。マッチングアプリで初めて会ったらしい二人、最初は双方遠慮がちだったが、マニアックな話ばかりする遅手の男性に痺れを切らし、途中から遊び慣れた感じの女性が会話をぐいぐいリードし、男性は会話についていくのがやっと。隣の席で聴いている自分まで息切れしそうになったよ。

あと、ストーリー以外にも色々な仕掛け(半井美奈子と内田春香の名前が、中森明菜と宇多田ヒカルのローマ字表記のアナグラムだったり、表題だけでなく章題も、明菜や宇多田の曲名から付けられてたり)が組み込まれていて、それを探すのも二度読みの楽しみかもしれない。


3.殲滅特区の静寂 / 大倉崇裕(著)

著者は上述の大学時代の山岳同好会の同期で、新宿の忘年会にも来ると聞いてたので、この最新刊を買って持って行き、サインをもらった。

大倉君得意の怪獣のイラスト付きサイン

大学時代の大倉君は、将来ミステリー作家になるほどの物凄い「ミステリー好き」というよりは、無類の「怪獣好き」という印象だった。当時、アパートの部屋がゴジラや怪獣の人形やプラモで埋め尽くされているため、飲み会で終電を無くした友人達は、下落合の大倉君のアパートではなく沼袋の我がアパートになだれ込むのが常であった。

本作は、そんな彼が得意中の得意である怪獣の世界とミステリーを融合させた、怪獣パニック&本格ミステリーである。怪獣が殺されても事件にならないので、殺されるのはあくまでも人間だ。怪獣の襲来が日常となった世界で起こる3つの殺人事件を、怪獣予報官・岩戸正美と怪獣捜査官・船村秀治との異色のバディが解決していく。

怪獣の進行方向や攻撃方法の分析をする怪獣省の第一予報官の正美は、著者が今まで書いてきた女性主人公、例えば福家警部補や警視庁いきもの係の薄巡査のような世間ずれした⁉飄々さや天然さはなく、出世もちゃんとしてきたしっかり者の常識人。一方、怪獣災害で状況不明の事件を捜査する警察庁特別捜査室の船村は、Huluでドラマ化された「死神さん」の儀藤警部補をどことなく彷彿とさせ、また「よれよれのコート」と言えば、著者の好きな刑事コロンボだよね。それにしても、警視庁いきもの係といい、死神さんといい、大倉君の書くバディものはホント面白い。

そして、怪獣の襲来と殺人事件という、一見繋がりの無さそうな二つのトピックを見事に関連付けるストーリーとなっている。現実世界と地続きな通常のミステリーとは違って、怪獣が出現する空想の世界なので、どこかSFチックなミステリーがとても新鮮である。まぁ、殺人事件そのものは、現実世界で起きても何らおかしくない類のものだが、そこに怪獣が絡んでくるから面白いのかもしれない。


4.シャイロックの子供たち / 池井戸潤(著)

先月映画を見に行った際、開演前にこの映画の予告が流れてきて、面白そうだったので原作を購入する。TBSの日曜夜9時枠のドラマの行き過ぎた半沢チックな演出にはもうウンザリだが、池井戸潤さんの原作本はやはり面白い。「半沢直樹4 銀翼のイカロス」以来か。

「シャイロック」とは、シェークスピア「ヴェニスの商人」に登場する強欲な金貸しのこと。半沢同様に東京第一銀行の都心の中小企業がひしめく大田区にある「長原支店」を舞台に、この支店で起きた現金紛失事件を基軸に全10話から成り、それぞれ人生で苦悩する10人の行員(最終話は行員の奥様か)が主人公として描かれている。

会社の歯車になることへの反抗、高卒たたき上げの劣等感と誇り、不釣り合いな社内恋愛、上がらぬ営業成績、出世レースでの遅れ…等々、自分も大手金融機関(生保だけど)に勤めた経験から、その葛藤、痛いほどわかる。特に、会社が執拗に売ろうとする投信に対し、これは本当にお客様のためになるのかと疑問を持ち、積極的に売ろうとしない若手行員の話には激しく同意する。

自分の生保会社時代も、会社は上っ面では「お客様のニーズ、ライフプランに添った提案を」とか言っているが、現実は新商品が出るたびに「これを売れー!!売って売って売りまくれ!!」の大号令だもん。客のニーズやライフサイクルなんて置いてけぼりだ。

そんな世界に嫌気がさして辞めた自分と違い、会社の歯車として葛藤しながらも、覚悟を決めて生き続ける者たちが魅力的に描かれていて、現金紛失事件の犯人探しも二転三転してストーリーも面白い。何故か昔同じ社宅にいたオジサン達を急に思い出したよ。皆、頑張ってたんだな。


5.なぎさホテル / 伊集院静(著)

11月末に桑田佳祐が出したベストアルバムに「なぎさホテル」という新曲が収録されていて、そのMVがTwitterに流れてきて思わず見たら、逗子の海が映っていて懐かしい気持ちになった。

自分が会社のヨット部に入り、葉山・逗子の海でヨットに乗っていたのは1991年~97年、「なぎさホテル」が解体されたのが1989年なので、入れ違いでその姿は見たことはない。ただ、夏目雅子ファンの自分は、伊集院静氏との逢瀬の場であった「なぎさホテル」の存在だけは知っていた。

そんな師走の本屋で、桑田のベスト盤発売にあやかってこの本が平置きされているのを見つけ、購入する。著者の作家としての原点を綴った自伝的随想である。著者は1978年から7年余り、このホテルを住みかとしていた。当初は、東京を離れるつもりで最後の宿泊地として泊まったのだが、支配人の好意で宿代も格安にしてもらい、しばらく住むことになり、そこから小説を書き始める。

著者の小説は読んだことなかったが、毎年この時期、成人の日の新聞広告での新成人へ向けたメッセージは読んでいた。とても、良い文章を書く人だなぁと思っていたが、こんな自堕落な彷徨をしていた人物だとは知らなかった。確実に太宰の系譜の作家さんだ。

そんな無一文で居続ける著者を見守る支配人夫妻と従業員の温かさよ、そういう支援者が周りにいることで、芸術というものは生まれるのだと改めて実感する。目の前にあんなのどかな海の景色が広がってたら、良い文章書けるよなぁ。しかし、葉山の海を見ながら、小説を書いて暮らすって、まさに俺の密かな(言っちゃってるし!?)夢じゃないか。

桑田の「なぎさホテル」の出だし、「逢えなくなっちゃうと これほど寂しいって 生まれて初めて 知った恋心」との歌詞が、淡い恋などともう程遠いオジサンの胸にも沁みてくる。Xmasもお正月にも逢えなかった妻に、もう今年で銀婚式を迎える身だが、今までで一番恋してるかもしれない。

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