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黒珈|くろこ|ビジネスラノベ作家
2024年11月17日 04:00
ポプラ通りを横切って、学園みらいエリアに入った春都は、左手首にはめた腕時計のランプが赤く点滅しているのに気が付いた。 側面に内蔵されているイヤホンを引き出し、耳に当てた彼は、左手首を口元に持って行く。「はい、こちら源無……」『室長っ、どこで何をやっているんですか!』 イヤホンの音声容量一杯に、秋希の声が響き渡った。 ジーンとなった耳を押さえて、春都が呻く。「今日は、いきなり怒
2024年11月10日 04:00
「……で?」 春都は、あらためて画面に向き直る。「わざわざ呼び付けたからには、よっぽどの案件なんだろうな?」『ソウ、マズハコレヲミテ』 ナタリーは、画面の端にぴょこんと寄った。 次の瞬間、空いたスペースにデータベースが現れる。「下着泥棒の被害届リストか。同じものが相談室にも来てるぜ」 大して珍しくもなさそうに眺める春都。 一方の蔵敷は、画面に思い切り齧り付いていた。「おお、C組
2024年11月3日 04:00
数カ月前、春都のスマートフォンに送られて来た一通のメール。 そのメールには、ソフトが添付されていた。 彼は早速、技術同好会で使用していたパソコンにメールを転送、ファイルを開けてみた。 すると、画面にある文字がタイプされた。―Are You Inventor?(あなたは発明家ですか?)「アー、ユー、インベンター?」 よく分からないが、好奇心を覚えた彼は、『Yes』と打ち、エン
2024年10月27日 04:00
たまみらい学園は、国内最大級の敷地面積を誇る事から、構内も番地区分がされている。 東南東の外れにある『学園多摩13番地』には、新設校には相応しくない、かなり寂れたエリアが存在していた。 予算の都合なのか、噂では建築事務所の建物をそのまま残したと言われている、鉄筋3階建の専門棟。 その一階に『技術準備室』と書かれた部屋があった。 アルミ製の扉の前に立った源無は、無言でドアノブを握り込
2024年10月20日 04:00
秋希達が居る相談室の向かい側に当たる校舎には、高等部の学園長室がある。 室内では、デスクに座った初老の男性を前に、一人の男子生徒が直立不動でレポートを読み上げていた。 やや短めの髪を無造作に纏めているが、精悍な印象のある好青年だ。 本人は少し気にしているやや切れ長の瞳は、端正な顔立ちと合わせて、どこか歌舞伎役者のような雰囲気を醸し出している。「……以上、先週の報告を終わります」「
2024年10月13日 04:00
私立たまみらい学園は、トウキョウ都の西部、タマ丘陵の南西部に位置している。 中・高・大学まで一貫しており、男子寮・女子寮も備えている。 その高等部には、創設当時より生徒の学業や受験の相談を行う、学園直属の『相談室』があった。 当初は教師が持ち回りで運営していたのだが、数年前から実際の運営は生徒自身に任せられている。 今では、勉強は勿論、学内での様々な事件や問題を引き受けているため、生徒
2024年10月6日 04:00
私立たまみらい学園女子寮、通称『銀閣』の朝は早い。 しかし、起床を告げるチャイムで起き出すのは、入学間もない新入生か三年の受験組位だろう。 ましてや、今日は日曜日。 しかし、2年生棟の中で朝早くから賑やかな部屋があった。「今日はタカサゴ君とお出かけだあ~ん♪」 嬉しそうに飛び跳ねているポニーテールを見て、短髪に軽い寝癖をつけた少女が、椅子に座ったまま溜め息を吐いていた。 普
2024年9月29日 04:00
少女は、絶句していた。 目の前に、大きな血溜まりが広がっている。 その縁が段々と近付いて来て、爪先に届くようになっても、彼女は一歩も動くことが出来なかった。 紅い海の中に倒れている物体。 それは、紛れもなく彼女自身だったからだ。「嘘……」 彼女は、ようやく掠れる様な声で呟いた。(あれは私、どういう事!?)(ここは、特進コースの教室よね?)(編入試験に受かって、私が通う所よ