【小説】「インベンションマン」001
少女は、絶句していた。
目の前に、大きな血溜まりが広がっている。
その縁が段々と近付いて来て、爪先に届くようになっても、彼女は一歩も動くことが出来なかった。
紅い海の中に倒れている物体。
それは、紛れもなく彼女自身だったからだ。
「嘘……」
彼女は、ようやく掠れる様な声で呟いた。
(あれは私、どういう事!?)
(ここは、特進コースの教室よね?)
(編入試験に受かって、私が通う所よね?)
(なのに……何よこれぇ!?)
「失敗、か」
不意に後ろから聞こえた声に、少女は飛び上がった。
恐る恐る振り返ると、白いスーツに身を固めた40代位の男が、開け放たれたドアの柱にもたれ掛かっている。
「どうにも、ままならないものだな」
咄嗟に、彼女は男の方に駆け寄っていった。
そのまま早口でまくし立てる。
「違うの、わたし何も知らない。それにあれはわたしじゃぁ……」
男は無表情なまま、怯えている彼女の肩にそっと手を掛けた。
誰とはなしに呟く。
「まあ、いいか」
「え?」
それが自分に向けられた言葉だと思った少女は、思わず顔をあげる。
男は、口元だけを歪めた不自然な笑みを浮かべながら言った。
「今回から、『本物』を使うことにしよう」