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【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第10話

 姉が死んだのは、中学2年生の時だった。


 数ヶ月後に結婚式を控えていた姉は、飲酒運転のトラックが起こしたつまらない事故で、命を落としてしまったのだ。

 あまりにも急な別離に、頭が理解出来ないまま、アオイは姉の亡骸に縋って泣いていた。

 その時、病室に一人の男性が現われた。
 仕事中に訃報を知った姉の婚約者は、動かなくなった最愛の女性を前に、暫くの間佇んでいた。


 彼に構わず泣いていたアオイは、やがて自分の肩に置かれた暖かい手の感触を覚えて、ゆっくりと面をあげた。

「……笑おうよ、アオイちゃん」

 そこには、優しい顔をした義兄の姿があった。
「泣いたら、幸せがどんどん逃げてしまう。お姉さんの分も、僕たちみんなが幸せにならなくちゃね」

 そう言った彼の両目も、思いっきり真っ赤に腫れていた。
 そのアンバランスが可笑しくて、彼女は不謹慎にも病室で吹き出してしまったのだ。


「ありがとう、ナオ兄さん」
紀伊直人(きいなおひと)の、義妹を心から思いやる気持ちに、アオイは救われた。


 そして、同時に
 何かがはじまった。

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