マガジンのカバー画像

Art at Outdoor|美術の扉の外へ

7
[アート時評]作品、展覧会、アートに関する出来事について記します。感想、メモ、エッセイなどテキストの形式はさまざま
運営しているクリエイター

記事一覧

無を写し、空を表す──木村華子展 SIGNS FOR [       ]

無を写し、空を表す──木村華子展 SIGNS FOR [       ]

 ビルのてっぺんにある屋外広告板が白くなっているのを見かけるようになった。こうしたビルボードはかつてドライバーからよく見える場所に競うように立てられ、当初は清涼飲料水やタバコ、バブルの頃は不動産開発から女性ファッション雑誌まで、そしてバブル崩壊後は消費者金融の巨大広告が乱立していた。しかし、ふと気がつくと近年は不況やインターネット広告隆盛のご時世からスポンサーがいなくなったのだろう。見上げれば広告

もっとみる
遠藤一郎「ちょっとほふく前進やってます」

遠藤一郎「ちょっとほふく前進やってます」

生きとし生けるものとの連帯遠藤一郎の今回の個展は一般には公開されない。作家自身がEメールで50通出したという招待券を持った人しか入れないという。

でも本当はそんなこともなく、招待券はアートセンター・オンゴーイングのホームページから誰でもダウンロードできると遠藤は笑うのだが、それでもこの展覧会は観る人を選ぶ。それは遠藤からのメールにあった以下の文言から察せられる。

はっきりと見たいと思ってくれる

もっとみる
光の虚と実 海野貴彦個展「光源郷」

光の虚と実 海野貴彦個展「光源郷」

展示を見て、海野貴彦は一貫して風景画家なのだと思った。むろん一般的な意味での風景画家のことではない。

海野自身にとって重要なのはそのときその場所から見ることのできる光景をいかにして人びとに見せるか。そのために海野はいつも見晴らしの一番いい場所にすすんで登っていくような心意気の持ち主なのだ。

最初期にはグラフィティ調のドゥローイングを画布や衣服にオールオーヴァーに描く作風からスタートし、幾何学的

もっとみる
江口寿史イラストレーション展「彼女」によせて

江口寿史イラストレーション展「彼女」によせて



はじめに 「江口寿史イラストレーション展 彼女」が始まった(金沢21世紀美術館市民ギャラリーB、2018年4月28日〜5月27日、主催=北陸中日新聞+石川テレビ放送)。大規模な巡回展「江口寿史KING OF POP」展からわずか2年で、多くの新作を含む新たな個展が開催できたのは、何より江口寿史さんのイラストレーションがここにきて技巧的にさらなる進化を遂げているのと、1980年代リヴァイヴァルと

もっとみる
「発見!身のまわりのアノニマスデザイン展」ごあいさつ

「発見!身のまわりのアノニマスデザイン展」ごあいさつ



ごあいさつ

 学芸員養成課程の授業「博物館実習I」は、実際の博物館や美術館等で行われる学外実習の前に、基本的な知識や技能を身につけることを目的とした学内実習です。さまざまな専門分野の学生が、博物館学を基盤としながら人文科学・自然科学・芸術学などについて幅広い見識を深めたり、すべての分野の資料の取り扱いを体験したりするなど、領域横断的かつアクティブラーニング(体験学習)型の授業を行っています。

もっとみる
和田永「エレクトロニコス・ファンタスティコス!──本祭I・家電雷鳴編」に寄せて

和田永「エレクトロニコス・ファンタスティコス!──本祭I・家電雷鳴編」に寄せて

蓄音器と蘇音器、そしてレコードの発明以後〈機械の体〉を手に入れた音たちが、やがて放送の電波に乗せられ、インターネットで共有され、音楽はクラウドに蓄積される〈電子の霊魂〉になってしまった。オーディオや楽器もデジタル化によって極小化され、もうその形は見えない。和田永さんは、中古家電を楽器に蘇生することで、肉体を失った音楽に再び肉体を与えようとしているようだ。捨てられたブラウン管テレビや扇風機が光る楽器

もっとみる

村上隆のアニメ「6HP」をアートとして見るためのフレームの提案

年末にテレビ放映された村上隆のアニメ監督作品「6HP(シックスハートプリンセス)」(2016年12月30日 TOKYO MX)について。アニメとしてどうなのかはアニメ界の言説に任せるとして、ここでは美術としてどう見たらいいのか──内容よりも方法論に着眼しながら、作者の意図と作品の位置をとらえるための視点──を記してみる。

メディア(媒体)をメディウム(絵具)にして描く「6HP」をアートとして見る

もっとみる