スキルとしての自分で考える「主体的思考」が大切だという再認識
この記事は色々な意味で広がりを見せて欲しいと願う内容だった。
科学者や研究者がカバーできない部分を市民が担うという趣旨ではあるものの、市民が科学的な考え方を理解しておくことは科学の発見・発展だけではなく個人個人が豊かに安全に暮らしていくための大切なスキルの一つだとの想いを新たにしました。
そしてこの2020年5月10日付けの日経記事が今回のnoteを書くトリガーになりました。
この社説は、こう始まります。
科学的な根拠はあるのか。日本の新型コロナウイルス対策で、そう思わせる唐突な決定が相次いでいる。休校措置や緊急事態宣言の全国拡大がその例だ。不透明な決定プロセスは疑心暗鬼を生み、政策効果を薄めかねない。
そしてこのような記述(抜粋)も非常に納得がいくものでした。
・情報の受け手である一人ひとりが事の真偽を見抜けるよう、科学の基礎知識を身につけることが重要だ。
・開かれた場で互いに意見を述べ、問題解決へ知恵を出し合う
・感染症対策を決める議論も可能な限り公開し、人々が自分のこととして生き方や行動を考えるきっかけとすべき
・「お上のいいなり」ではなく、根拠に基づき個々人が冷静に判断する習慣をつける。それが健全な民主主義の基盤にもなることをあらためて確認したい。
この二つの記事から、自分で考える主体的思考は、私たち一人ひとりが安心して生きていくための大切ものであると再認識するに至り、色々と調べることにしました。
もう聞き飽きたくらいに言われていますが、コロナウイルスのパンデミックは色々な人に色々な影響を与え続けています。
これは多かれ少なかれほとんどの人が感じていることと思います。
今回のパンデミックではデマに影響されて、トイレットペーパーが店頭から一時期消えたりしたのは記憶に新しい。。。
色々な情報が飛び交う現代だからこそ、取得した情報の真偽について少なからず自分自身で疑問に思ったり、調べたりする姿勢というのはとても大切だというのは、お分かりになると思います。
そして約14年も前の1996年からすでに以下のようなことが言われています。
文科省が策定している「総合的学習の時間」では 「生きる力」の育成が求められている。生きる力 とは、1996年7月に出された中央教育審議会の第一次答申では、「いかに社会が変化しようとも、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力であり、また、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や、感動する心など、豊かな人間性であると考えた。たくましく生きるための健康や体力が不可欠であることは言うまでもない。我々は、こうした資質や能力を、変化の激しこれからの社会を「生きる力」と称することとし、これをバランスよく育んでいくことが重要と考える」と定義されている。
これまで45年間生きてきて、数年前に本当の意味で腹落ちしたこととほぼほぼ一致する考え方だと思っています。「心技体の充実」が生きる力につながっていると言えると思います。
今回は特にこの「主体的な思考(心技体でいうところの技)」について個人的に調べた範囲のことを書いておこうと思っています。
以前に書いた以下のnoteの後半部分で、サイエンスリテラシーについて書いています。
このnoteでも紹介しているかなり古い記事があります。そこには私がとても共感できるる部分がありますのでここでも再度紹介したいと思います。
<ざっくりと要約すると>
科学的な問題(今回のコロナウイルスへの対応)への個人や国・地方の行政府の決定には科学的(理路整然かつ可能なかぎり情報の透明性を上げて)に意思決定する必要がある。そのためには市民一人一人がその情報そのものと情報の背景(情報の「ソース、取得範囲、意義、計算方法とその意味、情報の限界点」など)を理解して、自分の頭で考え適切な評価・行動をすることが求められている。
このサイエンスリテラシーに関しては、広い意味で言うところの論理的思考がベースとなっていて、私はこのサイエンスリテラシーは学習可能なスキル(技)だと思っています。
このサイエンスリテラシーが学習可能なスキル(技)だと思う理由は、私が研究室に配属になった学部4年生の1年間、修士課程2年間、博士課程3年間の計6年間かけて時間をかけてゆっくりと身に着けているからです。何が言いたいかというと、私の場合は積極的な学習ではなく、自然と身に着けたスキルであるため、このサイエンスリテラシーを「しっかり」と学習するプログラムがあればかなり効果的に短期間で身に着けられるのと思っています。
そこで色々とサイエンスリテラシーついて調べてみると、やはりこの分野は特に教育分野での議論が多いということが分かりました。呼び方も「科学的リテラシー」や「科学的な思考」、「創造的思考」といった違う表現も出てきます。教育現場で取り入れられるわけですからやはりこの分野は習得可能なスキル(技)であると言えます。これらをさらに知らべてみました。
少し抽象的ではありますが、以下が科学的な思考にまつわるまとめです。
・「科学的」とは、実証性、再現性、客観性などの条件を検討する手続き
・「思考」とは、高次認知過程のほぼすべてに関わる心の働きで、類推が深く関わる。また、思考には論理的思考 、創造的思考、類推などがある
・「科学的な思考」とは、科学的発見をもたらす重要な源泉。また、現象や事象を論理的に説明できる論理的な思考。
・「論理的思考」とは、筋道だった、理にかなった考え全般を示すこと
「推論(演繹推理、仮説検証推理、帰納推理)によって既知の前提から新しい結論を導き出す思考」、「論理性という目標を持った批判的思考(論理的に考えるためには批判的思考が必須)」とも言える
・「批判的思考」とは、本当に正しいのか再考するなど、自分自身に意識的に問いかける思考で、客観的、合理的、多面的な見方をする思考。メタ認知によって自分自身の思考をモニターし、コントロールするプロセス
・「創造的思考」とは、人間生活にとって価値ある新しいものを造りだす意欲と能力であり、潜在的にどのような人間でも可能性を持つ。
調べた範囲の中で個人的に興味を持った物を4つ紹介したいと思います。
1)科学的リテラシーにおける態度の変容に効果的な授業の要因の検討
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 32 No. 1(2017)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsser/32/1/32_No_1_170105/_pdf
この論文の序文に興味深いことが書いてあります。
「科学技術に対するリテラシーの獲得には学校教育段階における育成も重要な役割を持つが,科学的研究の成果についての知識を提供することにとどまっており,科学のプロセスの理解や科学に関わろうとする態度への変容を意図した実践は少数である。」
科学的知識は色々な場面で提供はされているものの、科学的なプロセスを理解できるようにする教育が少ないことを示唆しています。これは私の記憶に照らしてもそうだと思います。学習者にどうやって科学技術に関心を持ってもらうかというアプローチの難しさを感じます。
2)科学的な思考力の育成を図る教授・学習方法の開発と教師教育への適用
科学的な思考の枠組みがまとめられています。
これまでの思考研究も含め、科学的な思考とは何かをまとめてみると、その枠組みには合理的(論理的)な思考と発散的・創造的に新たな理論を想像する思考の2つに大きく分けることができる。また、理科学習に求められている論理的な思考には、批判的思考、推理、モデル思考といった思考と科学的探究のスキルが含まれると考えることができる。
科学的な思考を図式化したものが以下の図になるそうです。
3)科学的思考力・表現力を育成する理科学習の創造
平成23年度国立教育政策研究所 教育課程研究センター関係指定事業研究協議会 宇美町立桜原小学校の取り組みについての発表資料
https://www.nier.go.jp/kaihatsu/shidou/shiryo/kyouiku_l23/kyouiku_l23_shiryo_sho_7_rika.pdf
この取り組みは2)の合理的思考を育成するための研究で、主に言語化を通じて事象の整理を促すことに重きが置かれている。
この事例では、科学的な思考力・表現力をこのように定義している。
実証性、再現性、客観性などの条件を検討する手続きを重視し、既習の見方・考え方や、新たな問題の解決に必要な情報等を関係づけて論理的に考えたり、それを記述したり、説明したりする能力。
そしてこうした実践的な教育とその成果の発表はとても大切なのだと思いました。これがないとおそらく教育の進歩はないでしょうし、そもそも教育というのが机上の空論ではなく実践が伴うものであることを思い出させて貰いました。
親としてもそうですし、仕事をするプロフェッショナルとしてもこうした実践に伴う教育については今一度考えたいと思いました。
4)世界の創造性教育
The Annual Report of Educational Psychology in Japan2007, Vol.46, 138-148
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arepj1962/46/0/46_138/_pdf/-char/ja
静岡大学教育学部研究報告(教科教育学篇)第41号(2010.3)47~76
https://shizuoka.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=4175&item_no=1&attribute_id=31&file_no=1
科学的な思考と対をなすようなものに感じるけれど、そうではなくて相補的な関係なのだなと感じました。
創造性教育とは何か
ここ40年以上にわたり、創造性研究・教育の世界的なリーダーであったトー ランス(Torrance,1994)や創造性を以下のように定義している。「創造性は通常、過程あるいは産物、時としてある種のパーソナリティとか環境的な条件として定義されてきた。私は創造性を、問題を嗅ぎ付け、情報のギャップを見つけ出し、アイデアとか仮説を形成し、それらの仮説を検証したり修正したりして、最終的に結果を コミュニケートする諸過程を指すものと定義したい」。
<創造性を理解するための参考となる考え>
・人間生活にとって価値ある新しいものを造りだす意欲と能力であり、潜在的にどのような人間でも可能性を持つ(佐藤三郎)
・異質な情報やものを今までにはない仕方で結合することにより、新しい価値あるものをつくりだす過程である(恩田彰)
・創造性という用語は通常3つの要素に適用される。創造的な人、創造的なプロセス、そして創造的解決である(Monor)
・創造は、単に思考の問題だけではなく、実行力も含んだ総合能力といえる(高橋誠)
これを教育現場で実施するのが大変なことであるのは間違いないと思うけれど、この文章とてもよく練られていて、共感できます。私は教育現場にはいないけれど、こうした考え方は大人にだって大いに当てはまると思う。
スキルとしての「主体的思考」に関しては、いわゆる科学的な部類に入る内容であるため再現性もある程度あり、色々方が習得可能なものだと確信しています。
このnoteでは「主体的思考」に焦点を当てた内容ですが、「文科省が策定している「総合的学習の時間」」でも取り上げていますが、この生きる力には大切な相棒が二人います。
それは「豊かな人間性」と「健康・体力」です。
これらについては、他の方に今回はお任せするとして、参考になる資料が文科学白書(平成19年度)にありましたので、そちらを紹介して終わりにしたいと思います。
これからの子どもたちに求められるのは,
1)知識や技能に加え,自分で課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する力などの「確かな学力」(技)
2)他人を思いやる心や感動する心などの「豊かな人間性」(心)
3)たくましく生きるための「健康・体力」(体)
などの「生きる力」を身に付けることです
これってこれからの子どもたちに求められているだけでなく、広く遍くほぼ全ての人間に必要な物だなぁと思いませんか?
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