有田焼・波佐見焼の産地をめぐる - ものづくりの本質に触れる旅
こんにちは、Kurasuで商品企画を担当しているSakiです。私たちは今、オリジナルプロダクトとして波佐見焼(はさみやき)のマグカップ&ソーサーをつくっています。
波佐見焼の産地である長崎県波佐見町は、有田焼の産地である佐賀県有田町と隣り合っています。いずれも400年間以上にわたって焼き物の伝統が受け継がれている地域で、誕生した時期や技術的なルーツの近さから、両者は兄弟のように扱われてきました。
今回開発するマグ&ソーサーは、オリジナルプロダクトとして販売するだけでなく、国内外のカフェでも使用されます。いわば、Kurasuの新しい顔となるアイテムを生み出す一大プロジェクト。土や釉薬などの素材を自分たちの目で確かめ、職人さんたちと直接お話ししながら、イメージをかたちにする必要があります。そこで先日、デザイナーのShinguさんと共に、有田焼・波佐見焼の産地をめぐってきました。
有田焼も波佐見焼も、伝統的に「分業」でつくられる焼き物です。土、型、釉薬、焼成……と工程ごとに専門の業者さんがいて、それぞれの場所で職人さんが働いておられます。限られた時間の中で、各工程でお世話になる方々を訪ねた今回の旅は、ハードながらもとても実りの多い旅となりました。この旅を振り返りながら、Kurasuのものづくりにかける想いをお伝えします。
いざ、有田焼・波佐見焼の世界へ
朝9時、最初に訪れたのは、有田駅から車で5分ほどの小高い丘の上に広がる「アリタセラ / Arita Será」です。ここには22の焼き物専門店やカフェ、ギャラリーが軒を連ねており、今回はそのひとつである「ヤマト陶磁器」さんを訪ねました。
ヤマト陶磁器さんは問屋でありながら商品企画・OEMも手掛ける有田焼・波佐見焼のメーカーです。今回、各工程の業者さんや職人さんを案内してくださったのもヤマト陶磁器さんで、私たちにとっては「有田焼・波佐見焼の案内人」のような存在。非常に豊かな経験をお持ちのメーカーで、求める質感の実現、キャパシティや質の担保など、さまざまな面に魅力を感じ、ヤマト陶磁器さんへのお願いを決めました。
今回は店舗裏にある商談スペースを兼ねたオフィスにお招きいただきました。実際にものを見ながら「これがイメージに近いですね」「こういうものを作れたらいいなあ」と想いを膨らませた後、担当者の山口さんが運転する車に乗せてもらい、産地めぐりのスタート! ミッションは、有田焼と波佐見焼のことを学び、土を探し、釉薬を選び、発注候補先の窯元さんや型やさんに顔を見せて挨拶をすることです。
無限の色と質感、めくるめく釉薬の世界
まず向かったのは、陶磁器用の絵具や釉薬の製造販売をしている「深海(ふかうみ)商店」さん。数百年の歴史を持つ老舗で、豊臣秀吉の朝鮮出兵時(慶長の役)に朝鮮から連れてこられ、日本に高麗青磁を持ち込んだとされる陶工・深海宗伝の子孫の方が事業を営んでおられます。
見せてもらった棚には、端から端までサンプルの小皿がびっしり並んでいました。色見本帳のPANTONEやDICのような、数え切れないほどの色たち。たとえばピンクの釉薬だけでも10色以上のバリエーションがあります。さらに質感も、マットなものからツヤのあるものまで、何段階にも分かれていて……。
たくさんのサンプルを手に取って、無限にも思える「色×質感」の組み合わせの中から、自分たちの理想を探していきます。選択肢が多すぎて、プロダクトデザイナーのShinguさんは1時間以上も悩んでいたほど(笑)写真では、微妙な色や質感の違いはほとんどわかりません。でも、肉眼で見るとやっぱり違っている。それを確かめて、とことん悩めるのが、産地に来た醍醐味だなと感じました。
ちなみに焼き物って、化学反応(酸化と還元)のコントロールが重要だそうです。釉薬も土も自然のものなので、含まれている鉄分の量がそれぞれ違い、その組み合わせによって色の出方が変わってきます。釉薬やさんでサンプルを見て「これが良い!」となっても、使う土や焼き方との組み合わせによって、その通りに仕上がらない可能性があるわけです。そこが難しいと同時に、おもしろいところだなあと思います。
採石場、数百年の歴史が目の前に
次に連れていってもらった場所は、まさかの崖……? と思いきや、崖ではありません。
有田焼や波佐見焼では、天草の磁石を砕いて作られる天草磁土と呼ばれる土が原料として多く使われています。有名どころでいうと、「1616 / arita japan」の白っぽい陶磁器は、天草磁土そのものの色を活かしているんです。
ここは、かつて磁石がたくさん採取され、山が削られて崖のようになってしまった場所です。「ここにあった山は、全部ご飯茶碗になっちゃったんですよ」と山口さん。確かに、ここから生まれた土が焼き物となって、日本中に運ばれていったのでしょう。数百年にわたるものづくりの産地の歴史を垣間見た気分です。
現在ここでは採取は行われておらず、歴史を残す場所として公開されているのですが、周辺には今日も磁石が採取されている場所がいくつもあります。広大な土地を見て、有田とその周辺に眠る資源の豊富さを感じ、有限な原料を大切に使いたいと改めて感じました。
天草の磁石から粘土ができるまで
続いて、天草の磁石から粘土を作る工場を訪ねました。ここでは土練機(どれんき)と呼ばれる機械で、原料に水を混ぜて液状にしていきます。水に土を混ぜてよく攪拌し、砂や石など不純物を取り除き、粒子の細かい土だけを採取する方法を水簸(すいひ)というそうです。
薄いパーツが連なっている機械を使い、液状になった原料を圧縮して板状の粘土にします。実際はもっと細かい工程がありますが、この板状の粘土で焼き物が作られるわけです。
同じ天草の磁石をベースに使っても、混ぜ合わせる土、釉薬の有無、焼き方によって見た目や強度が変わるので、いろいろな組み合わせで焼いたものを見比べられるよう、サンプルが並んでいます。好きに組み合わせられるわけではなく、「この土にはこの釉薬はかけられない」「この土にはこの加工はできない」といった制限があり、組み合わせはまるでパズルのようです。
土に好みの釉薬をかけて焼き上げる方法が一般的ですが、私たちは土本来の色やアンニュイな表情のあるマット感を出したいので、その方法では表現しきれなくて。
土の違いによって収縮率に違いがでてしまうので色違いを作るのが難しかったり、コスト面での折り合いもあったりして、ここでもShinguさんはものすごく悩んでいました。
全力で良いものづくりをしたいという気持ちから、ずっとその場で1週間ぐらい悩んでいそうだったので(笑)、この日は自分たちがやりたいことを実現するための優先順位を決めて、あとは実際に試作してもらって判断することにしました。
精緻な型づくりに職人技を見る
次は、焼き物の型を作る工場で石膏で型を作っているところを見学してきました。大量に生産するときは同じ型が複数必要なので、それを作ってもらっています。「型を作るための型」も必要で、見本型、マスター型など、型だけでもいろいろな種類があるのだとか。熟練した職人さんたちが無駄のない動きでものづくりをされていて、思わず見惚れてしまいました。
工場を訪れずに注文することも可能ですが、こうして直接伺って、「楽しみにしています、よろしくお願いします!」と伝えることで生産者の皆さんと良い関係を築けます。ひいてはそれが、プロダクトの仕上がりにも影響すると、私たちは思っています。
良いものは、会話の中でできてゆく
できあがった型に材料を流し込む工場も訪ねました。有田という土地柄なのか、皆さんとても優しくて、素敵な人ばかりで……。もちろん、ベテランで知識も豊富なので、「こういう感じのものを作りたい」と伝えると、「前にどこどこの誰々がそういうのをやっていたな」「ちょっと待ってて、今すぐ調べてくるよ」と情報をどんどん教えてくれるんです。
ShinguさんはCADシステム(コンピュータによる設計支援ツール)を使ってデザインをするので、実際の工程を見ることで「薄い器を型から剥がすときはたわみやすいから気を付けないと」といったことにも気づけました。実際の工程を見学し職人さんと話すことでわかることがたくさんあり、改めて「来てよかった!」と思いました。
産地に行って体験した「ものづくりの裏側」
最後に、窯元さんにも立ち寄りました。広い空間に無数の器が並んでいて、圧倒されました。
どこまで行っても器があって、なんだか別の世界に来たような感覚を覚えます。高齢の職人さんたちが手慣れた様子でそれぞれの仕事をしており、完成品のお茶碗ひとつを見るだけではわからない「ものづくりの裏側」を知ることができました。
Kurasuにはコーヒー生産者をリスペクトしたいという想いがあります。今回はコーヒーでなく有田焼の産地をめぐりましたが、それぞれの場所で生産者の人々に出会うたび、Kurasuの目指す世界には実直にものづくりをする人たちの存在が必要不可欠だ、そういった人たちともっと良い関係をつくっていきたいと再認識できました。
今回の旅を終えて
ハードなスケジュールではありましたが、有田焼・波佐見焼の産地をめぐり、土、型、釉薬、窯と、焼き物の各工程に携わる職人さんたちと会えて、人の想いや優しさに触れる旅ができました。愛を持ってものづくりをしている人たちと話すと、心が潤う気がします。
予想をはるかに超えるインプットのおかげで、帰りの特急電車に乗るときには私もShinguさんも頭がパンク寸前で、何もしゃべれなくなっていました。しかし、口を開かなくても、お互いが「ここで見たこと聞いたこと感じたことをすべて注ぎ込んで、最高のプロダクトを作ろう」という気持ちでいることを感じました。
Kurasuで提供するコーヒーには、海外のコーヒー生産地の農園で働く人たちはもちろん、ロースターやバリスタなどさまざまな人たちが関わっています。同じように、マグカップも産地の職人さんたちの存在なしには作ることができません。Kurasuの顔となるプロダクトは、その人たちの物語も織り込んだ、唯一無二の手ざわりのあるものにしたい。そう強く感じています。
Kurasuからのお知らせ
10月9日(水)〜11日(金)、東京ビッグサイトにて開催されるSCAJ2024にて、今回取り上げたオリジナルマグ&ソーサーのプロトタイプを展示し、一部販売します。もしかすると、ここだけの出会いがあるかも? 世界中からコーヒー好きが集まるコーヒーの祭典・SCAJにぜひお越しください!