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【小説】「インベンションマン」004

 秋希達が居る相談室の向かい側に当たる校舎には、高等部の学園長室がある。

 室内では、デスクに座った初老の男性を前に、一人の男子生徒が直立不動でレポートを読み上げていた。

 やや短めの髪を無造作に纏めているが、精悍な印象のある好青年だ。
 本人は少し気にしているやや切れ長の瞳は、端正な顔立ちと合わせて、どこか歌舞伎役者のような雰囲気を醸し出している。

「……以上、先週の報告を終わります」
「うむ」
 満足そうな笑みを口元に浮かべ、たまみらい学園高等部の学園長が言った。
「源無(みない)君、やはり相談室を君達にまかせて正解だったよ」
 その言葉を受けて、恐縮しつつも頭を下げた彼は、無駄の無い動きで踵を返した。
「それでは、これから本日の案件に関して室員とミーティングがあるため、これにて失礼いたします」
「うむ、よろしく頼むよ」

 隣の校舎に続いている渡り廊下を歩いていた彼は、右手首から微かに聞こえてきた発信音に気が付いた。
 立ち止まって辺りを確認した後、右手をそっと口元に当てる。

「……『GOKANモード』に切換え」
『けびんっ!』
 いきなり脳髄に響き渡る様なマックス値の思念を受けた彼は、苦痛に思わず顔をゆがめた。

(おいっ、興奮し過ぎだ!頭にガンガン響いたぞ!)
『アッ、ゴメン』
 声のボリュームは幾分弱められたが、機械的な言葉遣いに変化は無い。

(緊急連絡とは、何かあったのか?)
『エエ』
 その機械音声は、当初の目的を思い出したかのように言った。

『スグ本部ニモドッテ!緊急ノ打合セヨ!』

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