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【映画と本どっちも好き 第一回】 50年後の連合赤軍

雪の中の山荘に、鉄の玉がどーーーん!とぶつかるあの映像、テレビでよくやっている昭和事件史系の番組で、一度は目にしたことがあると思います。
「あさま山荘事件」は、今年2022年からちょうど50年前に起きた事件です。節目の年として、今年は連合赤軍が起こしたあさま山荘事件関連の本がたくさん出版されることでしょう。

あの集団「連合赤軍」は何を訴えていた?


集団で山荘に立て篭もり、人質をとり、一体何を訴えていたのか。そしてあさま山荘に至るまでの山中で起きていたおぞましい集団リンチ(16人が亡くなっています)。
現代の若い人からしたら(筆者も30代なので現代の若い人くくり…)、あの集団の中で何が起きていたのか、そもそも集団自家中毒を起こすほどに何を考えていたのか…全然わかんないですよね。
今回は、あさま山荘事件の輪郭がわかるようになる本と映画を紹介します。

映画『光の雨』 監督:高橋伴明/2001年/日本/130分



連合赤軍メンバーを詰める森を演じる山本太郎


現代の若者が山岳ベース事件(あさま山荘事件に至るまでの山中で集団リンチで死者が出た事件)を演じる、という劇中劇。
革命について全く知識のない若者が劇を通して思想を学ぶというスタイルのため、こちらに知識がなくても大枠がわかるので入門編にぴったり。
連合赤軍が目指していたのは、打倒体制を掲げる革命を成し遂げること。そのために違法に武装し、山中で革命戦士になるための訓練をするのだが、会話や普段の行動から気の緩みや思想の遅れを指摘され、総括と称して吊し上げられるのだ。この「吊るしあげられる」行為は全く比喩でなく、本当に極寒の山中に吊し上げられる。
革命戦士とはなんぞや、反体制の先に目指す世界とはなんぞや。そこんところが集団内で握られているわけではないから、リーダーの考えと少しでもずれていると揚げ足を取られて即処刑。

ちなみに、「すいとん、すいとん」とつぶやいたことで殺された人や、「リーダーの目が可愛い」と言っただけで殺された人もいる。
なんのこっちゃと思うかも知れないが、バイトや部活で気が緩んだ発言や行動をした人が白い目で見られる…不謹慎だがそんなシーンの究極系だと思ってもらうとわかりやすいかも知れない。

それにしても連合赤軍のリーダー、森を演じる山本太郎の鬼気迫る演技がすごい。彼に怒鳴られたら私も総括に加担しないとは言い切れない。数年後、彼が本当に左派政党のリーダーになるとは……

映画『バーダー・マインホフ 理想の果てに』 監督:ウーリー・エデル/2008年/ドイツ・フランス・チェコ/150分

日本で学生運動の風が吹き荒れていたとき、世界中で同時多発的に学生や若者による体制批判が起きていた。いわゆる政治の季節だ。
アメリカ、日本、イタリア、そしてドイツ。本作はドイツの政治左派グループ「バーダー・マインホフ」のテロ活動と終焉を描いたもの。暴力的な活動内容はもちろんのこと、捉えられた後の獄中に待つものすごいドラマは史実とは思えない。

ちなみに2019年にルカ・グァダニーノがリメイクした『サスペリア』でクロエちゃんが逃げてくる冒頭のシーン。彼女はバーダー・マインホフから逃げているという設定でしたね。
バレエ団の魔女たちの「反体制のはずだったのに内側はがっつり体制作っちゃってる」という様子と、バーダー・マインホフの体制がリンクする作りになっているそう。

書籍『2022年の連合赤軍』 深笛義也/清談社

あの事件から50年が経ち、すっかり過去の負の遺産となった事件….ではありますが連合赤軍だったメンバーはまだ数名ご存命です。
なんなら死刑宣告された主導側のメンバーだって獄中で生きています。
本書は、刑期を終えて一般生活に戻っている元連合赤軍メンバーを中心に、当時のリアルな内側の語りをまとめたもの。
あの時の熱風、そして冷却期間を経た50年後に事件をどう振り返るかに迫ったノンフィクションです。
巻末には細かい時系列で連合赤軍の起こした出来事や事件がまとめられていたり、もはや一部は死語となった左派用語索引がついている。
革マル?セクト?内ゲバ?ゲバ棒?オルグ????と思っている方、ぜひお手に取ってみてください。

書籍『瀬戸内寂聴 永田洋子往復書簡 愛と命の淵に』福武文庫

連合赤軍の副委員長(ナンバー2)だった女性メンバー、永田洋子。死刑宣告ののち、獄中で瀬戸内寂聴と交わした手紙をまとめた一冊。
狂気の女性と思われている彼女だが、その文章はとても無邪気で素直で、あどけなさすら伺える。
その幼く真っ直ぐな性格が脇目もふらず革命への突き進む要員となったのだろうか…
瀬戸内寂聴は伊藤野枝や管野須賀子などの女性革命家の人生をライフワークとして描いてきたが、連合赤軍のように失敗した革命についても、距離をとりつつもしっかり拾っていたことは忘れてはいけない仕事だと思う。

死刑囚の獄中の生活(食事や差し入れ、自由時間の過ごし方など)も事細かに記述されており、その部分も意外と読みどころ。

理想の一元化ってもしかしたら人類の禁忌かも


結局、あの時代に若者が求めていた理想とはなんだったのでしょうか。何冊の本を読んでも、何本の映画を読んでも、「ズバリこれ」という明文は出てこないのです。
もちろん携わっていた一人ひとりにはあるようなのですが、集団でまとめるとスッキリ腹落ちする「これ」というのは出てこない。

出てこないからざっくりまとめる→細部を詰めていないから、勘違いしている人や別のことを考えている人が出てくる→その人は遅れていると見られる→詰められるから逃げようとする→最悪の結末に…
ざっくりとまとめ過ぎましたが、連合赤軍の活動内容にはこんな流れを見てしまいます。

若い人が社会や将来に理想を持つことは健全です。でも、その理想を集団で一元化することの難しさ、そして誘惑については考えさせられます。
「日本」や「世界」という大きな主語で理想をまとめあげること、一丸となって皆同じ理想を掲げること自体が人間や社会にマッチしないエネルギーなのかも知れません。なんだかバベルの塔みたいな話ですね。





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