マガジンのカバー画像

週末ストーリィランド

34
週末にひと繋ぎのものがたりをご提供いたします🐈‍⬛☕️✨
運営しているクリエイター

記事一覧

【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第20話

【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第20話

 直人の入院している病院は、彼の住んでいたマンションから二駅離れたところにあった。

「アオイちゃん!?」
 ロビーに降りて来た直人の母は、アオイの姿を見て狼狽した。
「どうしてここが?」
「聞いたんです」
「……そう」
 彼女は、軽く肩を落とした。
 おそらくアオイの母親から聞いたと思ったのだろう。

「隠しているつもりは無かったの。でも、直人がアオイちゃんには言わないでって」
「そんなに、悪い

もっとみる
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第19話

【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第19話

(……う……ん)
 暗がりの中、アオイは薄目を開けた。

 暫く経って、周囲の状況がはっきりしてくる。
「私の、部屋?」
 ベッドに横になっていたアオイは、起き上がってみる。
 カーテンの隙間から覗く光は、早朝の雰囲気だ。
 窓際に駆け寄って、彼女は自分が制服のまま寝ていた事に気付いた。

「今日、何日なのだろう?」
 部屋を出たアオイは、予想外の寒さにぶるっと身を縮ませた。
 勢いで玄関に出た彼

もっとみる
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第18話

【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第18話

「……ポイント還元、って訳?」
 半信半疑で聞いていたアオイだったが、その視線は有夢の首に巻かれたマフラーに移っていた。

 先程まで普通の毛糸編みだったそれが、いつの間にか真珠色の鈍い光を放っている。

 現実と非現実の区別が無くなり、平然とリストカットを続けてきた自分でさえ、目を疑う様な現象だ。
「ただの詐欺師じゃなかったんだ」
「あ、酷い。むー」
 むくれる有夢を見て、アオイは思わず笑った。

もっとみる
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第17話

【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第17話

「……以上が、わたしの『ためい気』の原因」
 一気に喋ったアオイは、色々なものを振り払う様に頭を左右に動かした。

(えい、えい)

 こうすると、記憶が片隅に追いやられていく気がするのだ。

「分かった」
 表情を一つも変えずに聞いていた有夢。
 リアクションの薄さに、拍子抜けしているアオイを無視して言った。
「それで、どうする?」

「どうする、って?」
 訳が分からない彼女に、有夢は説明した

もっとみる
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第16話

【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第16話

 1か月半の闘病生活が嘘の様に、直人はきれいな顔をしていた。

「末期の●●癌でした」
 医師の言葉を、アオイは機械的に受け止めていた。

「自分では、手遅れって分かっていたのね。だから、アオイちゃんにも話さないで」
 面識のある直人の母親が、ハンカチを握り締めながらポロポロ涙を流していた。
「あの子、本当に喜んでいたのよ。最愛の人は無くしたけれど、これからは愛する事が出来る可愛い妹が出来たってね

もっとみる
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第15話

【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第15話

 幾度となく通った駅
 幾度となく通った道

 行き着いた先に、直人の姿は無かった。

「年末に、出て行かれましたよ」
 顔見知りの大家さんが、彼女に教えてくれた。

「妹さんにも言わなかったの? よっぽど急だったんだね」
「兄さん、どうかしたんですか?」
 理由知り顔の大家に、アオイは詰め寄った。

 暫く彼女を眺めていた彼は、やがてゆっくりと言った。
「……入院、するんだって」

(え?)

もっとみる
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第14話

【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第14話

 カレンダーは、いつの間にか二月になっていた。

 あの日以来、アオイは直人の部屋に行っていない。
 何となく行き辛くなっているうちに、タイミングを逃してしまったのだ。

(……ふう)
 最近めっきり多くなった溜め息を付いて、彼女は思った。

(溜め息も、付きすぎると幸せじゃなくなるのかな)
 そう思った瞬間、彼女はあの時間を思い出した。

『……笑おうよ、アオイちゃん』

 そうだ、こんなの私ら

もっとみる
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第13話

【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第13話

(言っちゃった!)
 全身に火が付いたような感触を覚えながら、彼女はまっすぐ前を向いて歩いていた。

 満足感と後悔が、交互に浮かんでは消える。

 ナオ兄さん、何て答えるだろう。
「またまた」とか誤魔化すかなぁ。
 そのときは、強引に約束しちゃおうっと。

 色々な想いを廻らせながら、彼女は直人の返事が遅い事に気が付いた。
「……兄さん?」
 不思議に思ったアオイは、くるりと振り返った。

 遥

もっとみる
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第12話

【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第12話

 アオイの想いは、単に姉の婚約者だった義兄という枠を既に超えていた。

 しかし、それ以上踏み込むことは出来ない。

 姉に対する後ろめたい気持ちや、直人の本心を確かめる怖さなど、15歳の彼女にとって、乗り越えるにはあまりにも高過ぎるハードルだったのだ。

 それでも、日々の想いは膨らみ……そして積み上がっていく。

 彼女がハードルを越えて見ようと思ったのは、年末の事だった。

「もうすぐ、クリ

もっとみる
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第11話

【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第11話

 高校に進学した彼女は週に2回程度、直人の住むマンションに通っていた。

「まぁた散らかしている」
「おー、すまんすまん」
 寝巻き姿の義兄を押しのけ、掃除機に手を伸ばす。
「いくら仕事が夜だからって、ぐうたらしていたら駄目よ」
「肝に銘じます」
「ったく」
 しょうがない兄さんね、と言いながらスイッチを押した。

「高校の勉強はどう?」
 冷蔵庫を物色中の直人が声を掛ける。
「大丈夫。良い家庭教

もっとみる
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第10話

【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第10話

 姉が死んだのは、中学2年生の時だった。

 数ヶ月後に結婚式を控えていた姉は、飲酒運転のトラックが起こしたつまらない事故で、命を落としてしまったのだ。

 あまりにも急な別離に、頭が理解出来ないまま、アオイは姉の亡骸に縋って泣いていた。

 その時、病室に一人の男性が現われた。
 仕事中に訃報を知った姉の婚約者は、動かなくなった最愛の女性を前に、暫くの間佇んでいた。

 彼に構わず泣いていたアオ

もっとみる
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第9話

【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第9話

「アオイを、助けたい」
 牛乳パックのストローから口を離して、有夢は言った。

「このままだと、アオイが死んでしまう」

 彼女としては、そこまで深い意味を持って発した言葉ではなかったのだろう。
 しかし、アオイにとって、その言葉は妙に堪えてしまった。
 おそらく、先程の先制パンチが相当効いているのだろう。

 彼女は、ふうっとため息を付いた。
 あっ、と言いかけた有夢を制する。
「今のは『ためい

もっとみる
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第8話

【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第8話

 説明会場には、学生食堂の一角が選ばれた。

「『ためい気』とは、ため息の中でも、後悔・心残りなどが色濃く反映されているものを指します」
 有夢は、淡々と口を動かした。

「通常のため息とは違い、回数を重ねると本人の精神を蝕んでいく危険があります」
 そして、自分を指差して言った。
「『ためいき泥棒』は、ためい気から発するエネルギーを収集する者のことです」

 そこまで話した彼女は、少し後ろめたい

もっとみる
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第7話

【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第7話

 ひとすじの風は、教室の入り口まで達したような気がした。

 そこに佇んでいる少女の足元で、それはくるくると回りだす。

 彼女がパチンと指を鳴らした瞬間、風は周囲に離散した。

「……あなた」
 ようやく彼女の存在に気が付いたアオイは、面を上げて睨み付けた。
「今度から、見学料取るって言わなかったっけ?」
 精一杯の脅しにも、有夢は動じる様子はなかった。
 代わりに淡々と言葉を述べる。

「溜め

もっとみる