母校の先生にご挨拶してきた。
今日は俺の母校、鈴鹿高専の文化祭に行ってきた。
俺が中退してからもう5年は経っている。
知っている後輩ももういない。
何もなければおそらくもう訪れることも無いと思っていた。
だが今年、俺の弟が鈴鹿高専に入学したため、弟を見に行くという口実で高専をまた訪れることとなった。
5年ぶりに母校の敷地に入った。
思い出は時間と共に薄れていくものだが、その場所に戻ると色んな思い出が蘇ってくる。
高専は高校とは違い、職員室が無くて先生1人1人に研究室がある。
先生は教師ではなく、大学と同じで教授なのだ。
まずは1番仲が良かった橋本先生の研究室に挨拶に行こうと思った。
俺の3年生の時の担任で、動画同好会の顧問でもある。
かなりの映画オタクで、よく授業そっちのけで映画の魅力を語っていた。
俺がそれまであまり興味のなかった洋画を観るようになったきっかけの人だ。
俺が4年で中退してからも色んな手続きは橋本先生がしてくれていたらしい。
(高専は5年まである。)
そういった面でもお礼と挨拶をしに行こうと思い、東京ばな奈を手土産に持っていった。
電気電子工学科棟に足を踏み入れる。
俺の学科であり、その学科の先生達の研究室がある棟だ。
よく遅れたレポートを研究室に提出しにきたり、再試を受けにきた思い出が蘇ってきて、少し緊張した。
研究室にノックをして入ると
「おー!久しぶり!」
と、当時と同じような軽いノリで迎え入れてくれた。
口調も見た目も、何も変わっていなかった。
変わっていることといえば、左手の薬指にキラリと光る指輪をはめていることだけだ。
元気だったかー、元気ですよー、結婚したんですねおめでとうございます、そんないいもんじゃないよー、動画同好会はどうなんですかー、等とたわいのない会話をした。
橋本先生は高専の先生達の中ではかなり若い方で、軽いノリで話してくれるので話しやすい。
それにかなりの変わり者だ。
本来、俺のように学校を中退して芸人になった奴は先生に顔向けできるような立ち位置では無い。
そんな俺に対しても、俺はお前みたいにみんなやりたい事をやるべきだと思うんだ、と肯定してくれるのは橋本先生だけだ。
本当に嬉しかった。
お礼と言ってはなんだが、俺が売れたら動画同好会に俺の銅像を寄付しよう。
橋本先生にしか挨拶に行く予定はなかったが、他の仲が良かった先生にも挨拶に行くことにした。
とはいえ俺のことを覚えていなかったら嫌なので、ちゃんと覚えていそうな思い出深い先生から行こう。
世界史の月子ちゃんの元へ行くことした。
月子ちゃんも比較的若い女の先生だ。
世界史の授業は、とても簡単なので誰も再試にかからない。
そんな中、毎回再試にかかっていたのが俺なのだ。
ほとんど生徒がいない中、毎回のように再試と補講にいるので、月子ちゃんとは逆に仲が良くなっていったのである。
世界史は多分1年間しか授業を受けていないと思うが、月子ちゃんは覚えているはずだ。
うろ覚えで研究室を探し、ノックをすると少し髪型の変わった月子ちゃんが迎え入れてくれた。
東です、というと「あー!東!痩せたー!?」とちゃんと覚えていてくれて嬉しかった。
というか、これだけ痩せたしロン毛になったしヒゲも生えたのに、橋本先生はなんでそこに何も言及してこなかったのだろうか。
俺の弟の名前を言うと、ちょうど授業も受け持っているようで「じゃあちゃんと注意しとかないと危ないな」と要注意人物としてマークしていた。
ごめん弟。
色々と思い出や当時と変わったことを話した後、「松尾先生のとこにも行ってきなよー、喜ぶよ」と言われた。
松尾先生は俺が2年の時の担任だ。
松尾先生も高専では少ない女の先生である。
2年以来授業でも会っていないので覚えていてくれているが不安だったが、そう言われたので行ってみることにした。
ノックをして、お久しぶりです東です、と言うと「…あー!!!髪伸びたし痩せたねー!!」と、またもや見た目の違いに戸惑っていた。
全然食べれてないんです〜、と言うと海外で論文発表してきた時に買ってきたチョコをくれた。
優しい。
思い出話をしつつ芸人になったことを話すと、「ずっと進路に書いてたもんね!初志貫徹だ!」と言われた。
覚えていなかったが、進路に書いていたらしい。
そんな奴は高専にはいないので印象に残っていたようだ。
研究室にサイン飾るから書いてよ〜、と言われた。
まだ売れていないのに少し恥ずかしかったが、渡された大きい紙にサインを書いた。
松尾先生は英語の先生だったので英語でなにかメッセージを添ようと思ったが、俺は学年一英語ができない奴だったので
『thank you very much!』
としか書けなかった。
そのサインをわざわざ額縁に入れて飾ってくれたので、これは絶対に売れなくてはいけない。
俺は中退してしまって卒業式も出られてないし、最後に先生に挨拶もできなかったので、こうやってまた挨拶できる機会ができて本当によかったと思う。
大人になってから母校に帰る機会は中々無いと思うし、高専じゃなければ先生も転任していることだろう。
別れの挨拶も、感謝の言葉も、伝えることができずに二度と会えないこともある。
俺は恵まれているな。
色んな人のおかげで今の自分があることを実感できた。
そんな1日でした。
おしまい。
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