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全米トップのオンライン・ハイスクールから学ぶ「反転授業」をやってみた

 各学校でオンライン授業、授業ライブ配信など、これまでにあまり例のない教育の形の実現に向けて、日々試行錯誤が続いていることと思います。僕の勤務先の小学校でも、感染予防のために欠席する子に向けての授業ライブ配信が試行されています。だれが、いつ長期の休みとなってしまうか分からない状況から、タブレットを毎日持ち帰るようにもなりました。

 もうすでにオンライン授業が始まっている自治体もあることを考えると、「まだこの程度で耐えている」と思うべきなのかもしれません。しかし、皮肉なことにコロナの加速とともにGIGAスクール構想も一気に加速しています。今だから学べること、今しか試行できないことにトライすることも大切だと考えています。


全米トップの進学校となったオンライン・ハイスクール

 オンライン授業というものが現実的に起こりうる状況になってきたこともあり、「ここはきちんとオンライン授業というものを学んでおきたい」という思いから、「スタンフォードが中高生に教えていること」(著 星友啓)を読みました。

 世界でも名高いスタンフォード大学。その付属高校にあたるオンライン・ハイスクールの校長を務めるのが日本人である著者、星友啓さんです。星さんは、スタンフォード大学オンライン・ハイスクールの創設時のメンバーで、今や全米屈指の進学校を率いています。

 今年で創設16年。オンラインでありながら、全米ナンバー1の進学校にも輝いたオンライン・ハイスクール。これからオンライン授業を導入しようとしている僕にとって、スタンフォード大学オンライン・ハイスクールのシステムや思想から学ぶべきことは、たくさんありました。


反転授業

 スタンフォード大学オンライン・ハイスクールのオンライン授業は、「反転授業」という授業形態で進められています。

 反転授業とは、生徒がその日の教材を授業の前に予習し、授業は予習を前提にディスカッションや演習問題に取り組む、という授業スタイルです。

 子どもたちは、教師の講義の録画ビデオやリーディング課題などを通して、事前に教材を予習して授業に臨みます。授業は予習を前提に行われるわけですから、事前の学習にも熱が入るように動機づけられます。スタンフォード大学オンライン・ハイスクールでは、授業を少人数制で行い、全ての生徒が積極的に授業に参加することが要求されるため、オンラインの環境でも講義ベースの授業のように生徒が受け身に回ることを防げるのだそうです。


小学校版の反転授業

 僕は、現在はまだオンライン授業は始まっていませんが、この反転授業のスタイルを担任する小学校4年生で生かしたいと思いました。そこで、まずは授業の予習を宿題でやることにしました。取り組む教科は算数です。

 4年生とはいえ、「予習しておいで」の一言でたやすくできるものではありません。そこで、教科書の動画解説を活用しました。最近の教科書は、QRコードが付いていたり、教科書会社が作成した解説動画がウェブサイトで閲覧できたりします。この動画を見て予習をし、ノートにまとめてくるように伝えました。

 幸い、タブレットを毎日持って帰るようになったことから、全員が問題なく動画を閲覧できる環境が整っていました。

 もちろん動画を見ても分からなかったという場合もあります。その時は、「なぜこうなるのか分からない」「ここまで分かったけどここから分からない」など、分からないポイントをノートに書いてくるようにしました。

 教師は朝の宿題提出とともに、子どもたちがどこまで理解しているか、どこでつまづいているかをチェックし、授業でおさえるべきポイントを把握します。

 授業は、動画と全く同じ問題から始め、子どもたちの理解が足りていないところを補ったり、動画では解説していないところをつついたりしていきます。残った時間でたくさん演習課題を行いました。

 まだ試行段階ですが、この「小学校版の反転授業」には、かなりの手応えを感じています。下に「やってみたメリット・デメリット」をあげておきます。

反転授業のメリット
・子どもたちの半分以上が概ね理解している
 →授業がかなりスムーズに流れる。
 →子どもたちの参加率、挙手率が上がる。
 →深い話し合いができる。
・誰が、どこでつまづいているのかを把握できる
 →教師側の予想ではなく、子どもたちが本当に
  つまづいている箇所をつかんで授業ができる。
 →演習問題の時間に手厚くフォローできる。
・自主学習的な宿題である
 →その子に合わせた学び方ができる。
 →学び方を学ぶことができる。
反転授業のデメリット
・解説動画を活用するならオンライン環境を整える必要がある。
・低学年にはおそらく難しい。
・やり方の説明に少し時間がかかる。
・予習なので分からない場合も多く、保護者に頼る子も出てくる。
 (分からないまま出してくれていいのですが…)

 こういった課題が初めてだという場合は、ノートへのまとめ方に戸惑う子も出てくるかもしれません。僕の場合は、4月から取り組んでいた「けテぶれ学習法」のおかげで、割とすんなり子どもたちに理解してもらえました。

 もし今後、本校でもオンライン授業が始まっても、反転授業の形式を生かして授業をしていけるのではないかと感じています。


「教育」と「学育」のミックスを

 星さんは、本書の中で「教育でなくて学育を」と繰り返し述べられています。

 「教育」は、教師が子どもを「教え育てる」こと。それは時に、学ぶ側の子どもたちを「教えられる」受け身として捉えてしまいかねません。

 一方で「学育」は子どもが主体的に「学び育つ」こと。学びの主体である子どもを中心に考え、子どもがベストで学べる学習条件を教師がサポートするという考え方です。

 星さんは、この「教育」と「学育」のベストミックスを模索する必要があると言われています。反転授業は、「教育」と「学育」のベストミックスを表現した授業スタイルだと思います。

 それには、今までの「教育」の良さを残しながら「学育」を意識し、学ぶ側にフォーカスした学習に視点をシフトすることが重要となります。オンライン学習の進歩によって、その重要度はさらに高まるでしょう。


 星さんは、オンライン教育が黒板並みに当たり前となる未来をえがいています。オンライン教育か、伝統的な対面教育か。そうした二項対立の構図ではなく、さまざまな割合で融合した学習機会が生み出されるだろう、ということです。

 僕たちは、そんな時代の転換期の中を、今まさに模索しているのだと思います。だからこそ、今だから学べること、今しか試行できないことにトライする気持ちはとても大切ですね。引き続き勉強していきたいと思います。





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