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ゲイカップルやLoving判決とニッポン

職場でゲイカップルに出会ったのは約25年前のことでした。東京のアメリカ大使館に勤務していた時に初めてゲイを公言した外交官が、ヨーロッパ人のパートナーと赴任してきました。年齢は私と同じで、当時30歳になるかならないかの人でした。

男女間の恋愛が「当たり前」

2000年になったばかりの東京のアメリカ大使館では斬新な出来事でした。まだ米軍でも「Don't Ask Don't Tell 聞かざる言わざる」政策 (1994年-2011年)を取っていました。軍隊で同性愛を禁じるでも認めるでもないとしつつ、同性愛者の軍人の存在を黙認していた頃です。国務省やアメリカ大使館でも、それまで聞かざる言わざるの雰囲気でした。

そこに、女性陣がため息をつくようなゲイカップルが登場したのです。おかげで長らく私はゲイカップルというのは、お洒落でセンスが良くて教育レベルが高いという思い込み(アンコンシャス・バイアス)がありました。彼らは、「うちの母親もそう思っているからそう思わせている I let her think that」と笑っていました。

性的嗜好は自分で選ぶもの?

性的嗜好とはなんでしょうか。アメリカ人の友人が3歳の時「この子は同性愛者だ」と自分の母親が気がついたと言います。同性愛が一般的でない1970年代の話です。アメリカの保守キリスト教系の人は、同性への恋愛感情を個人が自ら選んだものと見なします。そのため、同性愛から異性愛へ戻す矯正プログラムさえ存在します。しかし、この友人の母親が気づいた通り、本人の意思と関係なく、生まれ持った性的嗜好だという考え方が一般的です。

性的嗜好は人権問題として扱われ、米国では2015年に同性婚が合憲であるという最高裁判決(Obergefell v. Hodges)も下されました。今や全米の全50州が法的な同性婚を認めています。アメリカでもまだ合法化から十年経っていないのですね。

親へのカミングアウト

幼い頃からゲイを自認していたアメリカ人男性のボーイフレンドは、同年代の日本の人でした。友人と付き合って1年経っても、友人の存在をご自身の親御さんに言えないでいました。
どのタイミングでどう報告したのか知りませんが、気がつけばFacebookでボーイフレンドのお母様と仲睦まじく写っている投稿がありました。

両親がアメリカ人の場合でも、カミングアウトするまで長いこと悩み抜いた友人がいます。30代女性の友人が、最近女性の伴侶を見つけて一緒に住み始めました。それまでは、男性とお付き合いをしてきたけれど、ピンとくる人が現れず、長くシングルでした。その女性は昔、「少なくともゲイではないからよかった At least you are not gay.」と両親に言われた記憶を引きずっていました。一念発起して、両親にパートナーの事を報告すると、あっけなく娘のこともその彼女のことも受け入れてくれたとのことでした。

異性愛者と非異性愛者

2015年のワシントン州立大学の研究発表によると、アメリカ人男女3万3千人を調査したところ、男性の3%と女性の2.7%が非異性愛者だとしています。

以前は、完全なる異性愛者と同性愛者はいない、濃淡がある、とされてきました。1948年に発表されたキンゼイ博士のキンゼイスケールがゲイコミュニティで広く知られていました。

キンゼイスケールは、発表当時は欧米に存在するホモフォビアという、同性愛者を忌み嫌う傾向を軽減するのに画期的だったが、現状に即していない部分がある、と2015年の研究結果では述べられています。

日本での自分の認識

1990年代前半に、女性と付き合っている、と打ち明けてくれた日本の女性の友人がいました。普段は「彼氏」の話をしているけど、本当は女性である、と。ゲイの人の存在は知っていても、男女間の恋愛が「普通」で「当たり前」だと無意識に思っていました。

アメリカ大使館勤務時に、米政府の人権報告書の調査の一環で、日本の同性愛者の団体に話を聞いたことがあります。日本では、欧米諸国と違って同性愛者であることで身体的危害を加えられることはなくても、「存在しない者」として扱われることが辛い、と学びました。

「普通の人」

上述の友人の男性同性カップルと、アメリカ人の夫とを十数年前に初めて引き合わせました。夫は保守的な南部出身でカソリック教徒として育ち、職場は完全な男社会です。夫はよくゲイの人に声をかけられることもあり、ゲイカップルとの初ブランチに戦々恐々としていました。

和やかに自己紹介した後に各々ビュッフェに食事をとりに立ち上がりました。夫は私に「『普通の人』なんだね They are normal people!」と耳打ちしました。当たり前じゃないか、と目を丸くする私に、先入観があったが自分の周りの男性と違いは感じない、と言いたかったと説明されました。

彼らとは数年に一度世界のどこかで会う長い付き合いとなり、夫は友人に「トランスジェンダーの権利についてどう思う?」とまで聞けるような間柄となりました。私も彼らに、ゲイである子供達の自殺率の高さ、法的な婚姻がなぜ重要か、ゲイカップルの日常など色々教わりました。

同性愛は尊重するけど結婚式には出ない

女性の伴侶を見つけた女性の友人と、わが夫も、リベラルと保守で異なる意見を交わし分かり合う仲です。友人は、結婚式を挙げることになったら私と夫に出て欲しいけど、夫が出席しないとのであればそれはそれで尊重する、と私に言います。夫も友人が伴侶を見つけたことを心から祝福しつつも、同性婚の結婚式には出席しないと思う、とのことです。まだ日取りの話にもなっていないので、どうするかはいざ招待状が届いてから考えます。

法律婚でないと不便なこと

2024年現在、35カ国で同性婚が認められています。日本では同性婚は合法ではありません。2022年現在147の自治体でパートナーシップ制度が導入されています(内閣府男女共同参画局)。

アメリカ人の夫と私は、60年弱前に出会っていたら、異人種間混交ということで夫の出身州では交際そのものが違法でした。1967年の最高裁判決(Loving v. Virginia)によって、反異人種間混交法が違憲とされたのです。
このラヴィング判決が同性婚への道筋を開いたとされています。

国籍と出身国が夫と私とで違う我が家では、法的な婚姻関係が結べないと、配偶者としてお互いの国に合法的に長期滞在することは難しいです。当時日本の外交官だった私は、自分の赴任地を夫の居住地に近づけるには法的に結婚していないと説得材料に欠けました。法的な婚姻関係にないと、お互いの国で扶養家族として健康保険に入れません。入院時の手続きや面会ができないかもしれません

1996年までは、外国籍の人と結婚して外務省での仕事を続けるには、配偶者は日本に国籍を帰化する必要がありました。今では、公務員同士であってもお互いの国籍が維持できます。国際結婚で内縁関係というのは難しく、当然に法律婚を選びました。異性婚なので、法律婚への障壁は無かったです。しかし、相手が同性であったらそう簡単にはいきませんでした。

同性婚が認められない日本での課題

前述の女性の友人は、現在海外旅行先を検討中です。同性関係が法律で禁じられていない国、非異性愛者に身の危険がない国、という観点で旅行先を探すそうです。日本では危害が及ぶことはありません。短期旅行者であれば、非異性愛者であることで拘留される心配もありません。

高度な労働力を求めている日本で、勤務するとなるとどうでしょう。高度外国人材労働力のパートナーには滞在許可や福利厚生面で抜け穴が用意されているのでしょうか?

少子化が問題となっていますが、子供が欲しい同性カップルが婚姻関係なしに子供を世に送り出せる整備はあるのでしょうか。非摘出子としてパートナーシップ制度のもとに内縁関係にある親に育てられるのでしょうか。

ニッポンで「普通の人」への法整備が整うのはいつになるでしょう。


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