誰が黒崎やねん

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  • アイムシリウス。

  • 気ままに書こう読書感想文

    アラサーになっても上手に文章が読めない、書けない!という無力さに抗うため、苦手な読書を始めました。 そしてどうせなら、小学校の頃に嫌いすぎてトラウマになった読書感想文を、大人になった今克服しよう!という意気込みで、始めてみました。

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小説「アイムシリウス。」(9)

第二話 と、力無く膝を付き、天を仰ぐ月見。  全国展開しているその大手カフェチェーン店の店内では常に客が入れ替わり立ち替わり、カフェと言えど長時間寛ぐにはもはや適していないかもしれない。そこの手狭な2人掛けテーブルには、時折太い眉を動かし相手の様子を伺う男、燈孝之助(アカシコウノスケ)と、とにかく早く帰りたいなと思っている夏来こころ(ナツキココロ)が座っていた。 「なぁ頼む! 俺とやろう!」 孝之助の声が周囲の客に大きな誤解を招き、縮こまるこころ。 「いやだから! 私には一

    • 小説「アイムシリウス。外伝 ーこころー」

      〈あらすじ〉  いつも明るく、笑顔を絶やさないこと。大人の人に対しては、正しく敬語を使えること。そして、確かな演技力。優秀な子役の条件を満たす子供はたくさんいるが、夏来こころ(ナツキココロ)という子はその中でもかなり目を引く。彼女は「作り方」が巧く、どこにいてもまるで本当に、ただ無邪気にその場を楽しんでいるような表情を見せる。  業界関係者からそんな評価を受ける御神湖心(ミカミココロ)の今があるのは、月並みな表現だが、周囲の人達の支えがあったからだった。たくさんの愛を注いで

      • 小説「アイムシリウス。」(8)

         エキストラの撮影が終わった頃にはもう日が傾き始めていた。夏来こころ(ナツキココロ)はそれからずっと、行方不明となった恋人、瀬名月見(セナツキミ)を探し続けている。撮影現場周辺は一通り探したし、月見の家にも連絡したが帰っていないらしい。撮影現場でこころのことを心配したエキストラの数人が一緒に探してくれていたが、さすがにこれ以上は申し訳ないと帰ってもらい、今は1人で探している。探す範囲を広げることや、警察に連絡することも一瞬頭をよぎったが、月見の性格を考えると、そう遠くまでは行

        • 小説「アイムシリウス。」(7)

          「カット!」  助監督の豊島(トヨシマ)が進行中の演技を止めた。部下役のエキストラが、動き出すタイミングになっても一向に動かなかったためである。周りのスタッフ達は、何が起こったのかと気にしながらも、相変わらず自分の役割に集中している。 「え?」 瀬名月見(セナツキミ)は、自分が招いた事態であるにも関わらず、まるで何も理解していない声を発した。すると、いつの間にか間近にいた助監督の木部(キベ)と目が合う。 「月見さん、大丈夫落ち着いて。ため息聞いたらスタートですよ!」  月見

        小説「アイムシリウス。」(9)

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        • アイムシリウス。
          9本
        • 気ままに書こう読書感想文
          6本

        記事

          小説「アイムシリウス。」(6)

           本番前の現場に戻った瀬名月見(セナツキミ)は、周りのスタッフに迷惑を掛けないことを最優先にしながら、助監督の木部(キベ)に教えてもらった芝居の段取りを1人で確認していた。演技を見た事はあってもしたことなどは無かったため、相変わらず自分の心臓の鼓動は聞こえていたが、もうこれ以上人に迷惑を掛けまいと覚悟を決めていた。ふと部屋の窓から下の広場を覗くと、デモ隊がわらわらと動いているのが見えた。彼らの中には、彼女の夏来こころ(ナツキココロ)がいるはずであった。月見は、人の粒のどれがこ

          小説「アイムシリウス。」(6)

          小説「アイムシリウス。」(5)

          「すいません部下の方、もうちょっとゆっくりめに歩いてください。先に白金さんを通してほしいです。」  助監督の豊島(トヨシマ)は、唖然とした表情でこちらを見る瀬名月見(セナツキミ)に声を飛ばした。声も見た目も、自分では普通にしているつもりなのに、なぜかいつも周りから怖がられているのが豊島の悩みであった。今回も怒っているわけではなく、むしろ意識して親切に言ったつもりであったが、月見の精神に追いうちをかけるには十分だったようだ。 「す、すみません!」  声にならない声を出し、月見は

          小説「アイムシリウス。」(5)

          小説「アイムシリウス。」(4)

           この日「裁定者 Second」の撮影は1日を通して行われる。現場には撮影スタッフの他に、主演の勾坂雅弥(サキサカマサヤ)と何人かのキャスト、それから100人超のエキストラがいる。エキストラ達の今日の主な役割は、検察庁のビルの下でデモ活動をする住民の役である。その登場シーンは、とある検事に裁判での重大な不正が発覚し、検察全体の信用が問われる事態になるという、かなり深刻なものであった。  撮影は、建物下広場にいるデモ隊を狙うカメラ1台と、主演の検察官、勾坂雅弥演じる白金誠示(シ

          小説「アイムシリウス。」(4)

          小説「アイムシリウス。」(3)

           2021年3月27日土曜日。オフィスビル下の広場には、100を超える数のエキストラが密集していた。彼らの中には、俳優の下積みとして参加している者もいれば、今日撮影するドラマの主演、勾坂雅弥(サキサカマサヤ)を一目見るためにやって来た者、さらには「裁定者」ドラマシリーズの続編と聞いて駆けつけた、ドラマのファン達などもいた。そんな彼らは、ちらちらとオフィスビルの上の階を気にしていた。最上15階。ここからはあまりに高くて見えるはずは無かったが、まさに今この場所で、勾配雅弥の撮影が

          小説「アイムシリウス。」(3)

          小説「アイムシリウス。」(2)

           学校からの帰り道。瀬名月見(セナツキミ)と夏来こころ(ナツキココロ)は恋人同士であるが、手を繋いだりはしない。とはいえ逆に、別々で帰ることもしない。それが公共の場で取るべき2人の距離感だと、お互いが共通認識を持っていたのだった。  こころとしては、当然もっと恋人同士としての時間が欲しいと願っていた。しかし一方で、芸能人としてのプロ意識を持つ彼女にとっては、異性との関わり方を考えることもまた、必要な努力であった。なので月見からの提案は案外すんなりと受け入れたし、月見は自分の立

          小説「アイムシリウス。」(2)

          小説「アイムシリウス。」(1)

          第一話 と、息を潜め、ただ辺りを見ている月見。  2030年6月6日。この日はとあるニュースで持ちきりとなっていた。  俳優、勾坂雅弥(サキサカマサヤ)(44)の電撃結婚である。  相手は一般女性で、勾坂より2つ年下、元宝塚女優、白羅真鳳(シララマトリ)似の美人妻だと言われている。  勾坂の結婚が話題となったのは、勾坂が超人気俳優なためであることは言うまでもない。しかしそれ以上に人々の関心の的となったのは、「勾坂雅弥にも人並みの欲求や興味があった」ということであった。  勾

          小説「アイムシリウス。」(1)

          大人になって読書感想文(6冊目)

          〈参考文献〉 井上靖(1969) 額田女王 新潮文庫 2021年8月、舞台に出演し、大海人皇子役を演じました。その過程で彼の周辺の歴史を調べていると興味が湧き、歴史小説を読んでみようと言うことになりました。 今までは現代の文章の本しか読んでいなかったので、当時の言葉遣いや名称、感性に慣れるのに時間が掛かりましたが、逆にその世界にハマってからは最高という感じでした。 中でも、当時に生きる人達の感性、いわゆる「いとをかし」とか「あはれなり」というのが本作中で暴れ回っていて面

          大人になって読書感想文(6冊目)

          大人になって読書感想文(5冊目)

          〈参考文献〉 三浦佳世・河原純一郎(2019) 美しさと魅力の心理 ミネルヴァ書房 この本は、出演する舞台で演じる役作りのため、と思って探し出しました。 演じる役は、端的に言うと、自分の容姿にたいそう自信のある王子様です。 女性の形容表現になりますが、最近話題になった「あざとかわいい」にも通じるところがあると思いました。 「あざとかわいい」については賛否両論がありますが、私は支持します。明らかに「かわいい」のリアクションを狙ったような行動を進んで、あるいは反射的にできる

          大人になって読書感想文(5冊目)

          大人になって読書感想文(4冊目)

          〈参考文献〉 綾辻行人(2007) 十角館の殺人〈新装改訂版〉 講談社文庫 この本は、「読書感想文書きたいんやけど、なんかオススメの本ない?」と聞いて回って、会社の後輩に教えてもらった本です。その後輩の友達いわく、推理小説好きなら、綾辻さんの本を読まないなんてありえない、そうです。 ところで、推理小説ってネタバレご法度ですが、どうやって読書感想文書くんでしょう。 と一抹の不安を抱えながら、一通り読んだらなんか書けるだろうと思い、読んでみることにしました。 結果としては

          大人になって読書感想文(4冊目)

          大人になって読書感想文(3冊目)

          〈参考文献〉 大泉洋(2015) 大泉エッセイ 僕が綴った16年 角川文庫 職種にもよるのかもしれませんが、私は社会人になってから、人と接する機会が増えました。 大ボケをかまして、「お前アホやなー!」と、かわいがられる人。 逆に、絶妙な距離感のツッコミを上司に入れて重宝される人。 歩く六法全書みたいにバリバリのインテリ発言で拍手を浴びる人。 人と接する機会が多い仕事ということは、必然的にそういう人達が評価されて、活躍していくことになります。 なので、そういう人を惹きつ

          大人になって読書感想文(3冊目)

          大人になって読書感想文(2冊目)

          〈参考文献〉 藤井一至(2018) 土 地球最後のナゾ 光文社 この本は、2021年2月3日(水)放送「笑ってコラえて!」の特集を見て知りました。 元々、誰もついていけないような分野の話をやばい温度感で話す人が大好きなんですが、著者の藤井一至(かずみち)さんからはテレビ越しでありながらその熱量をたっぷり感じて、この方の本を是非読んでみたいと思いました。 内容は、世界中の土を紹介する本です。 動植物、昆虫、キノコなど、一般的に自然科学の分野では理解するために覚えなければ

          大人になって読書感想文(2冊目)

          大人になって読書感想文

          〈参考文献〉 宮本英司(2018) 妻が願った最期の「七日間」 サンマーク出版 この本は、2020年7月2日放送の「奇跡体験!アンビリバボー」の企画で特集されていたのを見て知りました。 小腸がんと戦い生涯を全うされた宮本容子さんと、彼女と人生を共にした英司さんのお話で、容子さんが病床で遺した詩「七日間」と、容子さんと英司さんが綴った交換日記が作品のテーマになっています。 この本を読みたいと思ったのは、容子さんの国語力に惹かれたためです。容子さんと英司さんは、大学時代同じ

          大人になって読書感想文