現代語俳句への旅 35 〜かえってこない雲〜
「 かえってこない雲 」
~現代語俳句集~
しずかさをひびかせている風鈴よ
この世から消えてもきえず京の虹
いまの世の後ろすがたよ奈良団扇
目をつむっても瑠璃光寺蝉しぐれ
人として梅雨のなかゆく熊野古道
草笛は吹いてこそ野は晴れてこそ
富士の嶺はるかにひいてゆく汗よ
故郷までつらなって山ほととぎす
そのはてに都市いくつもよ夏の河
平およぎ海をひらいてゆくことよ
夜釣りして月あかりまた星あかり
東京タワー灯が朝焼にかわるまで
◇
蓮いちりんいのり代表するように
うなばらよ壱岐島ひとつ蝉しぐれ
無になって風鈴を聴くふるさとよ
ラジオからはるか熊野の滝のおと
いちぞくのはじまりの土地青田波
はたらいてひと代ひと代の青田風
生きるとはただ生きること炎天か
トマトまでおおきなことよ北海道
居ながらにはるかな都市よ大夕焼
あしたとはとわにとおくに大夕焼
キャラバン隊熱砂の丘を谷をこえ
なにを成すためのじんるい星月夜
◇
さまざまななやみのこたえ朝顔よ
ひるがおがつぎつぎに咲き海の音
にわじゅうの夜があかるい夕顔よ
夜顔よかたりつがないものがたり
またひとり京をきよめる打ち水か
透きとおるこおりのうつわ夏料理
あおえらぶカットグラスよ大吟醸
いまだけはなにもいらない風鈴よ
母と子が手つないでゆく梅雨明か
すずしさよ地球にはある風の地図
漕ぐおとよカヌーのかげは水の底
都市は灯をともしつづけて夏の霧
◇
こころして残暑の候に向かうのみ
げんばくととわにたたかう噴水よ
ときをこえて原爆の日の鐘のおと
おおぞらがわすれるものか原爆日
そのおくにながさきがある大夕焼
ことごとくかえってこない雲よ秋
秋の暮缶蹴りのおとからんころん
ながれ星なにをはこんでくる町ぞ
ぼうえんきょう木星土星あまの河
日本百景どこにいっても澄む秋か
水澄むということとおい湖国まで
町じゅうにあまさひろがれ新豆腐
いつも
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