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あの人のこと。

彼はすやすやと眠る。


いや、すやすやなんてものじゃない。

大きないびきをかきながら


私が隣で寝ていることなんか

全くわかっていないかのように、眠る。


彼はすやすやと眠る。



彼の隣で眠れない夜は


あの人とのことを思い出す。


隣にいるのが心地よくて


とてつもなく居心地が悪くて。



何を話したらいいのか


何をどう伝えたらいいのか


この気持ちをなんと言えばいいのか



悩みあぐねていた日々を。




今日は何を話そうかな!なんて、会う前に考えて


実際に会ったら、考えていたことなんてどこかへ吹っ飛んで、隣に入れるだけで幸せで。


だけれど、隣にいすぎると


居心地の良さに怖くなって。


いつか嫌われることを恐れて、

空回って、

ふわふわと浮いて、

ゆらゆらと堕ちて、

ぐるぐると同じ場所を走り回って。



あの人のことが

頭の中を

心の中を離れなかった、あの頃。






彼の寝息は、この上ない安心を与えてくれる。



そして、孤独な夜を

闇の中のような混沌を

あの人を思い出させる時間をくれる。


そんな時間が私は何よりも疎ましく

愛しい。






愛しい。

一体何が愛しいのか、


その答えだけは出さないふりをして今日も目を閉じる。











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