誰が黒崎やねん

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  • アイムシリウス。

    特にやりたいことは無い。でもつまらない人生にはしたくない。これまで、悪くはないけど別に良くもない人生を送ってきた瀬名月見(セナツキミ)には、みんなから羨ましがられる「女優」の彼女がいる。有名人の彼女と交際するために月見が磨いた特技は、ちょうど目立たないポジションに自分の身を置くこと。そうやってモブキャラの1人でいるのは、誰にも嫌われることがないから楽だった。

  • 気ままに書こう読書感想文

    アラサーになっても上手に文章が読めない、書けない!という無力さに抗うため、苦手な読書を始めました。 そしてどうせなら、小学校の頃に嫌いすぎてトラウマになった読書感想文を、大人になった今克服しよう!という意気込みで、始めてみました。

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小説「アイムシリウス。外伝 ーこころー」

〈あらすじ〉  いつも明るく、笑顔を絶やさないこと。大人の人に対しては、正しく敬語を使えること。そして、確かな演技力。優秀な子役の条件を満たす子供はたくさんいるが、夏来こころ(ナツキココロ)という子はその中でもかなり目を引く。彼女は「作り方」が巧く、どこにいてもまるで本当に、ただ無邪気にその場を楽しんでいるような表情を見せる。  業界関係者からそんな評価を受ける御神湖心(ミカミココロ)の今があるのは、月並みな表現だが、周囲の人達の支えがあったからだった。たくさんの愛を注いで

    • 小説「アイムシリウス。」(19)

       2021年7月16日。夏来こころ(ナツキココロ)は、彼氏である瀬名月見(セナツキミ)の実家を訪れていた。リビングのテーブルで、ランチをご馳走になっているこころと、月見の母の栞(シオリ)が話をしている。 「月見、相変わらずですか?」 「うん、引きこもってる。まったく、子供が2人揃って引きこもりってどんな家庭なのよ、ねぇ」 「仕方ないですよ。それに、月見のは私にも責任の一端があるので」 「こころちゃん。そういうのは言わないって約束でしょ? 月見の不出来は親の責任。こころちゃんの

      • 小説「アイムシリウス。」(18)

        第三話 と、月見を抱き締めるこころ。天女のよう。  「旨っ!!安っ!!」の文字が目立つ庶民的な居酒屋の一角、4人掛けのテーブル席2つを使って、劇団電気ショッカーの打ち上げが行われていた。打ち上げとは言っても特に大々的な労いの名目があるわけでもなく、たまたま事務所内で行っている演技レッスンで所属者全員が揃い、盛り上がったついでにみんなで居酒屋へやってきた次第である。 「居酒屋! 掛け声!」 事務所付きの映画監督で演技レッスンの講師も行っている当障(アタリサワリ)が声を掛ける。

        • 小説「アイムシリウス。」(17)

           瀬名月見(セナツキミ)は、人気のない寂れた通りの一角に座り込んでいた。念願だった1人の時間を、ようやく手に入れたのだ。オーディション会場で出会った燈孝之助(アカシコウノスケ)にこの場所を教えてもらって、行ったら今度はチンピラに絡まれて、そこを見ず知らずの金髪に助けてもらって、そしてようやく今にたどり着いた。ただ一人になるだけでこんなにも人の手を借りなければならないのかと思うと、月見の気分は落ち込むところまで落ち込んでいった。そこで月見の心を埋めたものは、やはり覚えたてのセリ

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        小説「アイムシリウス。外伝 ーこころー」

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          19本
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          6本

        記事

          小説「アイムシリウス。」(16)

           人が行き交うセンター街を、目立つ男女が歩いていた。男の方は180cmを越える長身で金髪にネックレス、遠目に見ても派手で目立つような大男がスマホを両手で持って、何やら熱心に動き回っている。女の方はばっちりとメイクを施して服装はパンツスタイル。いかにも仕事のできそうなオーラを漂わせていた。こちらは先ほどから目を尖らせ、男の顔を見上げながら一方的に話しかけている。 「だからなんで金髪でオーディション会場に来る気になるわけ? どういう神経してんのよ。いくら演技に自信あってもビジュア

          小説「アイムシリウス。」(16)

          小説「アイムシリウス。」(15)

           吐き気が収まらない。苦しい。そういえば頭も痛くなって来た。熱があるかもしれない。これは風邪かもしれない。  瀬名月見(セナツキミ)はオーディション会場のトイレの個室に閉じこもって、必死にそんな想像をしながら自分の体調を崩そうとしていた。なるべく時間を使って、もう会場に戻ることができない正当な理由を作ろうとしていた。しかし、できなかった。考えれば考えるほど、むしろ健康で、クリアに思考が働いている自分に気づくばかりだった。この状況は、以前にエキストラの現場で「事故」を起こし、怖

          小説「アイムシリウス。」(15)

          小説「アイムシリウス。」(14)

          「あっちの方はオーディションやってるからあんまり近づいちゃダメだよ。声もダメ。あとこっちがトイレ。この階のやつしか使っちゃダメだって」  夏来こころ(ナツキココロ)が初めてオーディションにやってきた瀬名月見(セナツキミ)のために、会場の案内をしている。月見は入り口で一通り案内スタッフから説明を聞いてきたので全部知っていたが、今はとにかくこころが側にいてくれるのがありがたくて、熱心に説明を聞いていた。 「じゃあ控室戻ろ」 「はい」  控室の中には、外よりもさらに多くの人がいた。

          小説「アイムシリウス。」(14)

          小説「アイムシリウス。」(13)

           燈孝之助(アカシコウノスケ)は夏来こころ(ナツキココロ)にイライラをぶつけていた。 「ほらあいつらも!もうこんなに応募者が殺到すんなら、カップル応募以外に受かる道なんかねぇだろ!」 「そんなに自信無いならやめときゃ良いじゃん」 「あ!? あるわ! そもそも選ぶ側に俺らを選ぶつもりが無ぇだろって話」 「うるさいなー、済んだことをいつまでもごちゃごちゃと。女子か」 「元はと言えばあんたの彼氏のせいでこんなことになってんだぞ! まったく、とんだ損害だよ!」 「月見は悪くない!」

          小説「アイムシリウス。」(13)

          小説「アイムシリウス。」(12)

           まだ完成して間もなく、よく整備された公園の広場は、快晴の天空とよく釣り合っている。広場にはベンチが点在しており、それらの中でも、真後ろに色とりどりの花が咲く花壇が添えられ、一際映えを狙えるロケーションが、今日撮影するシーンの芝居場であった。芝居場付近にはドライ(カメラ抜きで行うシーン通しリハーサル)を終えたばかりの、ヒロイン清子(サヤコ)を演じる白羅真鳳(シララマトリ)、清子が目撃するカップル役を演じるエキストラの燈孝之助(アカシコウノスケ)と夏来こころ(ナツキココロ)、さ

          小説「アイムシリウス。」(12)

          小説「アイムシリウス。」(11)

          『慢性鼻炎の私』 監督:水田麻子 主演:白羅真鳳 (第1話より抜粋) 両方の鼻にティッシュを詰めたまま、不機嫌に公園を歩いている清子(さやこ)。目の前のベンチで、楽しそうにイチャイチャしているカップルが目に留まる。 ナレーション(霧島清子、35歳独身。恋も仕事も、上手く行かないのにはある理由があった。彼女はそう! 慢性鼻炎である!) 清子「ズビッ(鼻をすする音)」 「芸歴3ヶ月で台本をもらえるなんて特例中の特例なんだから。周りの人たちにちゃんと感謝すんのよ。」  マネージャ

          小説「アイムシリウス。」(11)

          小説「アイムシリウス。」(10)

          「初めまして、陸上と申します」 「あ、どうも。すいません今日名刺持ってきて無くて」  瀬名月見(セナツキミ)は、財布に数枚でも名刺を仕込んでおかなかった過去の自分を責めた。目の前の男に初対面でいきなりナメられるのが嫌だったからだ。陸上(クガミ)と名乗るその男はスーツの着こなしに一切の隙がなく、いかにもやり手の若手実業家、といった印象であった。ところが本人の話によると、彼は月見の高校時代のクラスメート林原剛(ハヤシバラゴウ)と同じ大学に通う同級生であり、今は剛のビジネスパートナ

          小説「アイムシリウス。」(10)

          小説「アイムシリウス。」(9)

          第二話 と、力無く膝を付き、天を仰ぐ月見。  全国展開しているその大手カフェチェーン店の店内では常に客が入れ替わり立ち替わり、カフェと言えど長時間寛ぐにはもはや適していないかもしれない。そこの手狭な2人掛けテーブルには、時折太い眉を動かし相手の様子を伺う男、燈孝之助(アカシコウノスケ)と、とにかく早く帰りたいなと思っている夏来こころ(ナツキココロ)が座っていた。 「なぁ頼む! 俺とやろう!」 孝之助の声が周囲の客に大きな誤解を招き、縮こまるこころ。 「いやだから! 私には一

          小説「アイムシリウス。」(9)

          小説「アイムシリウス。」(8)

           エキストラの撮影が終わった頃にはもう日が傾き始めていた。夏来こころ(ナツキココロ)はそれからずっと、行方不明となった恋人、瀬名月見(セナツキミ)を探し続けている。撮影現場周辺は一通り探したし、月見の家にも連絡したが帰っていないらしい。撮影現場でこころのことを心配したエキストラの数人が一緒に探してくれていたが、さすがにこれ以上は申し訳ないと帰ってもらい、今は1人で探している。探す範囲を広げることや、警察に連絡することも一瞬頭をよぎったが、月見の性格を考えると、そう遠くまでは行

          小説「アイムシリウス。」(8)

          小説「アイムシリウス。」(7)

          「カット!」  助監督の豊島(トヨシマ)が進行中の演技を止めた。部下役のエキストラが、動き出すタイミングになっても一向に動かなかったためである。周りのスタッフ達は、何が起こったのかと気にしながらも、相変わらず自分の役割に集中している。 「え?」 瀬名月見(セナツキミ)は、自分が招いた事態であるにも関わらず、まるで何も理解していない声を発した。すると、いつの間にか間近にいた助監督の木部(キベ)と目が合う。 「月見さん、大丈夫落ち着いて。ため息聞いたらスタートですよ!」  月見

          小説「アイムシリウス。」(7)

          小説「アイムシリウス。」(6)

           本番前の現場に戻った瀬名月見(セナツキミ)は、周りのスタッフに迷惑を掛けないことを最優先にしながら、助監督の木部(キベ)に教えてもらった芝居の段取りを1人で確認していた。演技を見た事はあってもしたことなどは無かったため、相変わらず自分の心臓の鼓動は聞こえていたが、もうこれ以上人に迷惑を掛けまいと覚悟を決めていた。ふと部屋の窓から下の広場を覗くと、デモ隊がわらわらと動いているのが見えた。彼らの中には、彼女の夏来こころ(ナツキココロ)がいるはずであった。月見は、人の粒のどれがこ

          小説「アイムシリウス。」(6)

          小説「アイムシリウス。」(5)

          「すいません部下の方、もうちょっとゆっくりめに歩いてください。先に白金さんを通してほしいです。」  助監督の豊島(トヨシマ)は、唖然とした表情でこちらを見る瀬名月見(セナツキミ)に声を飛ばした。声も見た目も、自分では普通にしているつもりなのに、なぜかいつも周りから怖がられているのが豊島の悩みであった。今回も怒っているわけではなく、むしろ意識して親切に言ったつもりであったが、月見の精神に追いうちをかけるには十分だったようだ。 「す、すみません!」  声にならない声を出し、月見は

          小説「アイムシリウス。」(5)