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週末ストーリィランド

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#小説

【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第4話

【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第4話

「……好きな人、か」
 その言葉を最近ようやく平気で言えるようになったアオイは、自虐的な表情を浮かべた。
「皮肉なものね」

 本人はあまり自覚していないのだが、友人に言わせると、アオイは「大和撫子を地で行っている美人」らしい。
 男子からもよく声を掛けられるが、その気が全くない為、全てノーと答えている。
 相手を傷つけないよう、断り方も堂に入ったものだ。

『好きな人がいる、いい友達でいましょう

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【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第3話

【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第3話

 次の授業の準備を始めようとしている級友の間を抜け、アオイは有夢の元へと向かう。
 しかし、彼女の姿は消えていた。

「あれ?どこいったんだろう」
「……生稲」
 首をかしげる私に、声が掛けられた。
「あ、大友」
 振り返ると、同じクラス委員の大友(おおとも)カズヤが立っていた。
「あのさ、話があるんだけど、放課後いいかな?」
「あ、うん」

 放課後、校舎の屋上。
 校庭から聞こえてくる運動部員

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【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第2話

【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第2話

 教壇の上では、中年の女性教師が英文のリーダーを説明している。

(相変わらず、LとRの発音が微妙にズレているなぁ……)

 英語は得意なはずだったが、内容が全く頭に入ってこない。

 普段の自分ならすぐ分かるはずなのに。

 やはり、ここ何ヶ月か「普段」というものをやっていないからだろうか。

 3か月前、高校一年生の終わりに経験した出来事。
 それが、生稲アオイを変えてしまった。

 思い出す

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【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第1話

【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第1話

 ため息をつくと、
 幸せが一つ逃げて行くって言うけれど、
 逃げた幸せは、一体どこに行ってしまうんだろうね……

(そんなに寒いのかな?)

 生稲(いくいな)アオイが、クラスメイトである海野有夢(うみのゆめ)に抱いた最初の印象はこうだった。

 高2の女子として平均的な身長のアオイより、彼女は頭一つ分背が低い。

 ミディアムボブの黒髪に、くりっとした大きな瞳。そして、首に巻き付けられた『大き

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【週末ストーリィランド】「風のように、また。」最終話

【週末ストーリィランド】「風のように、また。」最終話

「インタビューしても、いいですか?」
 大量の花束と格闘していた悠生に、ある女性記者が近付いて来た。

「ええ」
 係の人に花束を預け、ようやく落ち着いた彼は、襟元を正して向き直る。

「この度は、大賞受賞おめでとうございます」
「有り難うございます」
「『風の色』素敵なシーンですね。光の粉が舞い降りてくる感じが」
「ええ、苦労しましたよ」
 当時のことを思い出した悠生は、軽く微笑んだ。

「それ

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【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第13話

【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第13話

 レンズの中に居る、浅緒久深。

 彼女の白いワンピース、ミューズ、麦わら帽子……

 その全てに光が、光が満ち溢れていた。

「風色の粉が、弾け飛んでいる」
 波風によってすくわれた水しぶきに、太陽の光が反射して出来た光の衣。

 彼女の姿は、まるで風の衣を纏った天女が、地上に降り立って来た様であった。

「そうかっ!」
 悠生は、思わず叫んでいた。

(分かりましたよ、お兄さん)

『風の色は

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【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第12話

【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第12話

(綺麗な、蒼い空だ……)

 窓枠に肘を掛けて、悠生はずっと空を眺めていた。

(この光景は、ずっと変わらないだろうな)

「ユウ、お客さんだ」
 彼を呼ぶマスターの声に、大きく一つ伸びをして立ち上がった。

「ヨーロッパに、行くの……」
 波打ち際を歩きながら、久深が言った。
「ヴァイオリンの技術を磨くため、留学することにしたの。四年、五年、もしかしたら、それ以上掛かるかも」
「そっか」
 彼女

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【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第11話

【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第11話

 風の森に広がる海面に、雨水が一粒落ちた。
 輪を描いて広がっていくその数が段々増えて来て、夕立となった。

 打ちつける豪雨の中、久深は膝の間に頭を埋めて座っていた。

「やっぱり、ここだった」
 聞き覚えのある声に、彼女は少し顔を上げた。
 潤んだ瞳に、心配そうな表情の悠生が映り込む。
「忘れ物」
 目の前にヴァイオリンケースを差し出された久深は、ゆっくりと首を横に振る。
 彼は、彼女の傍らに

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【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第10話

【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第10話

 翌日。
「さあて、現像現像っと」
 バイトが上がった悠生は、フイルムケースを片手に、いそいそと控室から玄関に向かっていた。

「何だユウ、どこかに行くのか?」
 そんな様子を見て、彼のOBである海の家のマスターが声を掛ける。
「ええ、昨日いい写真が撮れたんで」
「ああ、風吹橋か」
「そうなんですよ……え?」
 軽く流して出て行こうとした彼の足が、思わず止まる。

「先輩、何でその事を」
 悠生の

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【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第9話

【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第9話

 一週間、何も起こらなかった。

(やはり、今年じゃなかったのか?)
(それとも、もう現れたあとだったのか?)

 苛立ちと焦りがピークに達した8日目に、異変が生じた。

「篠原君、あれ!」
 双眼鏡を覗いていた久深が、突然叫び声を上げた。
「……これは」
 彼女が指差した方向にレンズを向けた悠生は、言葉を失った。

 異変は起こっていた。
 しかし、それは二人の想像を遥かに上回っていたのだ。

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【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第8話

【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第8話

 シャッターに触れた指先に、全神経を集中させる。

 一瞬の予断も許されないため、悠生はこの3時間、ずっと同じ姿勢を保っていた。
 額から、滝の様に汗が流れ落ちている。
 日没まで、あと30分……

「……ダメか」
 彼の傍らに座っていた久深は、膝を抱えて呟いた。
「考えてみれば、今年が当たり年という保証は無いわ。一年後、二年後、それ以上かも」

「どんなに小さくても、可能性のあるうちは決して諦め

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【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第7話

【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第7話

「こんな話、誰も信じる訳ないよね」
「そうね」
 再び風の森へと戻って来た、悠生と久深。
 彼は肩に掛けたバッグからカメラを取り出して、セッティングを始めた。

「今でも数年に一度、風吹橋を見かけたという情報が寄せられているらしい」
 地元の観光局に問い合わせた内容を、彼女に伝える。
「良い写真をフレームに収めて、次のコンテストで最優秀賞を狙う。君のお兄さんが受賞作品を見れば、必ず戻ってくるさ」

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【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第6話

【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第6話

「……ひょっとしたら、それは風吹橋の話かも知れんのう」
 暫く考え込んでいた老人は、やがて思い当たった様に口を開いた。

 久深の告白を聞いた後、悠生は自分も風の色捜索に加わりたいと申し入れた。
「伝説的なものは、地元の人に聞くのが一番」
 そう思った彼は、バイトの空き時間を利用して、彼女と近くの漁村等を尋ね歩いた。

 空振りが続いた3日目に、ようやくこの老人のひと言と出会えたのだ。
「どんな、

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【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第5話

【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第5話

「両親が死んでから、兄は男手ひとつで私を育ててくれました。生活は苦しい筈なのに、『久深は夢を追い続けるんだ』って、無理をしてバイオリンも習いに行かせてくれて……」

 少し言葉を区切った彼女は、小さく深呼吸をして話を続けた。
「大好きだった絵をやめて、一心に仕事に打ち込む兄を見て、わたしはだんだん罪悪感に囚われてきたのです」
 久深の顔に、苦悩の色が浮かぶ。
「高校三年の秋、新人賞を受賞した時、わ

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