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【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第9話

「アオイを、助けたい」
 牛乳パックのストローから口を離して、有夢は言った。

「このままだと、アオイが死んでしまう」

 彼女としては、そこまで深い意味を持って発した言葉ではなかったのだろう。
 しかし、アオイにとって、その言葉は妙に堪えてしまった。
 おそらく、先程の先制パンチが相当効いているのだろう。

 彼女は、ふうっとため息を付いた。
 あっ、と言いかけた有夢を制する。
「今のは『ためい気』ではないでしょ?」
「うん、違う」
「……いいわ、話してあげる」
 そう言って、アオイはゆっくりとブラウスの袖先を捲りあげた。

 有夢の瞳が、スッと狭まる。

「酷いものでしょう」
 袖を戻しながら、彼女は他人事のように言った。
「無意識で切ったのが4回、自分の意思では……忘れた」

 自らの痛みを堪える様な表情で、有夢が問いかける。
「……何故?」


「辛い、話よ」
 アオイは、かすかに微笑んだ。

「そう、ため息で逃がしたくなる程ね……」

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