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私はまだ頑張れる。〜愛おしい重い鍋の行方

今からもう20年以上前、結婚のタイミングで「ル・クルーゼ」の大きなオーバル鍋を買いました。

オレンジ色に惹かれ、当時はまだネットショップなどもなかったので、米子市の「ティズクレイ」さんに取り寄せをお願いし、到着するまでわくわくした気持ちで過ごしたのを覚えています。

なぜ「ル・クルーゼ」だったのか、今となってはもう覚えていないのですが、おそらく当時読んでいた雑誌などでおすすめされていたのだと思います。

当時は百貨店や一部の雑貨屋さんなどにしか売っていなくて、実際に見てその「重さ」に「おおー、重い!」と妙に感動したのも、覚えています。

当時の自分には「鍋に色がついている」というのが新鮮で(実家にそんな鍋は存在しなかった)、しかも色鮮やかな色で…白も赤も黄色もかわいかったのですが、やっぱりオレンジに惹かれて、その後、兄に「結婚のお祝い何がいい?」と聞かれた時も「オレンジのル・クルーゼ」と答えて、かくして我が家には2つのオレンジの鍋が揃うことになったのでした。

使い始めて思ったのはやはりその「重さ」で、持つときは当時から「よっこらしょ」と声が出てしまったし、棚の上のほうに置いていた鍋が震度5弱の地震で床に落ちてきたときには、身の危険を感じました(その後、キッチンの下のほうに置くように)。

決して使い勝手は良くない。でも、角煮やポトフ、ラタトゥイユなどの煮込み料理はやっぱりこの鍋じゃないと!と思いますし、オレンジ色はいつも自分に元気をくれます。

野菜の水分が上手に出てくれておいしく仕上がるので、カレーもこの鍋で作ることが多く、20年以上経った今も、現役で日々の料理に重宝しています。

今では2台のル・クルーゼのほかに、「ストウブ」の鍋も購入し、こちらは一時期ごはんを炊くのにハマっていました。ジャムも毎回、この鍋で作ります。こちらもル・クルーゼに負けず劣らず重いのですが、やっぱり他には代えられない魅力があり、これからも長く使い続けたいと思わせてくれます。

結婚して少し経った頃でしょうか、とある雑誌で、確か料理研究家の方だったと思うのですが、「年齢とともに重い鍋を使うことがしんどくなって、鉄製の重たい鍋は全部知り合いに譲ってしまって、今はステンレスの鍋を使っている」というような話を書いておられました。

正確には覚えていないのですが、けっこうな数のル・クルーゼだったと記憶しています(料理研究家の方だったから、なおさらたくさんだったと思う)が、それらを全部!あげちゃったの?と、当時すごくびっくりしたのでした。

鍋が重たいことに苦労して全部処分してしまうなんて、そんなもったいないことがあり得るんだろうか?と、信じられない、という気持ちだったのです。

それくらい、「歳を重ねる」というのは自分にとって縁遠いことで、いつまでも元気でいられるのだと無邪気に信じていたのでした。

時を経て、今。
その気持ちが、痛いほど分かる年齢になってきました。

確かに重い…料理をしているときはもちろん、洗い物をするときにこの重さがずっしりと身体にのしかかってくる気がします。

少し前に、とある方と鍋の話で盛り上がった際、その料理研究家の方の話をしたところ、「分かります!私ももう、あらかた処分しちゃった」とおっしゃっていました。

暮らしをどんどんシンプルに、自分が心地よくいられる方向へ、と考えていく過程で、その方は「重い鍋はいらない」という判断をされたのだなあ、と感慨深く感じました。

私はといえば…まだまだ、重たい鍋を「よっこらしょ」と言いながら持ち続けている日々です。

重いけど…すごく重いけど、でもやっぱり、煮物やカレーを作るときにはオレンジのル・クルーゼじゃないと気分が上がらないし、ジャムを作るときには紫のストウブじゃないとなんだか盛り上がらない。

夏、暑い盛りにナスやズッキーニ、トマトなどをこれでもか!と鍋いっぱいに入れて作るラタトゥイユは、オレンジの鍋じゃないと!と思ってしまうし、冬場、ストーブの上に乗せてあんこを炊いたりスープを作ったりするとき、重たい鍋じゃないとつまらないのです。

スタッフが「最近鍋が重くなってきたわ〜、そういえば料理研究家の人が鍋が重くなってきて手放してたよね」という話をしたときに、「私はまだ頑張れる!私はまだ重い鍋を使う!」と宣言したそうで(私はあんまり覚えていないのですが…)、そんな宣言するほどのことか?と思わないでもないのですが、裏を返せば「鍋がいかに自分の暮らしをかたちづくるうえで重要な位置を占めているか」ということをあらためて感じます。モノで気持ちが変わるというのは、あるんですよね…。

鍋で料理のテンションが変わるなんて、理解できないという方もいらっしゃるかもしれませんが、でも「分かる!」と思ってくださる方もきっと、多いんじゃないかなあ。

この、「気持ち」の部分で「重さ」を耐えることができているうちは、重い鍋を頑張って使っていきたいと思っています。

そして、いつか(といっても数年後かもしれませんが)「もう限界!もう持てない!」と思ったときには、重い鍋たちは我が娘たちにかわいがってもらえたら嬉しいなあと思うのですが…果たして、受け取ってもらえるでしょうか。

娘たちにも、少しは重い鍋を愛おしむ感性が備わっていてくれたらいいなあ、と思う日々です。

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