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読書記録:古波蔵保好『料理沖縄物語』

沖縄旅行の前に知識をば、と思って本を探していたときに目に止まったのが古波蔵保好『料理沖縄物語』(講談社文庫)だった。食いしん坊にとって旅行とは美味しいものを食べるためにある。沖縄料理は有名なものなら一通り食べたことがあったが、現地で食べるのは初めてだ。何か『現地ならではのもの』を見つけるにはピッタリのエッセイだろう。

この本は1910年(明治43年)に首里で生まれた著者が戦前戦後の沖縄料理についてつづったエッセイだ。子供時代、母が家で作っていたという料理についての記述が多い。婚礼やお盆、お葬式などの特別な日の料理についても興味深く、また戦後に人々の営みが変わったことによる料理の変化も知ることができる。

読み始めたものの時間がとれずに3割程を読んで出かけ、1割程を現地で読み、残りを帰ってきてからじっくり読んだ。

旅行前に得ていた知識のおかげで食べることが出来たのはムーチーだ。

ムーチーは月桃の葉に包んである

初日、国際通りからアーケード街に入ったところに和菓子屋のようなお店があった。ホテルに向かう前にお菓子を買っておこうかと覗くと、見慣れた大福や饅頭の間にちょこちょこと見たことがないお菓子がある。そして店員さんの目の前には得体のしれない、葉っぱに包まれた何かが大量に詰まれていた。ムーチー、黒糖ムーチー、紅芋ムーチーと書いてある。なるほどこれが本に書いてあったお餅か。柏餅のようなイメージをしていたが、ぴっちりと葉っぱに包まれているのか。

黒糖ムーチーをひとつ買って(夫は普通のチョコ饅頭を買った)翌日の朝ごはんにした。葉っぱは月桃という植物のもので爽やかな香り、甘いミントとジャスミンの間ような。しかし中にどんなお餅が入っているのかわからない。包まれた状態の写真を撮って、葉っぱを開いてからまた撮ろうと思ったら開くうちに指が餅まみれになって面倒になり、そのままムチャムチャと食べてしまった。なるほど、口に入れると月桃の香りが鼻を抜けていってそれがたまらなく美味しい。初めて嗅ぐ匂いなのに嫌な感じはまったくないのも不思議だ。甘みが無いのは不安で黒糖味を買ったが、シンプルなムーチーも食べてみたかった。筆者は砂糖が入っていないのが好きと書いていたし。本来は冬の食べ物らしいけれど、夏でも売っていて良かったなぁ、などと考えているうちに食べてしまった。結構な大きさなのにペロリだった。

旅行前にホテルの周辺のごはん処を探しているとき、海に囲まれているのに魚料理のお店が少ないのが不思議だったが、その理由も本に書いてあり、納得して肉ばかり食べた。南国のお魚は脂が少なくパサパサしているらしい。なるほどそれで『いまいゆ』はバター焼きにされてしまうのか。海なし県育ちなので海のそばでは新鮮な生魚が食べられると思い込んでいたが、改めなければいけない。

帰ってきてから読んで面白かったのは油味噌について。沖縄の言葉でアンダンスー。ご飯のお供、常備菜で一度茹でた豚肉を角切りにして脂が出るまで炒めたあと味噌などを合わせて作るらしい。沖縄料理の旨味やコクは豚の脂、ラードに依るところが大きく、今回の旅行では食べなかったがチャンプルーもラードで炒めて作ると言う。私が適当に作るゴーヤチャンプルーは『これで合ってるのか?』と不安になるさっぱりした仕上がりになってしまうが、サラダ油で炒めている時点で違うわけだ。アンダンスーも食べて見たかったなぁ、食べるチャンスはどこであっただろうかと思い巡らしていたら、私、知らずに食べてた!

ファミマで買ったポーク玉子おにぎり

並んでいるもののなかでいちばん味の想像ができないものを買う習性が功を奏していた。甘めの味噌がスパムの塩分とちょうど良く、ポーク玉子おにぎりの正解はこれじゃん!って小躍りしながら食べてた。ちなみに夫は安定の『ダブル玉子』。

やり残したことも見つかった。沖縄そばは戦前、各家庭で作られていた料理で、かまどの灰を水につけておいてできる灰汁を使って麺を打つのが本来の味だという。戦後、中華麺と同じように『かんすい』で作られるようになり全く違う料理になってしまったと筆者は言う。なるほど、沖縄そばは出汁や具材に特徴があるものとばかり思っていた。調べてみると『木灰そば』と称してゆいレール沿いに食べさせてくれるお店がありそうだ。次回の沖縄旅行では絶対行こう、そうしよう。

のんびりと海を眺める時間の多かった旅行だったが、この本のおかげで食事は面白い経験もできたし、知識も深まった。ガイドブック代わりにオススメしたい1冊だ。しかし旅行を計画していないのに読むと、沖縄に行きたくなってしまうので注意が必要かもしれない。


最終日に食べた普通の中華料理も
それはそれで美味しかった


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