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同じ映画を5回観た人。

”スラムダンクの映画「THE FIRST SLAM DUNK」を、映画館で5回観ました。”

…と言うと、たいていの方が「5回も!!」と驚かれます。

私自身は「スラムダンクの映画良かったよね~」という渦の中にどっぷり浸かっており、そういう場所におられる方はほぼ皆さん複数回鑑賞されていて、中には10回、15回と繰り返し観ておられる方もいらっしゃるようなので、「5回観た」というのがどのあたりのレベルで「変わってる」のか、推し量れずにいたのですが…。

今日も久しぶりに会ったスタッフにその話をしたら、「観たか、観てないか、とかじゃなくて、何回観たか、っていうところなんですね…へえええ」と、目を丸くして心底びっくりされたので、ああこれはけっこう変わっているのかもしれない、と思い始めました。

映画館でもらう特典や、購入した本。

何年も前に「スラムダンク」のことをこのコラムで書いていて、映画が始まったくらいから徐々にアクセス数が増えていましたし、コラムで書いたからには映画も観て、その感想も書かないといけないのでは?みたいなことを冗談で話していたりもしたのですが、まさか5回観るとはね…。ふふ。

じゃあ「同じ映画をなぜ何度も観るのか」という点についてコラムで書いたら?とスタッフに言われてはいたのですが、どういうまとめ方をしたらいいのか分からなくて(思いが強すぎるのもある)、今までずるずると引きずっていました。

でも、自分の素直な思いを書けばよいのかな、と思い、今日の「時々、コラム。」は「なぜ私はスラムダンクの映画を5回観たのか」について語りたいと思います。

したがって、いつも書いているような「暮らし」「地域」「シビックプライド」的な話はいっさい出てきません…。非常に申し訳ないですが、たまにはこういうのもありかな、ということでお付き合いください。


前置きが長くなりましたが、今回の映画「THE FIRST SLAM DUNK」、上映が始まったのは昨年の12月3日でした。でも、私は当初この映画を観るつもりはなかったのです。
予告の映像を観て、キャラクターたちのCG特有のぬるっとした動きに「いやあ、思ってたのと違う…」と思ったのがその理由でした。

上映開始当初は賛否両論っぽかった映画の感想が、日が経つにつれてどんどん「賛」のほうが強くなり、じゃあちょっと1回観てみるかな…と思って映画館へ行ったのが12月14日。
初めて観たときには正直、そんなにハマらなかったです。
というか、いろんなことが一度に情報として入ってきて処理しきれず、「うむ、面白かった…気がする」みたいな感じでした。

きっと、この時点で「もう一度観る」という選択をしていなければ、1度きりの鑑賞で終わっていたと思います。たいていの方はそうなのではないでしょうか。

でも私は「もう一回観て答え合わせをしたいな」と思ってしまったのです。そして、1週間後に2回目を観終わったら、そこには底なしの沼があったのでした…。

映画館のそばにあるパネル。毎回撮ってしまいます。


そこから回数を重ねて5回観たわけですが(なんならあと2~3回は観たいと思っている)、それはなぜなのか。
極力ネタバレを避けつつ、理由を列挙してみたいと思います。


◎漫画が動いてる

映画を観た方が皆さんおっしゃる感想だと思いますが、「井上雄彦の漫画」がそのまま、動いていました。
今回の映画は原作者が自ら監督として指揮を執り、作画の本当に細かいところまで自ら筆を入れて指示をしています。
私は原作はもう何十回も読んでいるのですが、アニメ版はあまりに絵が原作と違うのと、動きが理想と違いすぎたのとで、早々に挫折してしまいました。言い換えれば、それだけ原作好き、ということです。

自宅にある漫画はスタッフ間で回し読みしました。

そして今回の映画は本当に、キャラクターひとりひとりがちゃんと息づいている、バスケをしている、というのが凄く伝わりました!ちょっと実写を見るくらいの勢いで、試合に熱中してしまいます。
予告映像で感じたCGの違和感は、音響の良さとハマり具合も手伝って、2回目以降はほぼ気になりませんでした。

「スラムダンク」には嫌いなキャラクターが一人もいない、というのは、何度も観続けていて思ったこと。レギュラーメンバーはもちろん、控え選手から応援席にいる人たちまで、どの登場人物にもそれぞれ感情移入できる描写があり、みんなを応援したくなるから、飽きないばかりか、解像度が上がっているのでむしろ思いが厚みを増していく感じがします。

推しは今も昔も三井寿。

そして、オープニングが恐ろしくカッコよくて、あれを見るだけでチケット代の元が取れる、といつも感じます。オープニングだけ無限ループで観たいくらい。
井上雄彦の絵が、そのまま(文字通りそのまま)動いています。凄いです。曲もいいです。マスクしてて良かった、と毎回思います(にやにやしてるので)。


◎試合の臨場感がありすぎる

これはもう公式でも発信されているのでネタバレには含まれないと思うのですが、今回の映画「THE FIRST SLAM DUNK」は、

1.インターハイ2回戦、神奈川県代表:湘北高校 VS 秋田県代表:山王工業高校の試合

2.原作では主役ではなかった湘北高校のPG(ポイントガード)宮城リョータの過去と、家族とのかかわり

の2つの軸で描かれています。

このうち、1はもう、はちゃめちゃに良いです。原作の山王工業戦を読んで痺れた、という人は、なるべく観たほうがいいと思う。
実際のバスケットボールプレイヤーを起用しての「モーションキャプチャー」という技術を用いて作画されているため、動きの一つ一つがちゃんとバスケット選手そのもので、それ以上でもそれ以下でもありません。稚拙な描写もなければ、人間離れした動きもない。日本の、タフな高校生たちの試合がそこにちゃんと実在している、という感じです。妥協せずに作られたのが伝わってくる。

特に、試合の相手である山王工業高校の選手たちがみんなエグい。無敗を誇り、鍛えられてきたトップオブトップの選手たち、という威厳と不気味さが十分すぎるほど描かれています。

実際の試合で見られる「ディフェンスの時に床をバーンと両手で叩いて気合を入れる」「バスケットシューズの裏を手で拭って滑るのを防ぐ」といったカッコいいアクションも映画オリジナルで入っていて、臨場感に花を添えています。

また、絵が動くので(当たり前ですが)、選手が周りを見渡してパスをする相手を探す際の目の細かな動き、あるいはその逆でノールックパスをした時の驚きなど、選手と一緒にコートにいるような気持ちになれて、何度観ていてもその都度新しい発見があります。

ご存じのとおり(?)湘北高校は山王工業に逆転勝ちでジャイアントキリングを成し遂げるわけですが、鑑賞の回数を重ねるごとに「なんでこんなチームに勝てるんだろう…強すぎん?」と思ってしまい、だからこそ勝利と敗北に分かれてしまうラストは、原作よりも胸に突き刺さります。何回観ても双方を応援したくなる。だから飽きないのです。

あと、若干のネタバレになるかもしれませんが、今回の映画では山王工業のスーパーエース・沢北が、そりゃあもう惚れ惚れするような攻めの男として描かれています。
原作では「すぐ泣くピョン」と言われているような弟キャラの側面もありましたが、映画にはその要素は一切ありません(泣くんですけどね…泣くんですけど…)。
「とにかく沢北の顔と声がいい」、これは断言します。


◎宮城リョータとバスケットボール

前述した物語の軸の2番目である「リョータの過去と家族とのかかわり」。
今回、宮城リョータは原作とはまったく違う表情を見せています。どちらかというと軽薄なイメージだった「リョ―ちん」は、映画の中ではとてつもなく重たいものを背負い、孤独で、生きづらさを感じている。正直、かなりハードです。
そんなリョータのそばに唯一いてくれたのが「バスケ」でした。

映画の中に「バスケだけが、生きる支えだった」というセリフがあるのですが、おおげさではなく本当に、ボールだけを抱え、よりどころにしていたんだろうな…という描かれ方をしています。
そんな彼を一度は救い、時にまたバスケを奪おうとし、そして最後にはやはりバスケを通して呪いを解いてくれたのが、湘北高校のメンバーなのでした。

映画のストーリーとして「1:試合」「2:リョータの生きざま」が並行して描かれているのですが、「試合だけ見させてほしかった」という声もあります。
でも、やはり2つが同時進行で描かれなければ、リョータがひとりの高校生として、高校生らしく生き生きと、仲間を信頼してバスケをする、という描写はできなかったんじゃないかな、というのが、5回観終わった後の感想でした。

もちろん試合は白熱して面白いのですが、リョータの中でもある意味因縁だった「山王戦」を戦ううちに、彼の中の呪いが昇華していく、というのも、描き方としては良かったんじゃないかな、というか、昇華させてあげたいなという気持ちになります。

このあたりの微妙な心の動きは観るたびに解釈が変わったり、「ああでもこういう考え方もあるのかも…」と思ったりして、今でも100%の答えは出ていないのですが、それも含めてリョータの辛さを私も一緒に受け止めてやるぞ!という意気込みで、毎回鑑賞しています。

そして今回、リョータの視点から山王工業・沢北を評価するシーンがいくつか描かれているのですが、同い年のこの2人の対比も、原作にはないもので興味深かったです。

バスケットボールに理解のありすぎる家庭と、彼の才能を伸ばしてくれる指導者、そして高みを目指せる仲間たちに恵まれて、17年間バスケのことだけを考えていた沢北に対し、孤独と不安を抱え、知らない土地で欠けたピースをバスケで必死に埋めようとしていたリョータ。
こんな気持ちで2人を見ることになるとは…という気持ちになりますが、これも映画を何度も観たくなるひとつの理由かもしれません。
映画のラストには(意外な)サプライズもあります。

◎井上雄彦先生が描きたかったもの

今回の映画の製作過程や作画の方法について細かく書かれた「THE FIRST SLAM DUNK re:SOURCE」という本が出版されています。

見どころたくさんの1冊。

その中に原作・脚本・監督をすべて手掛けた井上雄彦先生のインタビューが掲載されています。
これだけでも読む価値がある!と思うのですが、インタビューの中で先生が

一人一人が一歩でいいから前に出ることで変われることを描きたかったんだ

弱い者や傷ついたものがそれでも前に出る。痛みを乗り越え、一歩を踏み出す。これが今回の映画のテーマだと。

THE FIRST SLAM DUNK re:SOURCE

とおっしゃっています。

強い相手に戦いを挑む。
自分には何があるのか(あるいは、何がないのか)を考え、試合の中で答えを出していく。
一人では勝てない相手でも、5人なら(そして、ベンチや応援席にいる仲間がいれば)立ち向かえる。
そして、勝者にも敗者にも、得るものがある。

映画では、これらの純粋なスポーツ選手としての誇りや、賭ける思いが、リョータ目線でまっすぐに描かれていました。

「チームのために」という言葉があまり似合わない湘北高校。
でも、原作の主人公である桜木花道が、敵を「王者・山王」というチームにさだめ、「チームのために戦う」という意志を最初から最後まで貫いてます。
あんなに破天荒で集団行動ができなさそうな花道が、チームプレーに徹し、身体を張って戦う姿に、スラムダンクの面白さや楽しさといったおもての部分を剥いだところにある「本当の魅力」を感じるのです。ああ、生き生きして戦っている高校生は、みな本当に美しいなあ、と思うのです。

誰もがいろいろあるけれど、チームのために一生懸命、頑張ろう。そんな単純明快なまっすぐさが、映画の中でもしっかりと表現されていました。


…ネタバレを極力避けるとこれくらいのことしか説明できないのですが(本当はもっと言いたいことはあるのですが!もっと言いたいのですが!)、映画の中にまったく異なる2つのストーリーの軸があるということが、試合の臨場感と、観るたびに考えさせられる人と人との交わりの妙、みたいなのをうまく描いていて、それにハマっているのかなあ、というのが自分なりの考察です。

そしてやっぱり、山王工業戦は面白い!元気をもらえます。

井上雄彦先生は作品への思いがとても強い方で、電子書籍化していないのも先生のご意向だ、という話があります。
だとしたらもしかして、DVD発売や配信、テレビ放送なども、ないのかもしれない。
そう思うと、大きなスクリーンで目に焼き付けておきたい!という気持ちがさらに増してきます。映画の全般を通して、音楽や効果音などもすごくいいのですよ~。

迷っていらっしゃる方がおられたら、ぜひスクリーンで。
そして、もしシマシマしまねにいらっしゃることがあれば、感想をぜひ、聞かせていただきたいです!語りましょう〜!

ちなみに今、映画の公式グッズ第2弾が販売中でして、B2サイズのポスターを購入しました!
到着はまだまだ先の予定なのですが、待ちきれずにとりあえずポスターを飾るフレームを購入してしまい、先に届いたフレームだけが今、寂しくリビングに飾られています。

本当は山王工業のTシャツも欲しいのだけど、届くのが5月下旬以降らしく…。
果たしてその頃まで私の「スラムダンク熱」が持続しているのか不安なので、Tシャツはやめておきます…。欲しいけど…。

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