20才、ある日のカニ

朝っぱらから喧嘩した
起きてから気分が悪くて「気分が悪いから帰る。」と言ったら心配した顔で見つめてきた
でもそれが、実験されているネズミを見るような目に見えてしまって「そんな目で見ないで。」と言ったんだ
とても不快だったから

それ以降、彼女はこっちから聞かれるまでは口を閉ざした
「焼きそばでいい?」
『別にいいんじゃない』
「できたよ」
『・・・・』
「帰るよ」
『・・・・・・』
無視することないだろと言いそうになったが、先に攻撃したのはこっちだ
それに、もう一人になりたいという思いが勝ってしまった
あの焼きそばほど不味いものはなかった。

帰ってからすぐに布団に入って起きたのは19時
スマホを眺めてようやく立ち上がったのは20時半
パスタを胃に詰めた今、21時13分

今日はなんだか寝れなそうだ。多分夜中も自分のしたことを考え続けるだろう
吐き気がしてきたので忘れていた薬を流し込んだ

見ないふりをするかのように映画を観た
どうしようか、今から借りたいと言っていた本でも持っていこうか
それを口実に謝れるだろうか。でもそれが何になるんだろうか

傷つけてしまったんだ
言ってしまえばもう、遅いんだ

今日は一緒に食べようと思っていたものがあったのに。
もう何か食べただろうか
何も食べれないほど憔悴していたら、何をしたら、言葉を還してくれるだろうか
わからない
もし今助けてくれる誰かが現れたら、頭の先からつま先まで、彼の虜になりそうだ

リビングの明かりはそんな自分をよく照らす。
スポットライトを浴びれるような誇らしいことはしていないが
せめてこれ以上の闇には落ちるまい、と自分でつけたのだ

「どうしたらどうしたらと君は聞くが、そんなの僕にわかると思うかい?
 君が食べようと思っていた、ただのカニなんだよ」

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