第一者でも第二者でもなく第三者として
「第三者」という言葉があるが、そういえば「第一者」「第二者」という言葉を聞いたことがないぞ、とふと思って調べてみた(「第一走者」「第二走者」は聞いたことあるけど)。
どうやら、「第一者」「第二者」という言い方はしないらしい。法律関係の言葉がもとなのだろうか、「第三者」の意味は「その物事や出来事に直接関わりを持たない人を指す語。行為者でも行為の対象でもない者、当事者ではない者」(引用元)とあった。ということは、「第一者」はある出来事における行為者、「第二者」は行為の対象者というイメージだろうか。その分かりやすい構図として、加害者と被害者というのは一つありそうだ。
そこまで調べて、ふむふむと満足して私はパソコンを閉じた。
同時に、思ったことがある。
私は18歳で地元の愛知を出てから、学生時代を仙台で過ごし、その間に様々な外国の国々(20ヶ国くらい)を旅して、東京で就職して5年間ほど暮らし、いま栃木の那須にいる。文字通りの世界一周旅行も経験しているので、確実に地球一周分以上を移動してきているわけだが、どの街に暮らしていたとしても、自分はいつも「第三者」でいるような気がしていた。
友人とミャンマーに行ったときのことだ。
かつての首都でありミャンマーの最大都市とも言われるヤンゴンから国内線で90分のところに位置するバガンという街に私たちは足を運んだ。はずれにある小さな3階建てのホテルに適当にチェックインして、数日間の街歩きを楽しんだ。
そのホテルはオンニョという名前のおじいちゃんが経営していた。
オンニョは原付の後ろに私をのせて朝食にお気に入りの屋台に連れて行ってくれたり、ロビーでお酒をふるまってくれたり、私たちにとてもよくしてくれた。オンニョはよく愚痴を言っていた。この国のこと、政治のこと、ビジネスのこと。何かに怒っているようだった。お互いに拙い英語で、拙いコミュニケーションをとった。私はオンニョのこれからも続いていく生活のほんの一部を聴いた。
けど、数日後に私たちはそのホテルを後にした。
次の街に向かうためだ。
その国で起きていることには当事者たちがいる。何かの行為には、それをする側と受ける側がいる。旅人は当たり前のように「第三者」として、そこにお邪魔する。一瞬だけ交差する。通り過ぎていく。
それを薄情だと言う人もなかにはいるかもしれないが、これまでもこれからも世界中でそんな人たちの歩みは重なって、交わり、また離れていくだろう。
いわば「第三者性」が、旅のひとつの価値であり、魅力でもあり、あるいはそれが旅を旅せしめているのかもしれない。ちょっとよく分からないが、ちょっとよく分からないままに書いている。
そして以前なら、土地に限った話としてこの話を終えているだろうなぁと思う。でもインタビューを始めてからは、それに加えて別の感覚も日々受け取っている。その話をあと少しだけ。
インタビューでは、人と出会うときもこの「第三者性」を意識している。正確に言うと、自然と意識させられている。インタビューでは、その人の上司でも部下でも家族でもない第三者として、話を聴く。あくまでその人の人生における第三者として、一瞬だけその旅の途上にお邪魔する。交差する。
当事者として関わると、いろいろな気持ちが湧いてくるのが自然だ。「もっと成長してほしい」「変わってほしい」「成功してほしい」などと知らずに相手に求めることもある。いずれもその想いは大切であり、大切な人に対して自然と思ってしまうことで、否定することはできない。けれど、周りからそれだけを求められている気分になると、なかなかいまは生きづらい。
だから私は、第三者としてそこに出会う。
変わってほしいとか、成長を望まない一人の人として。宿で偶然出会った旅人がそんなことを相手に思ったらむしろ変だろう。私はただ、その人がどこから来て、どっちに向かうのかを聴かせてもらいながら、その人の物語をその人が好きになれたらいいなと願うくらいしかできない。インタビューではそれしかできないし、逆にそれができるのではと信じてたりもする。
個の時代と言われて久しく、リアルもバーチャルも張り巡らされたネットワークの両端で私とあなたが「第一者」と「第二者」として直接やりとりしている。街を歩いても予想外のことは早々に起きない。利害関係を期待した人間関係を「人脈」と呼び、その重要性が叫ばれたりもする。
そういえばイタリアのフィレンツェで、宿を出た先の石畳の道路の上で偶然日本人の旅人と出会って、道端で少し会話をして、せっかくの機会だからと一緒に夕食を食べた日があった。その人とはそれ以来連絡をとっていないが、その夜のことは記憶の片隅に残っていて、僕の「何か」になっている。
第三者として、どう在れたらいいのだろう。
第三者として、いま目の前のこの人に何ができるのだろう。
インタビューをしているとそんなことを思う。
22/05/06
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