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「アイデア」は「ビジョン」を生み、ビジョンから「さらなるアイデア」が生まれる~「建設的な対話」から生まれる「好循環」

こんにちは。TechnoProducer株式会社 CEO の 楠浦 です。

今日は、企業内発明塾で

アイデアを、新規事業の企画(あるいは、資金調達できる事業計画)へと育てあげる

様子を、その背景にある「発明塾」の哲学などを交え、ご紹介します。


「技術者」の方の「こういうことで、社会に役立ちたい」という想いを大切に

参加者の方の「こういう分野で、役に立つ製品/事業を考えたい」という想いが、非常に強い場合があります。想いが強いことには、推進力になるというメリットがある一方、柔軟性が失われる可能性があるというデメリットがありますが、この場合、まずは「最初の一歩」を見つけるために、その「想い」を上手く活用するのが「発明塾」式です。

「育てる」を繰り返せば、その後の展開可能性は文字通り「無限大」ですから、デメリットは消せます。「育てる」を重視し、また、その手法と事例を参加者が自由に利用して、「アイデアを育て合う」自主討議ができる環境を整えている「発明塾」ならではの考え方、と言えるかもしれません。

最近では、ここにOBOGが加わって、一つの生命体のようなダイナミックさをもって、企画が仕上がっていく例もあります。発明塾式を理解しているOBOGが的確な情報提供を行うだけでなく、OBOGも、そこでの対話から、自身の業務や企画のヒントを得ていると思います。「相互作用」により、参加者全員が成功し、成長できる場になりつつあると感じます。

脱線しました。

約3か月かけて、「想い」から生まれたアイデアを、コツコツと「建設的な対話」でつないで、「大きなビジョン」と、「その第一歩になる具体的な商品」の企画へ育てていくのが、「発明塾」式です。

「批判」より「アイデア」の方が簡単~「建設的な対話」「壁打ち」で鍛えていく

企業内発明塾を開催した、ある企業の参加者の方から、

それ儲かるんか、とか、答えのない批判しか周りからは出てこないので、最近、弊社では誰も新規事業の提案なんかしなくなってます

というお話を伺ったことがあります。

僕は、「批判」するよりも、「関連するアイデアを、次々にぶつける」ほうが、簡単で効率的だと考えています。というか、実際そうですし、毎日そうしてます。

「批判より、アイデアを出す方が簡単」

だからです。それ儲かるの、とか聞きません。

「儲かるようにしてあげる」(もっと儲かりそうな関連アイデアを出す)

方が、早いからです。まず

批判は疲れる

もので、自分も相手も、疲弊します。誰も幸せになれません。

アイデアは無限に出せますし、自分のアイデアで自分も周りも勇気づけられ、ますます元気になる、という好循環が生まれます。その場にいる全員が、

「疲れるところを知らない」

状態が生まれます。「フロー状態」だという方もおられますし、「右脳と左脳がつながる、アハ体験」だという方もおられます。名称は何でもよいでしょう。実際は疲れますけど(笑)、非常にハイな状態が長時間続くのは、どうやら間違いないようです。参加者の証言が、それを裏付けています。

僕の周りにも、かつて、批判を繰り返すけど、それに対して自分は何もしない人は多数いました。批判するぐらいなら、「対案」を考えて自分でやって貢献したらいいんじゃないの、という気しかしませんでした。なので、僕はそうしています。

「アイデア」は、「比較」で鍛えられる~「建設的な対話」で結果が出る理由

もう少しまじめな話をすると、アイデアを批判したとして、それに対して答えがあるかどうか、誰にもわかりません。

「答えのない問い」

を長時間抱えて、考え続けられるほど、多くの人は強くありません。そういう人を育てるんだ、と意気込むのは勝手ですが、成功体験がない人にそれを身につけてもらうのは不可能です。

「人を育てるのに最も重要なことは、成功体験」

これが、僕と発明塾の答えです。数百人の塾生さんを一人ひとり指導してきて出た、結論です。スーパーマンを待っていても、新規事業は生まれません。むしろ、新規事業を立ち上げながら、育ってもらうしかないと、僕は、自身の経験と、周囲の起業家の成長過程をつぶさに観察して、感じています。

本題に戻ると、アイデアに対して、別のアイデアをぶつけると、問題は急に簡単になります。

「元のアイデアか、新たに出たアイデアか、どちらが良いか」

という、択一式になるからです。大学受験(英語)の指導を、教材開発からやっていて分かったことですが、「自由記述問題」が苦手な高校生も、「択一式」はきっちり答えてきます。自由記述も、「膨大な知識ストックの中から、順列組み合わせを選ぶ」という意味で、実は頭の内部では択一式問題になっています。ただ、組み合わせ(=選択肢)が多すぎて、選べないだけです。

「建設的な対話」

では、そのアイデア同士の組み合わせも含め、認知負荷がかかりすぎない程度の意思決定を、適切に積み上げることで「大きな飛躍」を生み出します。もちろん、「答えのない問い」を適宜挟むこともあります。それは、思考が「単調に進みすぎる」場合です。割合としては、9:1ぐらいでしょう。

「進むからこそ、見えてくるものがある」

ことが、発明塾での10年500回以上にわたる討議でわかっていますから、「止まりっぱなし」にはしません。コツコツ進め、たまに止める、ぐらいになります。リズムが大事ですね。これは僕が、音楽を長らく趣味にしていることも、影響があると思います。僕は、「対話」において、「リズム」を重視しています。僕の人生経験の集大成が、発明塾式である、ともいえるでしょう。

建設的な対話で、アイデアを生み出し、選び続ける。発明塾では「流れ」と「突破」という言葉を使います。答えのない問いや、大量の情報やアイデアを準備し、ワーッと風呂敷を広げて途方に暮れるのではなく、選択を積み重ね、一つの流れを作る。僕の頭の中には、音を選んで積み重ね「曲」を作るのに近いイメージがあります。

選択(意思決定)を積み重ねることで、判断基準が磨かれ、「軸」ができます。「ブレない軸」は、新規事業や起業において、もっとも重要なものだと、僕は考えています。簡単なことは、他の人がすでにやっていますから、自分が今から取り組む新事業は、難題であり困難の連続です。「ブレ」ている場合ではありません。

「ビジョン」が見えてくれば、さらなる「アイデア」が出てくる

最初は、「こういう分野(例:再生可能エネルギー分野)で、役に立つものを作りたい」という、非常に漠然とした「想い」であったものが、「一つの具体的な製品のアイデア」を核にして、「ビジョン」へと生まれ変わる瞬間が来ます。

僕はこれを

「結晶化」(Crystallization)

と呼んでいます。見かけ上「一瞬で起こる」のですが、実際には、そこまでに行った膨大な「選択」の積み重ねが、結晶を生み出します。方向がブレないので、一つのアイデアであっても、明確な方向を指し示してくれます。

背後にある、アイデアの「積み重ね」というか、取捨選択の意思決定の積み重ねが、非常に重要な役割を果たします。意思決定を積み重ね、選び続けて残ったアイデアは、ビジョンを生み出してくれます。今日も一つ、それを目(ま)の当たりにしました。じわじわ冷やされ、過冷却状態になった水が、一気に凍るようなイメージです。

見た目は一瞬、準備は膨大

それが、

「アイデアが、ビジョンへ昇華する」(結晶化)

の正体です。参加者の中には、「手品を見ているようだ」とか「魔法にかかったみたい」という言葉を使われる方もおられます。

魔法はありません。

「よくできた科学は、魔法に見える」(アーサー・C・クラーク)

だけです。

今日は、ある方の

「ちょっとした、ひと言」

に私がコメントする中で、この

「結晶化」

が起こりました。今回は、私が玉を持っているときに起こってしまったので、それが正確に参加者の方に伝わっているか、少し観察する必要があります。

ほんの、一往復、二往復ぐらいの対話の中で、結晶化は起こります。上記のように、参加者の中だけでなく、私の中で起こる場合もあるので、注意が必要です。もちろん、私の中に生まれた「結晶」(言語化されたビジョン)は、できるだけ丁寧に、その思考回路を含め、お伝えしています。

目指すべき高み(ビジョン)が明確になれば、そこに向けた最初の一歩になる製品も、明確になります。新規事業(ビジョン)に至る、最初の一歩(新製品)を正しく考えることを、発明塾では重視しています。登りたい山が見えてくれば、何を準備して、どこから登るか、皆さん勝手に考え始めます。周り(支援者や他の参加者)も、どんどん考え、アイデアを出してきます。まさに

アイデアがビジョンを生み、ビジョンがアイデアを呼び、アイデアがさらにアイデアを呼ぶ

という、好循環の完成です。ここまでくれば、僕がやることは

それ(企画)を、投資家に正しく伝える

手助けをする、ことになります。企業内「発明塾」は、その大半は一部上場企業、しかも、いずれも業界のTOP10企業様ですので、「投資家」は、原則として新規事業/新規術開発部門の担当役員の方になります。スタートアップの場合は、投資家は、「エンジェル」か「ベンチャーキャピタル」になりますね。

「事業の価値」「技術の価値」を正しく伝える~伝え方次第で、事業/企業価値は10倍にも100倍にもなる

企業内発明塾に参加いただく方は、「技術者の方」が大半です。僕もそうでしたが、「価値を伝える」のが、苦手な方ばかりです。僕がそれをブレークスルーできたのは、「このままだとつぶれる」という状況まで追い込まれた前職のスタートアップで、「次の一手」を特許情報分析から導き出し、資金調達を行ったときです。

「このままだとつぶれる」

わけですから、何をしてもよいというか、何でもしなければなりません。他の人を批判したり、愚痴を言っている暇はありませんので、自分で特許を調べ、自分でアイデア(仮説)を出し、企画書に落とし込み、顧客候補にヒアリングに行く、を繰り返しました。これで、2つの新規事業の検討を行いました。(実は、アイデアは3つありましたが、人手が足りず、そこまで手が回りませんでした)

同時に、2件の新規事業の企画を立てた

わけです。ある事業については、半年で見込み顧客が見えてきました。ある一定の技術水準をクリヤすれば買ってくれる、という顧客を捕まえた、ということです。もう1件は、市場はある程度見えていたものの、自社での技術蓄積がゼロだったので、少し時間をかけて技術開発を行い、サンプル出荷を行いながら有望な顧客を見つけ、最終製品の開発につなげる、という戦略にしました。1つは、当然のことながら僕が事業責任者になり、もう1つは、事業開発は当時の社長に任せ、僕はCTOとして開発を統括しました。

資金調達目標は5億として、150ページの事業計画を書きました。本当にやりたい事業について将来の計画や現状、根拠などを丁寧に書いていくと、あっという間にそれぐらいになります。実際には、枚数は削ってもう少し密度を高くしました。問題なく調達できました。幸運にも、1件の事業はその後、大手化学メーカー様へエグジットされました。

この時の経験から、特にスタートアップのCEOを支援する場合、事業計画を徹底的に書きまくるよう、お願いし、また、そうなるよう「建設的な対話」、発明塾でいう「壁打ち」を繰り返します。CEOは忙しいので、僕とCEOの対話を、CFOが事業計画書に書きとめていく、という方法も有効です。ですが、やはり

自分の言葉で、これから起こること、起こしたいこと、起こすべきことを、徹底的に書きまくる

ことが、大事だと思います。支援先のスタートアップのCEOは、それを

「預言の書」

と、おっしゃっていました。自分が突然死んでも、周りのメンバーが実現できるように、ということのようです。

事業計画/企画に、魂を吹き込む

という感じです。その他、スタートアップ企業は若くて社歴が浅いメンバーで構成される場合が多く、メンバーがCEOの考えのスピードについていけない、ということもよく起こります。支援の一環として、メンバーを入れて討議する/メンバーだけで討議する、というようなことも、定期的に行います。

ここまでいけば、資金調達の備えは万全です。ディール(Deal:取引)ですから、100%はありません。

「人事を尽くして、天命を待つ」

状態になります。

特に、「テック系スタートアップ」の場合~「技術とビジネス」の理解力がある相手と「壁打ち」を

スタートアップにおける「壁打ち」(建設的な対話)の重要性については、以下でも解説しています。

それなりに経験があり、実力も十分と思われるCEOや取締役の方からも、「やはり一人では考え切れない、壁打ちの相手をしてほしい」というお話を伺います。僕自身もそうですが、一人で考える、には限界がありますが、全く話が通じないと、どうしようもありません。

特に、テック系スタートアップの場合、「技術の理解」(開発中の技術が理解できないと話にならない)と「ビジネスモデルの理解」(マネタイズできる企画を考え出せるかどうか、は非常に重要)が早い相手を見つけ、壁打ちを依頼する必要がありますが、探すのは容易ではないと、僕自身も感じます。

僕自身は、たまたま、細胞培養のようなライフサイエンス、ナノテクのような材料科学や半導体、内燃機関や風力発電のような大型機械やエネルギー、医療用ロボット、など、多数の技術・事業分野を手掛けてきているので、「楠浦さんなら、わかるでしょ」ということで、声掛けいただく例が増えています。それをこなしているうちに、無線通信・製薬・宇宙・深海など、他の最先端分野にも詳しくなる、ということになっています。

現時点で、「支援をお願いできない分野(理解できない技術分野)はありますか」と聞かれて、「無いです」と言える状態になっています。先日は、あるコンピュータサイエンス関連の特許を、一件(試しに)読んで欲しいと頼まれました。さっと読んで、ピンときましたので「ここが本質で、革新的な部分ですね」と率直にお伝えしました。担当の方からは「過去、どの投資家も、この技術を理解できなかったのですが・・・」との回答をいただき、大変喜んでおられました。

伝え方が重要

ということです。伝えるには、誰かが徹底的に理解する必要があります。その役割を、僕が担う。これが、企画の最終段階であり、「投資家に、技術/事業の価値を正しく伝える」段階の話です。

ここは、最後まで人が介在する部分かもしれませんね。相手が人ですから。



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