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3行日記 #167(木の階段、旅立ちの日に、燕の巣)

三月三十日(土)、晴れ
春分、雷乃発声、かみなりすなわちこえをはっす、春の雷が鳴りはじめる。
春分、梨花欺雪、りかゆきをあざむく、梨の花は雪に負けないくらい白い。

午前、午後に用事があるので、先週につづき北大路へ。ビブレのスタバで物書き。

昼、おにぎりを食べたあと、近くに住んでたころによく食べていたたこ焼きを買って公園で食べた。公園の入口に、うしろにリアカーのついた自転車が停まっている。遠くからやってきた旅人のにおいがした。見渡すと、公園の隅のほうで、走り回って遊ぶ子どもたちに背を向け、昼飯なのか何かに齧りついている。ここからは斜め後ろからしか顔が見えないが、日に焼けて黒々とし、耳のつけ根から首にかけて筋が隆起していた。

午後、妻の職場の音楽会に参加するため紫明会館へ。前はよく歩いていたが、初めてなかに入った。木製の階段を踏むと、その一段だけでなく全体が、ぎいぃっ、ぎいぃっと、一歩ずつ軋む音がした。壁に嵌められた窓ガラスも、時代を感じるガラスで、階下の見慣れた風景もちがった印象を受ける。まずは女の子のピアノの演奏。鍵盤を一音一音、ひとつずつていねいに叩き、おぼつかない指さばきで音をたぐりよせる。次はピクミンの歌。愛してくれとは言わないよ。おぼつかない、ゆらゆら揺れる声。ときおり、楽譜から視線をあげて、客席をちらりと見る。みんな堂々としていてすばらしい。

途中、靴磨きの職業体験の報告もあった。背の高い中高生に囲まれて、私が磨いてもらった小学校低学年の男の子もいた。その子だけ、他の子の肩くらいの高さだった。みんなしっかり感想を伝えていた。印象的だったのは、話し始める前に、口を動かして無音の子がいたのだが、みんな、静かに待って、聞き入っていた。話す速さはひとそれぞれみんなちがう。みんながお互いの特性を思いやれば、通じあえる。改めて妻の仕事は大事なものを守るかけがえのない仕事だと感じた。

出番を終えた子どもたちは、やっと落ち着いたあ、と言いながら親のもとにかけより、どうだった? と感想を訊いていた。そりゃそうだよな、あんだけのひとに見られながら歌うのは緊張するよな、と思っていると、中学生のとき、音楽室のとなりの部屋にひとりずつ順番に呼び出され、ボヘぇミアぁの川よ、モぉルダぁウよぉ、と先生のまえでひとりで歌ったときのことを思い出した。緊張しすぎて喉が閉じて、ぜんぜん思うように歌えなかった。

最後にウクレレを披露した男の子は、今日がこの施設に通う最後の日だったようで、サプライズで、卒業式の定番の「旅立ちの日に」の歌を贈った。男声パートを歌うひとが少なかったので張り切って声をだしたのだが、午前中に誰ともしゃべらず喉が閉じていて、腹から声がだせなかったが、みんなの声が、木造の古い校舎の講堂に響いて、とてもいい卒業式だった。壇上の卒業生の男の子は泣いていた。

その後、久しぶりに北大路から一乗寺まで疏水ぞいを歩く。桜はまだだったが、辛夷が満開で、雪柳もあざやかに咲いていた。恵文社で安部公房の新刊の文庫二冊を購入。いつもの喫茶店で書き物。

夜、昨日の残りのカレー、焼売、冷奴、はるか。チャックの散歩、北へ、JRの駅の北側にある、一カ月ほど前にもらった試供品の鹿のジャーキーの味が忘れられないのか、先日につづいてまたもや、店のほうへ歩いていった。味のちがいのわかる犬だったのか。そんなにおいしかったなら、誕生日かなにかの記念日に買ってあげようかな。そのまま南へ歩いて帰宅。帰るときフレスコの入口のうえに燕の巣があった。もう子育てをはじめたようだ。今年も塒入りが楽しみだ。

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