【中編】「やらないことを決めてから始める」:テスラの「選択と集中」戦略
「あれも、これも」となって仕事の効率が下がったことはないでしょうか?
あるいは、優先順位を付ける際、どれも「高」となってしまったことはないでしょうか?
そんな時、大事なのは「やらないことを決める」ことです。
それは、個人も企業も同じこと。
テスラを見ていく前に、「選択と集中」が必要になってしまったAppleの失敗事例を見てみましょう。
かつて、Appleもジョン・スカリー(※1)による経営体制のもと、商品の多角化により、利益が低迷する時代が発生しました。
スカリーの失敗後、スピンドラーやアメリオといったCEOがAppleを引き継ぐも、復活の兆しが見えない状況が続くことに。
傾くAppleに出戻ったスティーブ・ジョブズは、商品ラインナップの「選択と集中」を行いました。
今では考えられませんが、当時のAppleは、プリンター、サーバー、モニター、デジタルカメラ、アプリケーションソフトウェア、各種アクセサリといった多角化をしていました。
ジョブズは、「コンピュータ」と「OS」というコア事業だけを残し、それ以外の事業からは撤退しました。
こうして資金的・人的なリソースを確保し、新たな製品に乗り出します。
それが、音楽の聴き方・買い方を変えた「iPod」であり、ケータイを手のひらサイズのコンピューターへと刷新した「iPhone」でした。
こうして、選択と集中をすることで、ヒット商品を一つずつ世に出して行ったのです。
「選択と集中」が必要になるのは、Appleのように事業が成熟してから起こりますが、その頃には、広く製品やサービスが展開され顧客が付いている状態。
企業側の都合で次期製品が打ち切られ、故障時の部品ストックも短くされれば、ユーザーとしては企業ロイヤリティ(企業への忠誠度)が当然下がります。
つまり、「選択と集中」は聞こえはいいのですが、顧客体験の観点から見ると、既存顧客の信頼を犠牲にして行われます。
テスラは、こうなる前に先手を打ち、最初から「選択と集中」のロードマップとなる製品展開の戦略を立てました。
それが、前編の『テスラが年間100万台を出荷するまでの戦略と戦術:テスラのPurpose経営』で解説した下記のピラミッドです。
しかし、この「選択と集中」が折り込まれた戦略を実行するための戦術レベルでもテスラは「選択と集中」を怠らず、常識破りの事業の始め方をしました。
この記事では、初期テスラの戦術面での「選択と集中」が、軽井沢発で全国展開している星野リゾートの戦術と類似していることに触れながら説明し、テスラがトヨタの時価総額の4倍にまで至る地位を獲得した周到さを解説していきます。
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