【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第8話
シャッターに触れた指先に、全神経を集中させる。
一瞬の予断も許されないため、悠生はこの3時間、ずっと同じ姿勢を保っていた。
額から、滝の様に汗が流れ落ちている。
日没まで、あと30分……
「……ダメか」
彼の傍らに座っていた久深は、膝を抱えて呟いた。
「考えてみれば、今年が当たり年という保証は無いわ。一年後、二年後、それ以上かも」
「どんなに小さくても、可能性のあるうちは決して諦めない。夢を持つ者の常識だよ」
「……ごめん」
彼女は素直に頭を下げた。
「今日は、ここまでか」
ファインダーから目を離した悠生は、疲労が一気に押し寄せて、思わず砂浜に倒れ込んでいた。
「篠原君!」
慌てて駆け寄って来た久深は、彼の額に水で濡らしたハンカチを押し当てる。
「大丈夫? 無理をするから」
「なあに、これしき。夢が叶うなら軽いものさ」
ブリッジの体勢からよっと起き上がった彼に、久深は尋ねる。
「夢って、カメラ?」
「そう。俺の夢は『世界一の写真』を撮る事なんだ」
大きく胸を張って、彼が答える。
「へえ、大きな夢ね」
「うん、夢を語ることができるのは今だけだから、思いきり欲張ってみた」
夕日の余光に、微笑みを浮かべる悠生の顔が眩しく映っている。
(なれるよ、世界一に)
久美は、心の中でそう呟いた。
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