【無料解説】旧敵国条項は死文化しています。という出オチ記事|政治初心者の教科書
出オチ
保守派が防衛費の増額や防衛力の強化を訴えた際、リベラル・左翼と呼ばれる層から「敵国条項」を挙げての反対論が出る。
昨今は日本国憲法の改正が過去最大に話題となっているが、これに関しても同様に「敵国条項」を挙げて否定的な論を展開する者がある。
「敵国条項」とは、国連憲章に於ける「第二次世界大戦に於ける敵国(日独伊等の枢軸国)が侵略政策の再現を試みた場合に軍事的制裁を課すことが容認される」という決まりを言う。
リベラル・左翼は之を根拠に「防衛費の増額や防衛力の強化は侵略の為の再武装と捉えられるから、実行すれば軍事的制裁を受ける」と主張し、国連憲章には実際に敵国条項が存在する為、不安を覚える方も少なくないことだろう。
体感として之を主張するのはれいわ新選組の支持者に多い気がするのだが、実際に、れいわ新選組のホームページには以下の文がある。
"日本は国連憲章の「敵国条項」によって、敵基地攻撃能力や核配備など重武装は不可能です" とあるが、岸田文雄政権が安保三文書の改定に依り「反撃能力(敵基地攻撃能力)」を保有すると決定(2022年12月16日)して以降、我が国は何れかの国から軍事的制裁を受けただろうか。
此の時点でれいわ新選組・山本太郎代表の主張が破綻していることは明白である。
以上、出オチ記事である。「敵国条項」は意味を為していない。
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※本記事は以下の記事を読んで書く事を決めた。
上記記事では簡潔に敵国条項の死文化が解説されている。
由って、「実際の決議内容等には興味がなく簡単に理解したい」という方には上記記事をお読みいただければ幸いだ(其の前に本記事のスキ(♡)を押していただけると嬉しい)。
本記事では読者の理論武装を可能とすべく、実際の決議内容等を御紹介しながら進めたいと思う。其の為に少し長くなるが、お付き合いをいただけると嬉しい。
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敵国条項とは
此処からは、「敵国条項」について詳しく解説しようと思う。
「敵国条項」とは、国連憲章の第53条、第77条、第107条を指す。
国連憲章第53条
国連憲章第77条
国連憲章第107条
上記は何れも「国連憲章テキスト|国際連合広報センター(https://www.unic.or.jp/info/un/charter/text_japanese/)」から引用している。
敵国条項の内容
第53条第2項「本条1で用いる敵国という語は、第二次世界戦争中にこの憲章のいずれかの署名国の敵国であった国に適用される」が指す国は、日本、ドイツ、イタリア、 ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、フィンランドの7ヶ国であると我が国政府は認識している(外務省が掲載する「日本と国連」(2001年7月)を参考)。
第53条第1項の前段では、国際連合安全保障理事会の許可なく強制行動を執ることを禁じている。然し、後段に於いて、敵国(枢軸国)が戦争により確定した事項(第107条)を反故にして侵略政策の再現を試みた場合は、此の限りでないと定める。
第107条が言う「この敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極」とは、"れいわ山本代表が主張する「旧敵国条項があるから反撃能力を持つことはできない」は本当か(田上嘉一)" に拠れば以下の通り。
此れ等の条約は全て失効しており、国連憲章53条1項後段に基づいて敵国条項が発動される条約は既に存在しないのである。
第77条は信託統治(国際連合の信託を受けた国が非独立地域を統治する制度)に関する条文であり、其の対象として「第二次世界戦争の結果として敵国から分離される地域」を挙げている。
第107条は「第17章 安全保障の過渡的規定」に存在し、敵国(枢軸国)が戦争の結果として受け入れたこと(占領政策等)は国連憲章に優先する旨を定めている。
国際連合が恰も世界平和の為の中立機関として設立されたかのように考えている者も少なくないが、此の規定を見れば解る通り出発点は単なる戦勝国連合であり、現在の姿は之に敗戦国や其の他の国が加盟しただけに過ぎない。
第107条の「責任を負う政府」については名指しがされておらず対象が不明確であるが、一般に米英仏ソ中(ソビエト連邦の継承国はロシア連邦、中華民国の継承国は中華人民共和国)を中心とする連合国(戦勝国)であると解されている。
死文化
我が国に於いては敗戦後暫くして「敵国条項」を問題視する声が挙がり始めていたが、ソビエト連邦が中華人民共和国の中国代表権の承認を盾に取り国連憲章の再審議に反対していた為に撤廃は叶わず(中華人民共和国の中国代表権承認及び中華民国政府の追放が採択されたのは1971/10/25)。
平成2年2月27日 米大使あて
具体的に事が動いたのは1990年のことである。我が国政府がアメリカ政府に対し、米大統領から敵国条項削除を提起するよう打診したのだ。此れは「平成2年2月27日 米大使あて外務大臣発 日米首脳会談(旧敵国条項問題等)」に記されている。
日ソ共同声明
其の後、1991年の日ソ共同声明の18に於いては、"双方は、国際連合憲章における「旧敵国」条項がもはやその意味を失っていることを確認する" と明記された(https://www8.cao.go.jp/hoppo/shiryou/pdf/gaikou35.pdf)。
国際連合総会決議 A/50/52
そして1995年、国連総会に於いて、敵国条項が時代遅れ(obsolete)であることが認識され、削除(deletion)へ向けての憲章改正手続を開始する意図を表明する総会決議 (A/50/52)が、賛成155、反対0、棄権3(北朝鮮・キューバ・リビア)に拠り採択された。
此れが所謂「死文化」の決議に当たる。
2005年国連首脳会合成果文書
更に、2005年9月の国連首脳会合に於ける成果文書にも "時代遅れとなった「敵国条項」を憲章から削除する" と明記されている(https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/921/)。
なぜ死文化なのか
国連憲章の改正は「総会を構成する国の3分の2の多数で採択され、かつ、安全保障理事会の5常任理事国を含む国連加盟国の3分の2によって批准されて可能となる(国連憲章の改正|国際連合広報センター)」が、之には各国の国内手続きを含め膨大な労力が掛かるので「敵国条項の削除」は実現していないが、其の労力を必要としない「死文化を確認する総会決議」に依って「敵国条項」は死文化されているのだ。
抑々、死文化まで確認されている「敵国条項」について、我が国やドイツ等の敗戦国以外の国が労を掛けて云々する理由がないのである。
敵国条項の削除
また、実際に「敵国条項の削除」を行うとして、日ソ共同声明に於いて「敵国条項」を「意味を失っている」と確認したソビエト連邦の後継国であるはずが、北方領土問題について敵国条項を持ち出すロシア連邦は確実に反対することだろう。
我が国固有の領土である尖閣諸島の領有権を主張して領海・領空侵犯を繰り返す中華人民共和国も、同じく反対することが予想される。中露が反対する即ち「安全保障理事会の5常任理事国を含む国連加盟国の3分の2によって批准」が叶わないことを意味する。
可能性があるとすれば、ロシアがウクライナ侵略に関連して壊滅的状況へと追い込まれ、中華人民共和国も同じ道を 経済破綻に由ってか台湾有事に由ってか 辿り、中露の力が消し飛んだ場合であろう。
実際問題
然し、「敵国条項の死文化」は国連決議に於いて確認されているのであり、中露が発動しようとも西側諸国が其れを容認する筈がないこと、ロシアも脅しに「敵国条項」を利用するものの、我が国の集団的自衛権の行使の限定容認(第二次安倍晋三政権)や防衛費の倍増(岸田文雄政権)、反撃能力の保有(岸田文雄政権)等に対して発動を匂わせすらしなかったこと等から、現実的に発動されることはほぼ有り得ないと言って良い。
仮に我が国が核武装を行うとしても、我が国と同じく「敵国条項」の対象であった独伊がアメリカとのニュークリア・シェアリング(核共有)を行っており何ら問題が起きていないことから、此の場合も問題ないだろう。
また、核保有は現行の憲法第九条と照らしても可能であり、米国に於いて我が国の核武装が少なからず議論されているが、此処でも敵国条項云々という話は出ていない。
此れ等を鑑みるに、国連憲章に於ける「敵国条項」は死文化されており、我が国が他の国連加盟国と異なる扱いを受けることは、現実として考え難い。
世界は既に「連合国 vs 枢軸国」から「西側 vs 東側」へと体制を変化させているのであって、西側諸国にとって対東側の最前線に位置する我が国が敵国条項云々といって蹂躙され奪われることを容認する理由はないのである。
とはいえ、敵国条項云々に関係なく、ウクライナを侵略して2年以上が経過するロシアは我が国の北方領土を不法占拠し続けている隣国であり、近頃きな臭くなっている北朝鮮と韓国は飽く迄も「休戦」状態であり、中華人民共和国が台湾有事を起こした場合は我が国もほぼ確実に巻き込まれる。
「敵国条項は死文化されている」という事実は、決して「我が国が攻撃を受けることは有り得ない」を意味するのではない。だからこそ、岸田文雄政権は防衛力の抜本的強化を急ぎ、我々国民の命を護ることのできる環境を整えようとしているのだ。
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