第九章 腕輪を受け継ぎし者と集いし兄弟達2

「栄人、いきなり声をかけたから皆さんビックリされているようだよ」

「おっと、それは失礼した。……何やら困っているようだったからな、つい声をかけてしまったんだ。それで、お前達こんなところに座り込んで何をしているんだ」

男性の言葉に少年が子供とは思えない口調でそう言って尋ねる。

「えっと、この近くの集落を探して歩き通していたのですが、疲れてしまってここで少し休憩していたんです」

「集落……ふふ、なるほど。あ、いえ。笑ってしまってすみません。ですがその集落はそう簡単には辿り着けませんよ。なぜならそこに行くには結界を解かねばならないので」

「結界?」

神子の言葉に男性がおかしそうに笑ったので皆して彼の顔を見詰める。それに気づいた男性が微笑み答えた。その言葉に信乃が不思議そうに首をかしげる。

「はい。もしよろしければその集落までご案内します」

「それはありがたい。頼めるか」

男性の言葉に隼人が頼むと彼はにこりと微笑む。

「分かりました。ぼくは真人。こちらはぼくの弟の栄人です」

「よろしく。それで、ずっと気になっていたんだが、もしや貴女が今世間を騒がせている神子様ではございませんか」

真人と名乗った男性の言葉に従い軽く会釈すると栄人がそう言って神子をまじまじと見つめた。

「は、はい。そうです。私が神子です」

「やはりそうか。……貴女にお会いできる日をずっと夢に見ておりました。真人、ようやく俺の夢がかなったぞ」

「栄人は昔から神子様の旅に同行することを夢見てたからね。ようやく願いが叶ってよかったね」

彼女はまじまじと見られて恥ずかしがりながら返事をするとそれを聞いて嬉しそうに栄人が笑う。

真人が良かったねと言って微笑むと皆不思議そうに兄弟を見やった。

「神子の旅に同行することが夢って、なんでまたそんな夢を?」

「俺のご先祖様が瑠璃王国の姫さんと共に旅をして世界を救ったように、俺もまた神子様を助け世界を救いたいと思ったからだ」

弥三郎の問いかけに彼が誇らしげな顔で答える。

「先祖って……まさかあんた達の先祖って」

「真人~遅い~」

「栄人~遅い~」

レインが何かに気付いて口を開いた時少年と少女の声が聞こえてきて二人の人影が真人と栄人に突っ込んでくる。

「あいかわらず……いきなり突っ込んでくる癖は治らないみたいだね」

「だって、だって、真人の事大好きなんだも~ん」

抱きつかれた反動でよろけながらも突っ込んできた少年をしっかりと受け止めた真人は優しい口調でそう話す。それに少年が頬擦りしながら嬉しそうに答えた。

「その程度受け止められないとでも思ったか? 武士である俺をなめてもらっては困る」

「ぐぬぬ……今日は上手く行くと思ったのに」

一方栄人へと向かって突っ込んでいった少女の右手首をしっかりと掴み攻撃を防いだ彼がにやりと笑い言うと彼女は不貞腐れた顔で愚痴る。

穏やかな光景と火花を散らし合うという対極の様子に神子達は如何したものかと戸惑う。

「それよりお客様だよ。二人ともちゃんと挨拶して」

「うん、ボクはケイト。神子様達に会える日を首をなが~くして待ってたんだ」

「ワタシはケイコ。神子様達に会える日が来るのを何百年もの間待ち続けてたんだからね」

真人の言葉に双子の様にそっくりな少年と少女がにこりと笑い自己紹介する。

「えっと、どういう意味ですか?」

「話は部屋の中で、お茶でも飲みながらゆっくりしよう」

疑問符を浮かべる神子へと真人がそう提案して近くの建物の中へと入っていった。

「まずはこの集落についてだけど、この集落は邪神に見つからないように結界がはってあるんだ」

「邪神に……」

部屋の中へと入りお茶を飲み一服つくと真剣な顔になった真人がそう口を開き語りだす。その言葉に伸介が邪神が絡んでいることに目を鋭くする。

「そう。この集落にはかつて瑠璃王国に仕えていた人が身を隠しているんだ。だから邪神に見つからないように結界がはってあり、結界の中へ入る為にはある手順を踏まねば入れないようになってるんだ」

「手順とは?」

「ここに来る途中にお地蔵様が点々と並んであっただろう。その地蔵の中心つまり葦原の中に入り右足で地面を三回叩く。それをしなければ結界の中にはいれず、ずっと同じ場所を彷徨い続けることになるんだ」

彼の言葉に亜人が怪訝に思い尋ねた。それに栄人が答えると皆ずっと同じ場所をぐるぐるしていたように感じたのは間違いではなかったのだと納得して頷く。

「それでさっきあんた達の先祖がどうのって言ってたけど、まさかあんた達の先祖も聖女伝説の幕開けを作った瑠璃王国の人達の末裔の誰かなのか?」

「ぼく達の先祖はかつて瑠璃王国の姫様と共にこの世界を救った神々や精霊に愛されし聖女。麗奈様です」

伸介の問いかけに真人が答えると皆驚いて目を見開く。

「それじゃあ貴方達が腕輪を持ちし者の末裔ってこと」

「ああ、そうだ。だが残念ながら俺も真人も腕輪を継承できなかった」

「そうして腕輪を継承できなかったぼくは人形使いとなり、栄人はこの集落を守る武士としてここで働いているんだ」

喜一の言葉に栄人がそうだと頷くも残念そうな顔をして答える。真人も続けて説明した。

「このケイトとケイコはからくり人形で、先祖代々受け継がれてきた。そう麗奈様が生きていた時代からずっとね」

「だから貴方達にあった時に何千年もの間会える日を待ち続けていたって言ったのよ」

「神子様達を見てすぐにピンと来たよ。ああ、この人達がボク達が長い年月待ち続けていた本当の意味での聖女伝説を終結させる英雄達なんだって」

彼が横に座るケイトとケイコへと視線を向けて説明すると二人がにこりと笑い話す。

「ちょっと待って。あんたたち二人が腕輪を継承できなかったなら一体誰が今腕輪を持っているの。まさか誰も継承できなかったなんて言わないわよね」

「アレクみたいに頭が切れるんだね。流石はアレクの血をひいてるだけはある。大丈夫だよ。安心してちゃんと腕輪は継承されたから」

レインが話を聞いて不安に思いそう尋ねるとケイトがにこりと笑い説明する。

「はい。その通りです。光の女神さんご心配には及びませんよ。僕がちゃんとこうして先祖代々受け継がれてきた腕輪を継承いたしましたので」

『!?』

その時扉が開かれそこから現れた新たな人物が穏やかな口調でそう話した。いきなり人が現れた事に神子達は驚きそちらを凝視する。


基本長編か短編の小説を掲載予定です。連続小説の場合ほぼ毎日夜の更新となります。短編の場合は一日一話となります。 連続小説などは毎日投稿していきますが私事情でPC触れない日は更新停止する可能性ありますご了承ください。 基本は見る専門ですので気が向いたら投稿する感じですかね?