見出し画像

私の出会った観音さま

仏教にも仏像にも全くといっていいほど知識がない。
それでも心の中にイメージぐらいはある。

私は先日不思議な宗教体験をした。

3回目の抗癌剤治療後、
会計に行ったとき、
悪魔の一撃のような副作用に襲われた。

眩暈はする。手足は震える。声が掠れて話ができない。
カードの暗証番号も手が震えて打てない。

イスに倒れこんだきり動けなくなったのだ。
何とか夫に電話して迎えに来るように頼んだ。

もう4時過ぎ。
待合室には誰もいない。

その間、病棟の看護師さんとは違う赤い看護服の女性が
何処からか現われ、
私の横にじっと立っていた。

「生活支援課の看護師です」とおっしゃったような気がするが、その名称も今となってはあやふやだ。

彼女は私の傍から離れず、あちこちに何かささやき連絡している。

化学療法室の看護師さんが下りてきて私を車いすに乗せ、三階で休ませた。生活支援課の彼女も三階まできて、じっと私を見守ってくれている。

静かに黙って……
ただ見守ってくれている。

迎えに来る私の夫が高齢だと聞くと、
玄関の外のタクシー乗り場まで行って、タクシーの到着を待っていた。
高齢だから手を貸さなければいけないと思っているようだ。

夫が院外薬局に薬を貰いに行っている間も、彼女は私の傍に立っていた。

私の発作が治まり、
帰りのタクシーに乗るまで、
私に付き添い、
私のハンカチを水で浸して顔を拭けるようにしてくれた。

タクシーが動き出すまで大きく手を振って見送ってくれた。
もう辺りは深い黄昏色に染まり、人の姿も見えない。

あの恐怖の30分の間、
たくさんの観音菩薩さまたちが私を見守り、
手を貸し、
無言で励ましてくれていたことを私は感じた。

赤い服のあの女性は
観音菩薩様の総大将だと
私は勝手に思った。


この画は、醍醐寺如意輪観音像を描いたつもりだが、
私があの時出会った観音様のお姿である。
 
                    おわり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?