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ごめんなさい神様よりも好きです

中学一年生の頃、小学生時代からの仲の良い友人がことごとくグレた。髪の毛を脱色して金髪にしたり、制服を改造して妙に丈の短い学ランを羽織ったり、これみよがしに煙草を吸いまくった。中にはそれだけでは飽き足らず、カゴを力ずくで外したママチャリをホームセンターで買ってきたカラースプレーで不自然な銀色に染めあげる輩や、油性のマジックペンで学校の机にでかでかと『地獄龍』と書いている輩も居て、もはや無法地帯であった。
ちなみに地獄龍の意味は二十年以上経った今でもわかっておらず、当時の友人や教師も首を傾げるばかりであった。本人もおそらくよくわかっていないだろう。完全なるその場のノリで召喚された地獄の龍である。かわいそうだ。龍も暇じゃないだろうに。

とまぁ、そんなやりたい放題な友人たちではあったが、誰彼構わず睨みをきかせて噛みつくワケでもなく。小学生時代から一緒になって遊んでいた僕なんかには普通に話しかけてくれ、今まで通り一緒に遊んだりもしていた。
僕はと言えば完全なる非ヤンキーであり、端から見れば明らかにガラの悪い連中と明らかに可愛らしい僕がつるんでいる光景はさぞかし奇天烈なものであっただろう。漫画とかで言えば逆に親玉的な、黒幕的なポジションを疑われても仕方が無い。今になって当時の周りの同級生や大人たちからどう思われていたか気になってしまうが、そんなことを今更気にしても詮無きことである。

ある土曜日の午後のことだった。学校からの帰り道で寄ったそんな友人の家で、僕は運命の出会いを果たした。それは友人の部屋にあるステレオから力強く、しかし何よりも優しく僕に語りかけた。一瞬で心を奪われた僕は友人に「これは誰だ」と詰め寄り、僕の勢いに少しだけ気圧されながら友人は教えてくれた。

『THE BLUE HEARTS』というバンドだった。


終わらない歌を歌おう クソッタレの世界のため
終わらない歌を歌おう 全てのクズ共のために

終わらない歌/THE BLUE HEARTS

どこかでコンプレックスがあった。臆病だからグレることも出来ず、でも大人たちが理想とする“優等生”にもきっとなれない。そんな自分に言いようのないモヤモヤを抱えていた頃に、ブルーハーツは「今はそれでいいんだ」と僕の肩を叩いてくれた。当時どうしようもなく中途半端だった僕を救ってくれたのは紛れもなく甲本ヒロトがぶっきらぼうに歌い散らした言葉たちだった。


はっきりさせなくてもいい
あやふやなまんまでいい
僕達はなんなとなく幸せになるんだ
何年たってもいい 遠く離れてもいい
独りぼっちじゃないぜ ウィンクするぜ

夕暮れ/THE BLUE HEARTS

はっきりしないことがあって、でもはっきりさせるにもいろいろ足りなくて、あやふやなまま進むしかない瞬間ってのはある。でも、どうしようもないことをクヨクヨ考える暇があるなら、いっそのことドンと構えて前に進むしかない。きっとそれって僕だけじゃない。それをちょっとしたユーモアも交えて教えてくれる粋な大人がスピーカーの向こうには確かに居た。


もしも僕がいつか君と出会い話し合うなら
そんな時はどうか愛の意味を知って下さい
愛じゃなくても恋じゃなくても君を離しはしない
決して負けない強い力を僕は一つだけ持つ

リンダリンダ/THE BLUE HEARTS

人間として生まれてきた僕たちは生きていくのがめんどくさい。愛だの恋だの、そんな分かりやすく割り切れない想いを持って誰かと過ごすことだってたくさんある。それでも大事なものは何なのかってのはわかってるつもりだし、それを絶対に離してはいけないってことくらいは理解できる。それこそが決して負けない強い力なんだ、と思ってみたり。


確かなものは欲望だけさ
100パーセントの確率なのさ
死んだら地獄に落として欲しい
どこへ行くのか どこへ行くのか

首つり台から/THE BLUE HEARTS

自分の愚かさや汚さには一切言及せず、綺麗事ばかり言う人が大嫌いだ。そんな奴の言うことなんか鼓膜を震わせる価値もないし、文面に目を滑らせる価値もない。そういう奴ほど誰も見ていないところで他人の心を簡単に踏みにじる。僕が欲しいのは清濁併せ吞んだ先の真実であり、真理である。汚くてみっともなくてカッコワルイ、でも本当のことを皮肉たっぷりに、そして心のままブルーハーツは歌ってくれた。


生まれた所や皮膚や目の色で
いったいこの僕の
何がわかるというのだろう

青空/THE BLUE HEARTS

世界はけっして優しくない。思った以上にノンシュガーだ。生きる年数を重ねるほどにそれを理解した。大切なのはそんな世界と自分がどう向き合うかだ。例え何も変えられなくたって、自分は変われる。それと同時に一番大切な部分は変わらずにいられる。自分を信じ続けられる。


あきらめきれぬ事があるなら
あきらめきれぬとあきらめる
あきらめきれぬ事があるなら
それはきっといい事だ

泣かないで恋人よ/THE BLUE HEARTS

夢を何度も諦めそうになって、それでも諦めきれないと散々悩んだ。「このままでいいのだろうか」と頭を抱えた。そのときに僕を支えてくれたのはかけがえのない仲間と、この言葉だった。あきらめきれないくらいに自分に深く根付いている事があるのだ。それはきっと良い事に決まっている。そう信じて何度も立ち上がった。


誰かに金を貸してた気がする
そんなことはもうどうでもいいのだ
思い出は熱いトタン屋根の上
アイスクリームみたいに溶けてった

1000のバイオリン/THE BLUE HEARTS

何かか始まれば必ず終わりは来る。寂しいけどそういうものだ。そしてはそれは突然やって来ることもあれば、少しずつ近づいてくるのがなんとなくわかるときもある。揺り籠から墓場まで馬鹿野郎はついて回る。僕はなんだかどうでもよくなって投げだしたことがたくさんある。それでも未来へと向かっていくしかない。無情さをどこかに抱えて、進むしかない。


その時 その瞬間 僕は一人で決めたんだ
僕は一人で決めたんだ
今日からは 歩く花 根っこが消えて
足が生えて野に咲かず 山に咲かず
愛する人の庭に咲く

歩く花/THE BLUE HEARTS

「導いてくれた人が遠くに行ってしまった」
当時は確かに置いていかれたと思った。でもそうじゃない。今ならわかる。
それは本当の意味での僕が一人で歩き出した瞬間だった。旅立ちはいつだって希望に溢れ、そしてちょっと寂しい。でも、それでいい。そういうものだ。


ここから一歩も通さない
理屈も法律も通さない
誰の声も届かない
友達も恋人も入れない
手掛かりになるのは薄い月明り

月の爆撃機/THE BLUE HEARTS

ここまで僕を創り上げてきた数々の言葉も歌も、全部このフレーズに収束したようにさえ思えて仕方がない。この曲はこう締め括る。
「誰かに相談してみても僕らの行く道は変わらない」
今までずっと僕の背中を押してくれた人が最後に
「あとは君の信じる道を行け。俺は俺でやっていくよ」
と言って去っていったような、そんな感覚を覚えた。
これこそが僕の旅立ち、そのものだった。



THE BLUE HEARTSは僕の一部だ。もはや好きだとかファンだとか、そういう次元の話ではない。僕の魂の一部なのだ。けっして欠けることはない。
良くも悪くも僕は変わらない。ここまでくるともう簡単には変われない。一生このままだ。どう在るかも大事だが、どう在りたいかも大事なのだ。
ワガママで、大人げなくて、自己中で、皮肉屋で、ロマンチストで、馬鹿で、狡くて、汚くて、カッコワルくて、誰よりもやさしく、そしてどこまでも真っ直ぐで居たい。
僕はいつまで経っても、THE BLUE HEARTSで居たい。


僕たちを縛り付けて
一人ぼっちにさせようとした
全ての大人に感謝します

1985/THE BLUE HEARTS





お金は好きです。