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現代語俳句への旅 35 〜かえってこない雲〜


「 かえってこない雲 」
~現代語俳句集~

しずかさをひびかせている風鈴よ

この世から消えてもきえず京の虹

いまの世の後ろすがたよ奈良団扇

目をつむっても瑠璃光寺蝉しぐれ

人として梅雨のなかゆく熊野古道

草笛は吹いてこそ野は晴れてこそ

富士の嶺はるかにひいてゆく汗よ

故郷までつらなって山ほととぎす

そのはてに都市いくつもよ夏の河

平およぎ海をひらいてゆくことよ

夜釣りして月あかりまた星あかり

東京タワー灯が朝焼にかわるまで


蓮いちりんいのり代表するように

うなばらよ壱岐島ひとつ蝉しぐれ

無になって風鈴を聴くふるさとよ

ラジオからはるか熊野の滝のおと

いちぞくのはじまりの土地青田波

はたらいてひと代ひと代の青田風

生きるとはただ生きること炎天か

トマトまでおおきなことよ北海道

居ながらにはるかな都市よ大夕焼

あしたとはとわにとおくに大夕焼

キャラバン隊熱砂の丘を谷をこえ

なにを成すためのじんるい星月夜


さまざまななやみのこたえ朝顔よ

ひるがおがつぎつぎに咲き海の音

にわじゅうの夜があかるい夕顔よ

夜顔よかたりつがないものがたり

またひとり京をきよめる打ち水か

透きとおるこおりのうつわ夏料理

あおえらぶカットグラスよ大吟醸

いまだけはなにもいらない風鈴よ

母と子が手つないでゆく梅雨明か

すずしさよ地球にはある風の地図

漕ぐおとよカヌーのかげは水の底

都市は灯をともしつづけて夏の霧


こころして残暑の候に向かうのみ

げんばくととわにたたかう噴水よ

ときをこえて原爆の日の鐘のおと

おおぞらがわすれるものか原爆日

そのおくにながさきがある大夕焼

ことごとくかえってこない雲よ秋

秋の暮缶蹴りのおとからんころん

ながれ星なにをはこんでくる町ぞ

ぼうえんきょう木星土星あまの河

日本百景どこにいっても澄む秋か

水澄むということとおい湖国まで

町じゅうにあまさひろがれ新豆腐



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