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アーティストとメンタルヘルス - Shin Sakiura (Interview by KUVIZM)

ビートメイカーのKUVIZMが、アーティスト、ビートメイカー、エンジニア、ライター、MV監督、カメラマン、デザイナー、レーベル関係者にインタビューをする"Interview by KUVIZM"。

今回はアーティスト、ギタリスト、プロデューサーとして活動するShin Sakiuraさんに"アーティストとメンタルヘルス"をテーマにお話をうかがいました。

<記事内の写真は、すべてShin Sakiuraさんが撮影した作品です>

【Shin Sakiura(シン サキウラ) プロフィール】
東京を拠点に活動するプロデューサー/ギタリスト。バンド活動を経た後、2015年より個人名義でオリジナル楽曲の制作を開始。エモーショナルなギターを基としながらもHIP HOPやR&Bからインスパイアされたバウンシーなビートとソウル~ファンクを感じさせるムーディーなシンセ・サウンドが心地よく調和されたサウンドで注目を集め、これまでに『Mirror』(1stアルバム/2017年10月)、『Dream』(2ndアルバム/2019年1月)、『NOTE』(3rdアルバム/2020年3月)、3枚のフル・アルバムをリリースしている。また、SIRUPや向井太一、iri、土岐麻子、Aile The Shota、アイナ・ジ・エンド等の楽曲のプロデュース/ギターアレンジ/プログラミングを手掛けるなど活躍の場を広げ、アパレルブランドや企業のPV、CMへの楽曲提供も行っている。TRIGGER制作によるアニメ作品『BNA』のエンディングテーマを手掛けたことでも話題となった。

公式サイト
https://www.shinsakiura.net/
公式X
https://twitter.com/ShinSakiura
公式Instagram
https://www.instagram.com/shinsakiura_tokyo/

KUVIZM:
今回、このトピックでシンさんにインタビューをしたいと思ったのは、Threadsでシンさんの以下のポストを見て、アーティストのメンタルヘルスとセルフラブについてシンさんとお話をさせていただきたいと思ったことがきっかけでした。

とんでもない才能を持ってる人
努力では絶対に越えられないって一瞬でわかる人間に出会うと、
自分の凡人ぶりに辟易する時あるよな〜〜
うううう今日も頑張りましょう

悲しいかな、「有り余る才能と、想像を超える努力をして、さらに恵まれた環境も備わってます!」みたいな人生を送ってる人とガンガン比較されて、結果が出ないと自分の席はなくなるのがこの社会の現実。表現する仕事してると、数字の結果や社会からの評価を自己肯定感と切り分けにくい気がするし、競争社会でアーティストがセルフラブどうこうすんの相当難しいよな。病んでしまって音楽が作れなくなったり、評価されたり比較に晒されることが怖くなってだんだん活動出来なくなる人もいる。俺も病みまくり人間の1人なので、どうすれば音楽家が健康にポジティブに毎日やっていけるかをよく考えるんだけど。なにより誰にも孤独になってほしくないなと思う。

ただ、努力才能環境が揃っててもだめなときはあるだろうし、なんもなくたってやばいもの作れるのが音楽のいいところなのは忘れたくないね。 あしたも頑張ろうって話でした。

Shin Sakiura Threds

KUVIZM:
まず、"アーティストとメンタルヘルス"について話す前に、シンさんについて伺いたいのですが、今のご年齢と音楽のキャリアを教えていただけますか?

Shin Sakiura:
今年(2024年)で、30歳です。
ファーストアルバムを出したのが2017年。
その頃はまだサラリーマンでした。大学を卒業した後に就職をして24歳で会社を辞めるまでの2年間は、広告代理店の営業マンをやっていました。会社員として週5でバリバリ働いて、土日で音楽を作ってライブをしていました。

ビートメイクを始めたのは、大学2年か3年、20歳ぐらい。
ギターは中学生の時に始めました。母親や、おじいちゃんからかき集めたお年玉で、2万円ぐらいの激安ギターを買って始めました。

KUVIZM:
ありがとうございます。

アーティストが「感受性が強くてメンタル弱い」と言われたりすることを目にすることがあります。私はそうではないと思っていて。作品の産みの苦しみやスランプもあるし、数字のことを気にしたり、表現者として矢面に立つから誹謗中傷もある。メンタルヘルスを崩す原因が多い仕事だと思っています。

Shin Sakiura:
はい。「アーティストは繊細だよね」と言う人もいるけど、芸術事を続けて仕事にするということ自体がまず現代の日本では難易度が高いですし、表現者としてだったり、ビジネスマンとしてだったり、いろんな側面が存在する分、いろんな方向からのストレスがあると思う。今の個人的な感覚ですが、サラリーマン時代とは種類の違う大変さはありますね。

photo by Shin Sakiura

KUVIZM:
現に私は会社員ですが、例えば、商品が批判される時も社員個人ではなく会社が批判されることが多いでしょうし、会社に損失を出しても給料から引かれることはそうそうないですからね。音楽活動をしていく上で、シンさんはどのようなことで悩んだり、ストレスを感じますか?

Shin Sakiura:
“自分のなりたい像”や、”自分が求められている像”、と “今の現状、現実”との乖離で悩むことが多いですかね。

具体的にいえば、目標にしているセールス、再生回数、集客数などのKPI(Key Performance Indicator、ビジネスにおいて業績を評価するための指標)を達成できないことへのフラストレーションですね。
ただ結果が思ったように出ないだけなPDCA(Plan, Do, Check, Action)を回すだけで改善していくと思いますが、そもそもアーティストという仕事には、"作品"と、"アーティスト自身のパーソナルな部分"が、深く結びついているケースが多いと思うんです。
歌詞を書いたり、歌ったりして作品を作るということ自体、自らのパーソナルな思想や生き方をはっきりと形にする行為だし、時に弱く恥ずかしいところを見せるようなある意味人間的でドラマチックな行為で、そこに至るまでにも葛藤や決断や勇気が必要だったりする訳です。
そういったストーリーがすべての曲にある一方で、ビジネス面の成否や評価はものすごくドライにくだされていく。
その現実に苦悩する人も多いですよね。

photo by Shin Sakiura

Shin Sakiura:
例えば僕もソロアーティスト”Shin Sakiura”として活動しているのでそういった苦悩は常に付きまとってますし、さらに比較にさらされることも苦しみの一要因ですね。
僕と似たスタイルの音楽で数字や影響力、集客面の結果を出している人が近くにいたりして、自分と比べて苦しんでしまったり、周りから比較されることもあったりしますよね。
「あの人は武道館まで行ったのに、シンサキはもっと頑張んないと」みたいな叱咤を受けることもある。
そういうのあまり笑い飛ばせないので、ずっと引きずってしまうんですよね(笑)。

具体的に凹んだ例だと、2024年に『Inner Division』というアルバムのリリースからツアーにかけての時期は相当苦しかったですね(笑)。
ひとつ前の作品『NOTE』では今でもたくさん聴かれている楽曲を作ることができたし、再生数やセールスでもかなり満足のいく結果があったんですよ。
『InnerDivision』ではそこから期間も空いて、4年の期間で培った自分の成長をすべて詰め込んだ作品だったんですが、狙いが甘く、リリース当時は直視できないぐらいの少ない再生数や反応のなさに相当凹みました。

またツアーでも、想像していたほどに満足行く集客ができなかったことも大きかったですね。4年間で楽器はかなり弾けるようになったし、音楽的な知識もかなり身に付けたと思っていたんです。
ですが、実際にライブではそこまで盛り上げられなかったり、制作時に想像していたほど現場で機能しない楽曲たちにいらだちやくやしさがありました。
本当につらかった(笑)。
今考えてみればもっと勉強が必要だったし、アルバムを通して何をするか見通しが甘かったと思いますが、
その当時としては技術の未熟さや楽曲の質、ライブ力など自分のちっぽけさに苦しみました。

"現時点でソロアーティストとしては食べれていないけど年齢はもう30歳"という事実がだんだん首をもたげてくる。
30歳ともなると、20代から一緒にやってきた周りの仲間にレコード大賞やゴールドディスク、紅白、etc…を経験して、たびたび大きな結果を残す人も少しづつ増えてくる。
その中で「僕はまだ何も到達できていないな」という現実が首を絞めてくるんですね。
もうぶっちゃけ若くないし、出来ることと出来ないことがだんだんとはっきりしてくる。

photo by Shin Sakiura

Shin Sakiura:
これからもソロアーティストとしてキャリアを続けるには、何か一つ結果、もしくはビジョンがないと、金銭的にも精神的にもモチベーションが続かないですよね。
だけど、アーティスト活動というものは"誰かを楽しませたり、魅了する仕事"だと思っているので、「ハイ、これはダメだったね、じゃあ次に何を仕掛けよう」と常に考え続けないといけない仕事なんです。これってメンタルヘルスのバランスがとても難しくて。
「もっとこういうことをやったら面白そうだな」と、未来に期待して楽しみながらやれるフェーズは楽しいですが、失敗体験が積み重なりすぎるとだんだん動きも思考も鈍ってくる。
自分が持っている手札の中で精一杯楽しめて、失敗を笑い飛ばせる人じゃないと、こういうインディペンデントな活動は本当に大変です。

さらに僕の場合だとソロアーティストとしての活動の他に、作家、楽曲提供、プロデューサーとしての仕事があるので、さらにドライな評価に晒される部分が多いかもしれないです。

プロデュースの仕事は発注があって初めて生まれる、いわゆるクライアントワークです。
例えば、発注者であるレーベルの人たちは自社のアーティストのアルバム制作のために用意した予算の中の一部を僕に支払って、楽曲を作る。
僕のミッションは与えられた条件の中で最高の楽曲を作って、ヒットを生み出して予算を最大化すること。
なんですけど、今現在まででは発注者が期待するような大きな結果(アーティストによってKPIは異なるけど、影響力のあるランキングやチャートに乗る、SNSでバズる、賞を取るなど)をあまり出せていない。
もちろんここではあえて感情面や個人の人間関係を無視して相当ドライに表現していますが、要は仕事である以上、価値を生み出せなければ仕事はなくなるということ。
僕に期待をして、チャンスをくれる人に返すものが必要なんですね。

僕は今そういったプロデュース仕事でご飯を食べています。
逆に言えばShin Sakiuraというソロアーティストとしてはプラスマイナスゼロ。
つまりプロデュース仕事で結果を出さなければ、いつ生活できなくなってもおかしくないというプレッシャー。

資本主義経済の中で音楽をやっている以上は市場競争がある。
特に専業で音楽をやるなら、自分の音楽を市場に存在させ続けなければいけない。そこのサイクルにどうやって勝っていくかというゲーム。頑張るしかないのですが。

photo by Shin Sakiura

KUVIZM:
こういった話は、音楽仲間としますか?

Shin Sakiura:
心を許している人にしか言わないですね。
こういう話は、”結果がすべて”の思想を土台にしている考え方で、音楽は結果がなくてもいいものだし、それぞれの向き合い方があってしかるべきです。

自分の目標や、自分がこうなっていきたいというゴールに対してのギャップに苦しんでいるというところが肝心なので、そこをきちんと相談、共有できる人には話します。

KUVIZM:
シンさんのマネージメントスタッフの方は、アーティストとしての活動もプロデュースの仕事もサポートしてくれているのですか?

Shin Sakiura:
そうですね。マネジメントというよりもエージェントに近いです。

KUVIZM:
メンタルケアもしてくれるのですか?

Shin Sakiura:
その人は多分そういうのが得意ではないタイプだと思うんですけど。
ただ、僕がスケジュールや業務面で負荷が高くなるとメンタルが不安定になることはこれまでの経験から認識してくれてて、実際かなり気を遣ってくれていると感じています。ありがたいですね。

KUVIZM:
活動の戦略プランニングはスタッフの方と一緒に考えるのですか?

Shin Sakiura:
一緒にやるのですが、僕が広告代理店での会社員時代にウェブマーケティングを経験したこともあり、僕の方が詳しかったりして。リリースの度に自分でエクセルで「何日にこれ、次に何日にこれ」といったプランニングをまずは自分でやっています。
ぶっちゃけこれがすごくしんどい。
インディペンデントアーティストの活動ってなかなかクリエイションだけに集中できないんですよね。
例えばマネージャーに何か仕事を頼んだら、それを依頼した通りにやってくれているか、進捗を僕が確認しなきゃいけない。

自分がもっと結果を出せば、メジャーレーベルと契約して、戦略を立てる人や予算が増えて、クリエイティブに集中できるかもしれません。
だけど、今はスタッフと2人でやるしかない。

多分、こういう余裕のない状況で活動しているインディペンデントアーティストがほとんどですよね。
今の自分の環境を結果でもって変えない限り、上のステップにはそもそも行けない。
けど上のステップに行かないと、日々のタスクをこなすので精一杯、というような袋小路。

インディーズであろうとメジャーであろうと、どんな方法でも「一緒に仕事したいな」と思える価値、経済的な価値や存在感を生み出さないと今の苦しさを打開することはできないと思わせられる。
その中で何かうまくいかないことが重なりでもしたら、全部、自分が結果を出せないせいだと思い込んでしまうんですよね。

photo by Shin Sakiura

KUVIZM:
他のアーティストの体制についてうらやましく思ったり、自分の環境を不満に思うことはありますか?

Shin Sakiura:
クリエイティブに集中できる、規模の大きな、いわゆるセールスがあって影響力も大きい人のチームや体制に憧れることはありますけど、その人なりのしんどさがあるでしょうし、かかわる人が増えて規模が大きくなったからと言って大変なことがなくなる訳ではない、というのが音楽を仕事にする上での難しさだと思います。
僕も"頑張らなきゃ"と思います。
僕は人やチャンスに恵まれている方なんですよね。

後悔の話になりますけど、僕は恵まれていると自覚しているからこそ、現状を自分のせいだと思ってしまう節がある。
過去に、知名度も規模感もあるアーティストと作った楽曲にさらにタイアップもあって、「これはヒット間違いなしだ!シングルリード曲にします!」と言われていた作品で、みんなが思ったような結果が出せなかったことがたくさんあります。
そういった記憶を、”チャンスをものにできなかった”という後悔になってずっと反芻してしまうんですよね。

KUVIZM:
考える人によっては他人のせいにする人もいると思うんです。共作相手が悪かったとか、プロモーションが悪かったとか、タイミングが悪かったとか。

Shin Sakiura:
自分の場合は、言い訳のしようがないぐらい条件が揃ってしまっていたから、"あの時の俺、マジでもっと頑張っとけよ"と思いますね(笑)。

KUVIZM:
自責。

Shin Sakiura:
そうですね。自分の未熟さが透けて見える。メンタル破壊。

photo by Shin Sakiura

KUVIZM:
他のアーティストに嫉妬はしますか?

Shin Sakiura:
他の人の曲を聴くと自己否定スイッチが入ってしまってテンションが下がるので実はここ数年あまりプライベートでは酔っぱらってないと音楽を楽しめない体になってしまってます(笑)。

KUVIZM:
その気持ちはわかります。SNSを見ないようにするときもあります。

Shin Sakiura:
めちゃくちゃわかりますよ。

KUVIZM:
でもインプットが狭まるのでデメリットでもある。

Shin Sakiura:
そうですね。だから他の人の曲を聴くときは”意識して”聴いています。

KUVIZM:
ストレスを感じるけど、意識をして。

Shin Sakiura:
そう。ストレスをひしひしと感じて、テンションが下がりながら聴いている。
アナライズとして聴いてます(笑)。

ただ、感じているのは嫉妬というよりも敗北感かな。「ボコボコにコテンパンにやられたな」といった感じです。
嫉妬は、人の幸福を願えない感情だと思うんです。
周りの人のことは、いち人間としてとても応援している。幸せを願っています。
「俺も頑張らないとやばいぞ」という感じですかね。
みんな必死にいいものを作ろうと頑張っているなと思うんです。

昨年出したアルバム(『Inner Division』)から自分でも歌うようになって。
最近発見したのですが、作曲やアレンジは自分にとって”他の人と比べられるもの”という認識なんですけど、詩を書くことや歌うことはとても属人的というか、「肉体的で誰かと比べられないものだという実感がありました。
自分で歌う曲はそういった比較をいつもよりは”手放す”ことができる気がします。

photo by Shin Sakiura

KUVIZM:
実際、歌うことの効果はとても実感していますか?

Shin Sakiura:
とても効果がありました。
まず今まで開いてこなかった扉を開いたことで、今まで試してこなかったアイデアがたくさん湧いてきます。
あとは聴いてくれている人と繋がっているという実感が湧くようになりましたね。

歌い始めてわかったことがもう一つあって、例えば僕の場合だと、プロデューサー、アレンジャー、作曲家でありソロアーティストでもある。そして歌ったり、ギターも弾く、ベースも弾く。
それぞれのフィールドで他の人と比べ出したら、比べる対象がたくさんいてかなりしんどいけれど、1回立ち戻って、"そもそも自分が何を大切にしたいか"を認識し直すことがとても重要だと思う。

要は"自分の幸せは何か"をきちんと捉えた方がいいということです。
"自分の幸せは何か"がわかれば、"自分はそれだけがあれば大丈夫"と思えるし、極論、全ての行動もそれに基づいていけば自分に必要のないことで苦しまずに済む。

"そもそも再生回数のために音楽やってないし、俺は音楽が作れたらなんでもいいや"という考え方もあるわけですよね。そう思えるだけでとても楽じゃないですか。

KUVIZM:
そうですね。人に聴かれなくても音楽を奏でられたらそれでいいという人もいる。
ただ、そう思いながら、100万回再生を1回でも経験しちゃうとそれはそれで幸せを感じたりするのかなとか。

Shin Sakiura:
それはそれで絶対、嬉しいでしょうね(笑)。
一方で再生回数が増えていろんな人に知られることを嫌がる人もいるでしょうけどね。
僕の場合は、曲がきちんと”人に伝わっている”実感が欲しいということが最近分かってきました。それがわかったことで、どういう風に音楽をしていきたいか、どういうものを作りたいか、道筋を作りやすくなる。

そういうことを考えずに、ただ漫然と生きてしまうと、僕みたいなタイプは自分のメンタルヘルス的に良くないものを、意味もなく巻き込んでいっちゃうんですよね。

KUVIZM:
自らと向き合うこと、自問自答は大事ですね。

Shin Sakiura:
そうですね。僕の場合は、昨年出したアルバムを作った時に、それを認識する時間ができてとても良かったんです。でも、また今も悩んでいるんですけどね(笑)。

KUVIZM:
私自身の話なのですが、"自分にとって音楽は何なのか"といったことを自問自答をして答えを出せたことがあったのですが、しばらく経つとそうでもないのかなと思ったりして。

例えば、ストレスの少ない穏やかなセロトニン的な幸せで十分だと思っていたら、数週間経つと退屈に感じたりする。何かを達成したりドーパミン的な幸せも欲しくなったりする。人間という生きものの難しさというか、わがままさを感じてしまう。

Shin Sakiura:
なるほど。それでいくと、僕の話はどちらかと言うとスタンスについてですね。
例えば、今日この時点で"俺はこれがあればいいんだな"と認識できたからと言ってずっとそのままでいる必要はなくて

常に”何のためか”を感じて考え続けながら生きるのがとても大事で。
それがないと、ただ無作為に直感と刹那的な快感のままに生きることになってしまって、とてつもない感情の起伏を生んでしまう。
"今、自分が何を必要としているか"を感じて考え続けることが自己理解につながるし、自分に必要な環境やモノを揃えられるということですね。
こういった自己理解が進むと、制作でもはかどりますよね。

少し話が飛びますが、昨年出したアルバムではいろんな新しいことにトライしたのがとてもよかったです。
新しいことに挑戦することは成功体験にもなる。
"自分はいつでも変化しながら必要なことを身に付けて行ける"という実感は、過去の失敗や後悔から自分を解放してくれる。
なので、一生チャレンジし続けたいなと今は思っています。楽器や、写真もそのひとつです。
"自分の感覚"を"自分で"感じ続けたい。新鮮な感覚でいたい。ずっと進化したり、変化するという実感を持ちたい。それがないともっと深く病んでいたと思う。

KUVIZM:
新しいことにチャレンジすることはドーパミンが分泌されて幸福感に繋がるそうですね。

Shin Sakiura:
そうらしいですね。

KUVIZM:
シンさんは、敗北感やネガティブな感情にどのように対処していますか?

Shin Sakiura:
自分が向かいたいゴールと今をつなぐ。そのルートをちゃんと細分化して、自分に足りないことを整理する。
大谷ノートのようなものですね。戦略を立てる。
想定していた結果にはならなくても、 絶対に何かしらの経験はできる。
ネガティブな感情は、1回横に置いておいて、自分の今の状態を分析して、効果を測定して、PDCAを回す。

あとは、自分が”なぜそう思うか”ということも知った方がいい。
それを無視して、
"なんかいつもモヤモヤするな、やだな、けどひとまず寝て忘れてまた明日から頑張ろう!"だと、おそらく同じことを繰り返すだけですよね。
瞬間的にリフレッシュしたりするのはとても大切ですが、細かく言語化して分析することは不可欠だと思います。

KUVIZM:
認知行動療法的なアプローチでもありますよね。それは心理療法を自ら勉強して学んだのでしょうか?

Shin Sakiura:
いやいや、学んでないです。

KUVIZM:
私は以前、メンタルクリニックも運営している医療法人で働いていたことがあって、同僚の臨床心理士から認知行動療法について教えていただきました。
"ある出来事があって、それに対して自分がどう思って(自動思考)、そう感じた根拠があって、さらに反証があって、それらを踏まえて認知と考えを変えていく(適応的思考)"といったものです。

Shin Sakiura:
そうなのですね。昔から悩むことが多すぎて、自分の思考をクリアにするためのルーティーンになっています。
自分の場合、おそらく生まれ育ちや家庭環境から、自責思考がかなり強いんです。
まずそれが自覚できるだけで、自分がなにかネガティブな評価ばかりを拾い集めてしまっていて、ポジティブな評価を見落としていないかな?と対策を立てることができますよね。

KUVIZM:
紙などに書いてまとめる人もいるようですね。

Shin Sakiura:
僕もめっちゃ書きますよ。

KUVIZM:
書くと整理されてスッキリするみたいな。認知を変えて、次に進める。

Shin Sakiura:
まさにそれですね。

KUVIZM:
ネガティブな気分を変えたいときはどのような方法をとっていますか?

Shin Sakiura:
Tipsみたいなレベルの話では、例えば、お腹が空いていたらイライラして視野が狭くなるので、食べる。ネガティブになっていたら、ネガティブになっている時の自分の状態をまず観察する。

そもそも、人間として、生き物として、充足感がないからイライラしている可能性がある。
まずは、ご飯を食べて、たくさん寝て、お風呂に入って、楽しい飲み会に行く、とかですね。それが全部終わった後に考えよう、という(笑)。

KUVIZM:
私は、"これはメンタルが落ちているのではなく、体が疲れているだけだ"ということがよくあります。脳も体だから。

Shin Sakiura:
そうですね。精神と体って分離していると思い込んでる人がいますけど。脳も体だから。でも、僕はせっかちなので気分をすぐに転換したいという時は、アロマや香水など、自分の好きな匂いとかを振りまく。匂いって脳で処理される情報的に早いんだなって思います。

あとは人と話すことも大事ですね。
僕の場合、自責が強くなって思考が偏りすぎた時に、他の人がどう思うかを知る。
「それはどう考えてもお前のせいじゃなくない?」といったことを言われてハッとしたりする。

KUVIZM:
メタ認知ですね。

Shin Sakiura:
はい。自分一人が考えている意見って案外偏っていたりするのでいろんな人の視点って大事ですよね。
僕の場合、誰かに褒められたことを信じるのが苦手で。
「絶対気を遣って言ってくれているだけだ」と、うがった見方ばかりしてしまうのが課題ですね(笑)。

photo by Shin Sakiura

KUVIZM:
向上心と自己否定、セルフラブと承認欲求、それらは地続きになっていると思っています。承認欲求を馬鹿にする人がいるけれど、実際のところ生きていく上で自己肯定やセルフラブは必要だと思います。それらのバランスはどのように考えていますか?

Shin Sakiura:
"自分が他の人に言わないようなことを自分にも言わない"とか、自分のことを考える際にも基本的な人権の目線に立ち返って、自分のことを評価し直す
ことが大事だと思います。

あとは自分が感じていることを"自分がそう思いたいだけではないか"と考えます。

自分が事実を捻じ曲げて解釈していないか。
ポジティブに捉えすぎていたり、逆にネガティブに捉えすぎていたり。
例えば必要以上にネガティブに考えてしまう時は、それで思考停止して気持ちよくなっていたりと、”ネガティブに捉えることによるメリット”があったりする。
そういった瞬発的な感覚を一度排除して、客観的な評価をして行くことが、”自分がどういう状態か”を知ることにつながる。

以前、知人が病んでいる時があって、電話で話を聞いたことがありました。
まず「1回ゆっくり考えようよ。落ち着こう。」と言って、
「今のあなたはこういう状況で、それを悪いことのようにあなたは思っているけど、
ポジティブな側面もあるんだよ、大丈夫じゃない?」と客観的な立ち位置で話したり、
「●●は、本当は何がしたい人なんだろうね」と聞いて、「僕は成長実感が欲しい人です」と言っていたので、
「最近スキルを身に着けたり、成長したり、仕事が増えたりとかしてないの?」と聞いたら、「あ、してました」と言って。二人で「じゃあそれで良くね?(笑)」となりました。

KUVIZM:
コーチングのようですね。

Shin Sakiura:
コーチングになってたらよかったですけど(笑)。
僕もそういうモードに入っちゃうことがかなりあるし、誰かに言われることで、心の煮こごりのようなものをほぐせることを知っているので。
自分1人で解決できないこと自体はダメではないから、そもそも人間はそういうものだよ、と思います。

セルフラブがもっと広まってほしいですね。自分が20歳前半とかにそういう世界観を知っていたら幾分か生きるのが楽だっただろうなと思います。
僕は言語化ロジカル思考人間なので
事故って、事故って、ぶつかりまくって傷だらけになって、少しずつ情報をかき集めて言語化していってだんだんと自分がわかってきたけど。早い段階で知りたかったな(笑)。

photo by Shin Sakiura

KUVIZM:
今回のまとめに入るのですが、アーティストがメンタルヘルスを保つためには何が必要だと思いますか?

Shin Sakiura:
自分に対しても人権意識を持つことが1つ。純粋にセルフラブですね。
社会の中で生きていると、問答無用に競争に晒されて認知が歪んでいく。
歪みすぎる前に1回まずそこに立ち返る。自分が快く思わないことを自分に言わなくていい。

で、もう1つは個人的には分析志向で生きた方が結果的に楽だということ。
漫然とずっと同じこと言ってしんどくなってたら、より深く自分を知るきっかけだと思います。
逆に自己理解をせずに漫然と「今日はなんだかしんどいな苦しいな、好きなことして気分転換しよう」だと前には進めないですよね。
それぞれのペースやタイミングがあると思うので自分の歩幅で感情を振り返ったりするのが大切だと思いますね。

KUVIZM:
穴のあいたバケツで水をすくい続けるようなものですね。

Shin Sakiura:
そう。分析をしないと、傾向も対策も取れないし、自己理解が深まらない。
で、自己理解が深まらないと他の人のことも理解できない。
自分に良くないことを言う癖がつくと、他の人にも言ってしまう。
無意識のうちに人も傷つけてしまう。
自分のことを大事にできると、他の人のことも大事にできる。
自分のことを大事にしようとする姿勢は、誰かを愛する状態にとても近い。
なので、悩むことは悪いことだけではないと思います。

あと、自分では捉えきれないものを消化していくプロセスがあるおかげで、
誰かが言っていることを感じとって理解することもできるようになる。
このプロセスを飛ばすと、曲作りはもちろんそうだし、できない仕事もあると思う。いいものを高いレベルで作ろうと思ったら、その感覚はとても大事だったりしますよね。

こういう話もみんな気軽に話すのが当たり前の社会になればいいなと僕は思っています。
何も恥ずかしい話でもない。生きる上で当たり前のことだと思います。

それについて話した内容が記事になったらいいなと思って、今回のインタビューを受けさせていただきました。

KUVIZM:
ありがとうございます。インタビューは以上となります。

Interview by KUVIZM バックナンバーはこちら
(MESS氏、塩田浩氏、小森雅仁氏など)
https://note.com/kuvizm/m/mb5dcc2fd6d61

KUVIZM
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