映画『茶飲友達』から感じた“新しい当たり前”

2023年5月13日 15:36

少し前に『茶飲友達』という映画が隠れたヒットになっていることを知りました。

妻に先立たれ孤独に暮らす男、時岡茂雄（渡辺哲）がある日ふと目にしたのは、新聞の三行広告に小さく書かれた「茶飲友達、募集」の文字。

その正体は、高齢者専門の売春クラブ「茶飲友達（ティー・フレンド）」だった。運営するのは、代表の佐々木マナ（岡本玲）とごく普通の若者たち。

彼らは65歳以上の「ティー・ガールズ」と名付けられたコールガールたちに仕事を斡旋し、ホテルへの送迎と集金を繰り返すビジネスを行なっていた。

マナはともに働くティー・ガールズや若者たちを “ファミリー”と呼び、それぞれ孤独や寂しさを抱えて生きる彼らにとって大事な存在となっていた。
ある日、一本の電話が鳴る。

それは高齢者施設に住む老人から「茶飲友達が欲しい」という救いを求める連絡であったー。

http://teafriend.jp/

予告編を見て、すぐに近くの劇場を調べて、甲府の小さな劇場へ。

高齢者売春を入口にして、若者たちとの“ファミリー”をつくる。
そんな関係が描かれているのかと思ったら、
ものすごく多様なテーマが隠されていて
映画を見終わったあと
しばらく放心状態でした。

2013年10月に実際に起きた事件から着想を得て、高齢者売春の会員数が1000人以上いたことと、新聞に「茶飲み友達、募集」の3行広告を載せたこと以外は、外山監督のオリジナルの物語になっています。実際の事件の首謀者は70歳で、会員は男性が平均年齢65歳前後、売春していた女性の中には82歳の女性もいたそうです。

摘発事件を知った外山監督は
「摘発後の高齢者会員の孤独に想いを馳せた」と話しています。

あらためて“かぞく”の意味を考えさせられ、
承認欲求や孤独との向き合い方など、
かなり深いテーマでした。

自分自身、
全国に“かぞく”をつくりたいと思っていて、
そのベースに考えているものが、
ほとんど網羅されていました。

・家族の定義
・性のタブー視
・お金がいる社会
・居場所づくり
・独居老人
・万引き
・ギャンブル依存
・自殺願望
・若者の居場所探し
・不倫で妊娠
・シングルマザーの境遇
・自分の孤独と他人の孤独

本当に茶飲み友達を見つけるための
サークルだったら？
売春斡旋ではなく、自由恋愛だったら？
金銭のやりとりがあったとして
それは個人間の自由なものだったら？
孤独を支え合う関係性を地域で作れないの？

主人公のマナは言います。

「正しいことだけが幸せじゃない」
「新しい当たり前を作っていこうね」

摘発後の取り調べで、
高齢者施設でサービスしていたため
利用者が退所させられることを知った
マナはこう言ってます。

みんな帰るところがなくなる。
悪いことはしてないじゃん。
ルールだからって、
そういうのから落ちる人がいる。
だから誰も幸せそうじゃない。
みんな寂しいんだよ。
ひとりぼっちなんだよ。
正しいことだけが幸せじゃないでしょ！

性をタブー視して
見えないように、
話さないようにしている人たちが
ほとんどだと思います。

最近
『あなたがしてくれなくても』
というセックスレスをテーマにしたコミックが
ドラマ化されて話題になっていますね。

性＝心から生きること

70代以上の男性の80%は性欲があって
異性とのスキンシップを求めているそうです。

スキンシップの元々の始まりは、
生まれたばかりの赤ん坊の体温が
低下しないようにする、
生命維持のためでした（身体レベル）。
それが安心感や心地よさを
感じるようになり（情動レベル）、
愛情や信頼へと
繋がってきたのです（認知レベル）。

つまり逆に、
スキンシップがなくなっていくと
生命活動そのものが
危険にさらされてしまうともいえます。

映画では独居老人の孤独が描かれ、
ティー・ガールズになる女性も
孤独や絶望感から
何か変化を求めていました。

万引きを繰り返し、
自殺未遂を図った女性は
こんなことを話していました。

「希望を持ちたかった。
　だから死にたくなった。
　だまされても、
　利用されても
　何もないよりよかった」

不倫相手の子どもを妊娠した女性は
ひとりで産むことを決意します。
両親がいなくて
目標が何もなかった人生で
やっと自分と繋がりができた赤ちゃん。
けれども
シングルマザーで育てることに対する
世間の冷たい視線や
福祉の補助の少なさ、
生活保護を求める安易さなど
ここでも“母”としての孤独が描かれています。

その一方で、
パチンコ依存症のティー・ガールズは
生活保護をもらうほど
おちぶれていないと強がります。

パン屋を閉業した父親と
ティー・ガールズのスタッフをしている息子。

主人公マナと
病気の母との関係。

老人ホームに入居した男性と
一度も訪ねてこない息子の関係。

介護していたときは疲れていたけど
終わってからのほうが
もっと辛いことを知らなかったという女性。

“かぞく”の関係と
それぞれの孤独が
たくさんの糸で絡み合っていました。